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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

何のために

2012年05月

原油の値上がりがどうなっていくか心配です。
イスラエルによるイラン空爆が囁かれる中東情勢。
もしそうなれば、ホルムズ海峡が閉鎖される惧れがあり、
石油を輸入に頼る日本では、まったくのお手上げです。

世の中は何が起こるかまったくわかりません。
石油が高騰し、電力などの公共料金が上がるとどうなるか?
大震災や異常気象、感染症の大流行などはどんな影響が出るのか?
世界中で激変が起こると予想される2012年は、不安材料がいっぱいです。

経営者は、不安を減らすためにさまざまな勉強をしてリスクに備えます。
勉強しても分からないことは、その分野の専門家に任せればいい。
しかし、勉強をし、専門家に任せても、根本に潜む経営者の不安は消えません。
それは何故なのか?

世の中は誰も経験していない未知の問題が起こります。
バブルの崩壊、リーマンショック、そして大震災と原発問題…。
これらの事態は、誰も予想できなかったし、備えもしていなかった。
経営者が不安を感じるのは、先が読めないからではありません。
未だ見えぬ問題への対処法が分からないから不安なのです。

社員の不安も経営者と同じところに潜んでいます。
どうすればいいかわからない時、部下はリーダーの決断を待つしかない。
そんな時、失敗を恐れ、不安だらけのリーダーに誰がついて行くでしょう。
答えのわからない未知の問題にどう対応するか?
真のリーダーになるためには避けられないテーマです。

「知っている問題」と「知らない問題」

司法試験の受験指導塾「伊藤塾」を経営する弁護士の伊藤真氏が、
NHKテレビで「”司法試験流”知的生産術」という仕事術を紹介しました。
「知らない問題を解く力」を身につければ司法試験は100%受かるという内容です。

伊藤氏は大学時代、過去の問題をすべて解き、絶対に受かると信じて司法試験に挑みました。
ところが…なんと不合格。
「これだけ勉強したのに、なぜ落ちたのか…?」
失意のどん底にいたその時、ふと巡り合った一冊の本で生き方が変わります。
『ソクラテスの弁明 クリトン』(プラトン 著)の一節にあった、
~死後の世界は二つしかない~という見解を知って、ハッと……。

それは、試験には「知っている問題」と「知らない問題」の二種類しか出ないということ。
司法試験では過去の問題をどれほど解いても毎年、未知の問題が出題される。
ならば「知らない問題を解く力」をつければ100%合格することに気付いたのです。

では、知らない問題を解くにはどうすればいいのか?
それは、未知の問題に対し ⇒ 自分の価値観に基づき ⇒ 自分の頭で考えて決断する。
そして、決断した結果を ⇒ 事実と論理と言葉で説得する、ということでした。
少々難解ですが、この技術を身につけるには「基本」を完璧に理解することが重要で、
司法試験の基本とは、言葉の意味 = 概念の意味を正しく理解することだといいます。
(NHKテレビテキスト 仕事学のすすめ 伊藤真 より)

たとえば「憲法と法律の違いの本質は何か?」と問われたら、あなたならどう答えるでしょう。
私は、憲法が最上位で、その下に法律があると思っていましたが、それは大きな間違い。
伊藤氏によれば「憲法」は、国の権力者を縛るための道具として存在し、
「法律」は、国民を縛って社会の秩序を守るための道具として存在する。
よって、一般国民に憲法を守る意味はないが、政治家に憲法を守らせる義務があるという。

なるほど … このように考えるとすべての事柄には存在理由があって、
“何のために存在するのか?”の答えが「基本」になることが分かります。

「基本」は、悩み・苦しみから生まれる

経営は、知らない問題を解く「応用」の世界ですから「基本」で経営はできません。
ところが「応用」は基本から生まれたもので「基本」は応用するためにあります。
だからこそ、経営には「基本」が大切になります。
ならば、経営の基本とはいったい何なのか?
人事・財務、マーケティングなどの基礎知識に、
実践的な技能としてマネジメントの手法をマスターすることも大切でしょう。
しかし、これらの知識や技能は人から教わったもので、自分のものにはなっていません。
経営の現場では、知識や技能は「基礎」にはなるが「基本」にはならないのです。

未知の問題に対し ⇒ 自分の価値観に基づき ⇒ 自分の頭で考えて決断する…。
そう、「基本」とは、自分で自分に言い聞かせる”心構えの問題”。
「経営の基本」とは、自ら実践を通じて作り上げ、心の奥にズンと打ち込むものです。
「基礎」がなくても、盤石の「基本」を身につけている経営者がいるのはそのためです。

「誰のための商売か?」「我々の事業は何のために存在するのか?」
このような問いの答えが、実践を通じて自分のものとなり、事業の基本になるでしょう。

「何のために教育するのか?」「何のために経営するのか?」
といった問いかけを続け、そこで得られた信念がリーダーシップの基本になるのです。

そして一人の”人間としての基本”を探すようになっていく。
「私は何のために生きているのか…?」
優秀な経営者には、若い頃から、悩み、苦しみ、自問自答する習慣がある。
もっと成長し、何かを掴みたいと、高みに向けてチャレンジする習性がある。
一人の人間として自問自答を続けるその先に、あなたの基本があるのです。

"不安な心"が企業を支える原動力

「結婚に失敗も成功もあらへん。幸せは不幸の中にあるんや。不幸は幸せの中にあるんや。」
松下幸之助の妻むめのさんを描いた小説のドラマ「神様の女房」に出てきた言葉です。
むめのさんが夫婦喧嘩で実家に逃げ帰った際、母親からこのように諭(さと)されました。
この一言でスッキリと目覚め、夫のところへ戻っていったというお話です。

経営者にも同じようなことが言えるでしょう。
「苦しみ」の中に「楽しみ」があり、「楽しみ」の中に「苦しみ」がある。
だから、若い頃の苦労は買ってでもすればいい。
「悩み」の中に「悟り」があり、「悟り」の中に「悩み」がある。
だから、もっと、もっと、悩むほうがいい。

~不安は情熱をかき立て、安定は情熱を欠く ~
フランスの作家、マルセル・プルーストの言葉です。
経営者がいくつになっても勉強するのは、不安だからです。
経営者が情熱的に人の何倍もの仕事をするのは、安心できないからです。

安心できない心の状態とは、決して悪いことではありません。
不安が大きいほど、”何のために?”の答えを発見した時の感動は大きい。
そんな大きな感動が、心の深くに入り込み、ブレない経営ができるようになる。
企業の成長と発展は、経営者の”不安な心”が根っこで支えているのです。

震災復興に向けて、あらゆる企業に成長力が求められています。
不安があるから成長し、成長が新たな不安を生んで更なる成長へ向かう。
不安な心を原動力にし、それを情熱に代えてしまうリーダー。
今、そんなリーダーシップが求められています。

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