Now Loading

株式会社新経営サービス

Books
出版物

バイマンスリーワーズBimonthly Words

あきらめない

2012年07月

複雑な心境のまま、夏本番に突入しました。
国民の誰しもが心の奥で未来の人達のことを思うと、
安全でやさしいエネルギーを使っている地球の姿を望んでいるでしょう。
今回の事故を境に原発政策から脱却し、新たなエネルギーに転換したいと願います。

ところが再稼働で揺れた大飯原発のある福井県では、宿泊施設をはじめ、
建設業や小売業の雇用が失われ、急激に経済状況が悪化しています。
原発リスクを背負った地域の経済や計画停電の弊害を考えると、
現実問題として性急に脱原発を進めることは難しい。

そもそも日本の原発政策は、日本の指導者が推し進めたものなのか、疑問です。
GHQ支配下の頃から、アメリカ主導で進められた政策ではなかったか。
地震や津波だけでなくテロも想定される日本に54基もの原発ができたのは、
巨大な地雷をアメリカに仕掛けられたようなものだ、という人もいる。

経営者は企業という小国家の代表です。
世の中が大きく変わる時、企業の経営者が傍観者であってはならない。
原発推進派と反対派の真っ二つに分かれた、国民の命にかかわる重要な問題。
あちらを立てればこちらが立たず … こんな場合どうすればいいのでしょうか。

効率化と顧客満足は両立できる

江戸後期に瀕死の財政状態にあった米沢藩を建て直したのが上杉鷹山。
漫画『風の大地』の舞台となった鹿沼カントリー倶楽部を筆頭に栃木県と静岡県で、
4つのゴルフ場を経営する鹿沼グループの福島範治社長(経営者大学 2003年卒)は
何度も存続の危機に直面するも真正面から立ち向かった”平成の上杉鷹山”と呼べる。

父が倒れ、勤めていた銀行を辞めて父の会社に入社したのが98年。
それは巨額の負債を抱え、ほぼ破綻状態の会社を引き受ける試練でした。
古参社員との対立にめげず、役員の大幅削減、給与カットなどの外科手術を断行。
約二年で止血作業を終えた後、職種別賃金などにも着手し、全コースを黒字化させました。

ところが2度目の試練が訪れます。
メーンバンクの足利銀行が国有化され、民事再生法の適用申請を余儀なくされたのです。
そこで福島社長はあえてスポンサーを求めない自主再建の道を選び、地道な努力を続けます。
07年に民事再生手続き終結の決定が下り、再出発の社員集会では社員の心が一つになりました。

改革が順調に行きかけた福島社長に3度目の試練として襲った東日本大震災。
震災のあった3月は前年比50%まで落ち込んだが、常連客が戻ったのは早かった。
顧客満足度を上げるためにと、震災以前から企業理念の構築と浸透で人的サービスを高め、
コース管理にも科学的な分析を導入してリピーターの確保に努めていたのです。

震災後は、効率化のために”捨てられる仕事は捨てよう”と仕事を絞り込みます。
また、一人の社員が現場の忙しさに応じて様々な部門を担当する「マルチ化」を実現。
「震災前は効率化と顧客満足度の向上は両立できないと思っていた。非常事態に取り組んで、
初めてこの2つは両立可能だと知った」(福島社長)

民事再生法の際に安易にスポンサーを求めていたら、顧客満足はできなかったでしょう。
顧客との信頼関係を築いていなければ、効率化は実現しなかったでしょう。
福島社長は非常事態だったというが、なぜ両立が実現できたのか?

どちらが欠けてもいけないことがある

どんな企業も、いつかは存続の危機に直面します。
事故や災害、後継者問題など様々ですが、大抵は資金の危機。
資金繰りが悪化すると債権者の金融機関が経営に関わるようになり、
弱い立場の経営者は、金融機関を意識した経営に陥ってしまう。

資金を健全に回すには、顧客を向いた経営に戻さなければなりません。
資金繰りか、顧客満足のどちらが大事か、と迷っているとどちらも力が入らない。
経営には”どちらを取るか”ではなく
“どちらが欠けてもいけない”ことがあるのです。

きものを着て婚活をする”きもの de 婚活”というイベントが京都でありました。
男女各100名の定員に、男性が約380名、女性は約2400名もの応募があり、
「きもの離れ」と「結婚しない若者」という根深い問題が同時に解決に動き出しました。

日本中を講演して回るクロフネカンパニーの社長・中村文昭氏が、
二つの社会問題を同時に解決する”耕せにっぽん活動”に取り組んでいます。
食料自給率が危機的状況の中で、離農が進み荒れていく地方の農村に向けて、
都会で増える”引きこもり”や”ニート”の若者を就労させるというものです。

一見、無関係に思われる二つの問題が、見えない地下茎でつながっていた。
切っても切れないほどの深い関わりを持ちながらその時を待っていた。
そこには世相を的確にとらえたリーダーの課題認識力があったでしょう。
しかし、それ以上にもっと強力な何かが存在していたのではないか…。

信じることをあきらめない

その何かとは”あきらめない”リーダーの情熱でした。
福島社長は、どんな状況に置かれても会社再建をあきらめなかった。
ところが、会社再建は「社員があきらめないで実行する」ことで実現するわけで、
リーダーが”あきらめない”のは当たり前。
では、人の上に立つリーダーがあきらめてはいけないこととは何か?

昨今の経営者は熱心に人材育成に取り組みますが、そう簡単に成果は出ません。
何年かは人を育てようとしますが、結果が出ずにダメを出す経営者が少なくない。
それは社員へのダメ出しというより、自分の政策にダメを出している。
そう、短期間で成果を求めるような人材育成は、本気ではないのです。

福島社長は”社員を信じること”をあきらめなかったのです。
どんな状況でも社員教育を続け、200人の社員一人ひとりと面談し、
いつか必ず成果を出してくれるに違いない、と信じることをあきらめなかった。
効率化と顧客満足という”どちらが欠けてもいけない”難しいテーマでも、
リーダーが信じきったから、社員もリーダーを信じ、実行できたのです。

他人のことが信じられないリーダーは、自分の可能性を信じていません。
自分の可能性を信じているリーダーは、他人の可能性も信じることができる。
他人を信じられないリーダーは、何をやっても疑心暗鬼で成果も出ない。
他人を信じる心が、リーダーの自信を生み出す源泉なのです。

電力会社、政治家、そして国民の誰しもが安全でやさしいエネルギーを期待しています。
そのために、経済が失速してはならないことも充分に承知している。
しかし、国や電力会社の情報は曖昧で、事故原因の究明も発表もない現実。
信じたいけれども、国家のリーダーに対する国民の信頼が揺らいでいる今の日本。

電力不足のこの夏をどうやって乗り切るか、いろんな辛抱が必要です。
今の時代に生きる私たちは、ここで間違った判断をしてはならない。
やさしいエネルギーと経済が両立する国家建設をあきらめてはいけない。
それは、子供たちの 子供たちの 子供たちの幸せのために…。

文字サイズ