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バイマンスリーワーズBimonthly Words

半分従い 半分逆らう

2012年03月

リーダーシップの発揮が難しい時代です。
大いなる期待を集めて迎えられたリーダーでも、
結果が出なければ周りは失望し、次の人物を探し始める。
政治の世界では、もう何年もこんなことを繰り返しています。

その原因は、内部的な意思決定構造の問題がほとんどです。
ねじれ国会で賛同が得られず、党内も派閥や政策不一致でバラバラ。
強烈な個性で改革の旗揚げをした関西の市長によってグラグラと揺れている政界。
簡単には改革できないのが現実で、リーダーシップの欠如と批判されても仕方ありません。

企業の経営者もまったく同じ。
高度成長期では、売上拡大、給料アップ、福利厚生の改善など、
総じて社員も経営者も、右肩上がりの方向性で一致していました。
ですから「黙って俺についてこい!」がリーダーの見本とも言えたのです。

企業の経営者もまったく同じ。
高度成長期では、売上拡大、給料アップ、福利厚生の改善など、
総じて社員も経営者も、右肩上がりの方向性で一致していました。
ですから「黙って俺についてこい!」がリーダーの見本とも言えたのです。

しかし今は、社員の幸せを真っ先に考える経営者でも、
賃金カットや人員の削減など矛盾する決断をせざるを得ない時があります。
危機を打破するために必死で考え抜いた案でも、それは無理だと反対される…。
あちらを立てれば、こちらが立たず… とかくに難しく困った時代です。

無理な要求をする社長に対し、愛想を尽かす幹部。
あまりにも危機意識の低い幹部に不満だらけの経営トップ。
どちらの思いも、片方の話だけを聞いているともっともな話ばかり。
いずれにせよトップと幹部の心が重なっていないと、存続は難しい。

「従う力」が「逆らう力」を生む

自然災害が続いた江戸末期に600カ所の農村を指導し、
多くの人々を災害や飢饉から救った二宮尊徳。
その七代目の子孫 中桐万里子氏が、大震災の復興に直面する私達に
「水車の理論」なるものをわかりやすく紹介しています。

水車の下半分は水の流れに従わなければ回りません。
しかし、上半分はその流れに逆らわなければ、水車の用を為さない。
つまり「半分従い、半分逆らう」の姿勢を取ることで水車は水車となり、
人間の生活を助けるという、尊徳が唱えた実践の哲学です。

「従う」とは腹を決めて受け入れて、相手を良く知ることであり、
「逆らう」とは工夫をして、実践することだと中桐氏はいう。
相手を知るというのは、単に情報を集めることではない。
従うことによって、自分の目と感覚で眼前のことを判断するのです。

尊徳は、敵に見える相手を味方にする達人でした。
災害に遭った村の人たちは、誰しもが「災害さえなければ、実るのに…」と考えます。
ところがこの考えは、大自然に対して”無力”なのではなく”無知”なだけ。
どんな脅威であっても、必ず逆らうことはできるというのが尊徳の実践哲学です。

飢饉から村を救った尊徳のエピソードがあります。
ある年、田植えを終えた頃に茄子を食べたら「秋茄子」の味がした。
おかしいと感じた尊徳は冷夏の到来を予測し、
植えたばかりの米の苗を、冷害に強い稗や粟に植え替えさせたのです。
そして予想通り冷夏で凶作(天保の大飢饉)となりましたが、
尊徳の村では一人の餓死者も出ませんでした。

偉大な経営者は"水車の理論"の信奉者

昭和36年、松下幸之助が率いる松下通信工業に発注先のトヨタ自動車から、
カーラジオの20%値下げという大幅なコストダウン要求がありました。
困り果てて断ろうかと考えていた幹部たちに、幸之助が質問します。
「どうしてトヨタはこういう要求をしてきたんや?」

トヨタの要求の背景には、当時の貿易自由化問題という大きな流れがあり、
対応を間違うと日本の自動車産業が滅んでしまう、という危機感がありました。
「なるほど、そうか…。君らは無茶な要求やと驚いてるがトヨタさんは業界全体、
さらには国のためを考えてるんや。松下一社の話とは違うんや。
これはなんとしてでも値を下げねばならん」

結果、松下はコストダウン20%を達成し、トヨタも販売台数という形で応えます。
そして、ラジオ以外の製品にもその手法を応用し、競争力を高めることに成功しました。
「これが5%程度だったら成功しなかったかも知れない。大幅な要求だったので、
今までの考え方を根底から切り替えて大幅なコストダウンが可能になったのだろう」
と、幸之助氏はのちに述懐しています。

松下電器は大きな流れにひるむことなく、流れに沿うのがうまかった。
売れると見れば、一つか二つを改良し、販売力で勝負する松下商法は、
「まねした電器」と揶揄されましたが、じつは「水車の理論」に沿っていたのです。

技術と芸術を融合させた天才、スティーブ・ジョブズの言葉です。
「僕が使っている言葉も数字も僕が発明したわけではない。
同じ人類の先人たちが作ってくれたものなんだ。
僕は心の奥底にあるものを表現しようとした。
先人が残してくれたあらゆるものに感謝しようとしてきた。
そして、その流れに何かを追及しようとしてきた。そう思って僕は歩いてきた」  ~ 伝記「Steve Jobs」より ~

「融合の天才」とも言える彼のアイデアは、いつも誰かの真似だと非難されましたが、
このジョブズ氏の思想も「半分従い、半分逆らう」の考えに近いものがあります。
カルフォルニアの禅センターで修業をした「禅」の修行者でもあった氏は、
大きな時代の流れの中に、常に物事の本質を求めた事業家でした。

「従う」と「逆らう」は陰陽の関係にある

「一円融合」という二宮尊徳の思想があります。
この世で相対するものは別々に考えるのではなく、一つの円の中に入れて考える。
その円の中で互いに働き合い、一体となることで結果が出るという。
水車の理論の原点は、この「一円融合」にあります。

経営トップと幹部の心が一つの円の中で働き合っていれば、企業は盤石です。
ところが少しの感情のズレで心が離れている企業がいかに多いことか…。
陰陽の思想で考えれば、陽と陽が反発し合っているのです。
そこで、どちらかが陰の役割になれば、陰陽調和の関係になる。
トップからでも、幹部からでも、どちらが先でもいい、
相手の流れに従うことで、新たな進展があるでしょう。

しかし、どうしても話が合わない相手、納得できない考えの時はどうすればよいか?
そんな時は、従うわけでも、逆らうわけでもなく、目をつぶって受け入れてみましょう。
そして”おかげさま”の力を借りて、
「あなたのお陰で、私の考えも深まります…」という心境になればいい。

~ 陰は陽なり 陽は陰なり ~
相手と合わないのは、自分の嫌な面を相手が持っているからです。
対立していた考え方も、相手の中に自分があることに気づくと、
お互いを理解するようになり、融け合っていくでしょう。

大震災から一年たちました。
天災と原発事故に逆らっていくのはこれからです。
私たちは先人が残した偉大な智恵と現代人の英知を結集させ、
流されない人間として堂々と生きていきたいと思います。

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