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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

先憂後楽

2015年01月

新年明けましておめでとうございます。
本年もバイマンスリーワーズ、そして新経営サービスをよろしくお願いします。

“今なら勝てるから”と政権継続を狙った衆院選は与党の圧勝でしたが、
さて、この体制で本当に経済の立て直しができるのでしょうか。
政府は日銀に追加の金融緩和を要請し、円安と株高が加速。
輸出主体の大企業や外資系企業にとっては追い風になりました。

しかし、中小企業は円安による輸入コスト上昇が経営を圧迫し、
生活必需品の値上げによって、実質賃金は下がっている人が多い。
総額1000兆円、国民一人当たり800万円余りの借金を抱える国が、
高度成長時代のような金をばらまく政策をこれからも続けていいものか…。

この情勢は日本経済が破綻する予兆のように思えてなりません。
人口減少が続く国家なら、経済全体が縮小するのは当然であって、
日本が向かっている方向は、自然な流れに逆らっているのではないか?
なぜ年金の財源までも株に流用するのか、そこには影の力が働いているのでは…。

この場にいたって陰謀論を展開しているのではありません。
日本には、デフレから脱出できるか?よりも深刻な問題がある。
それは、デフレであれインフレであれ、日本が経済活動で得た富は、
悉くアメリカに吸い取られてしまう構造になっているのです。

「アメリカの言いなりでアベノミクスを続けていく政府が日本を統治している限り、
荒涼たる未来が日本を待ち受けている」
勇敢にもこんな警告を発する”青い目の経営者”がいます。

日本の経済は6割にまで縮小する?

「人員のリストラを回避するために、今から準備せよ!」
ソフトウエア企業 アシストの創業者 ビル・トッテン氏の言葉です。
日米の経済関係にも詳しい氏は、リーマンショックが起こる以前から、
日本経済は6割にまで縮小する可能性がある、と警告を続けていました。

トッテン氏は米国で経済学博士号を取得した後、ビジネスのために来日し、
日本的経営に強く惹かれ、06年には米国籍を棄て、日本国籍を取得。
現在、会長を務める会社は800名を超える規模にまで成長させ、
本社は東京ながら、自宅は家庭菜園のできる京都にあります。

社員に対するこんなメッセージもまったくぶれていません。
「アシストは終身雇用で、不景気になっても社員をリストラしません。
だから経済が暴落したら、累進、つまり給料の高い者から順に給料を減らします。
総額として4割カットしますが、そのかわり週休4日にしたい。
経営者の義務とは株主のために利益をあげることではなく、社員の健康と幸福を守ることです」

「私は会社や社員を守るが、社員にも守ってもらいたいことがあります。
まず買い物中毒を治すことで、ブランド品、海外旅行、電気製品、ファッション…。
もう一つは、衣食住に関することをできるだけ自分でやること。
裁縫、大工、家庭菜園など、そういう技術を身につけることで」

トッテン氏の方針は最悪のシナリオを想定したもので、決して悲観論ではありません。
危機管理とは最悪を想定することに意味があり、「想定外でした」では通らない。
経営者には経済面の貢献よりも大切な仕事があるのではないかとつくづく思う。
それは世の中の情勢をみながら、人々を最適な方向に導くことではないか…。

異国の地で創業し、ぶれない経営を続けているトッテン氏。
母国を捨ててまで日本に肩入れするのには、大きな理由があった。
氏は米国の大学院で「論語」を読むように薦められ、強く惹かれたという。

戦前まで論語を軸にした儒教による道徳教育を行ってきた日本。
松下幸之助、出光佐三、立石一真、本田宗一郎…。
戦後に活躍した偉大な経営者には皆、儒教などの基本思想があった。
トッテン氏は彼らが成功した日本的経営を学び、実践していったのです。

「私は正しい」は組織を危うくする

~ 先憂後楽(せんゆうこうらく) ~
人の上に立つ者は先んじて犠牲を払い、
天下国家の問題を人民よりも先に立って心配し、
人民が喜ぶのを見てから、後に楽しむべきであるという。
儒教の思想で、岡山と東京の「後楽園」の名はこれに由来しています。

天下国家といわずとも、身近な家庭や職場でも同じこと。
子よりも親が、弟よりも兄が、部下よりも上司が、まず犠牲を払う。
日本の経営者は、常に最悪の事態を憂慮し、いざという時に備えてきました。
内部留保を充実させ、対外的な信用を大切にする背景にはこんな思想があったのです。

ところが近年では、計画的な倒産や、法律の網目をくぐり抜けるような、
姑息な方法を選ぶ経営者が増えているようで、残念でなりません。

経営者には、もう一つ”心の先憂後楽”が求められます。
人は誰もが”私は正しい”と思って生きています。
心の奥で自分を認めなければ、ものごとが前に進みません。
しかし”私は正しい”と思う心が強すぎると、相手が悪者になり、
不満が生まれ、それが怒りとなって最後には争いにまで発展してしまう。

若いうちは、経験は未熟でも記憶力、処理スピードなどの性能は抜群です。
ところが歳を重ねると知識や技術は積み重なるが、ミスやもの忘れも多くなる。
経営者は”私の考えが違っているかもしれない…”くらいに思っておくほうがいい。
そんな経営者の態度が若い力を成長させ、組織の成長につながるのではないでしょうか。

デフレ脱出よりも大切なことがある

~ 焼け野の雉子 夜の鶴 ~ (「雉子」キギスはキジの古名)
キジは巣のある野を焼かれたら、自分の危険もかえりみず子供を救おうとし、
鶴は霜の降りる寒い夜に翼で子をおおって暖める、ということわざです。
先人は子を思う親の情が深いことを、鳥にたとえて教えました。

最近は残念なことに、親が子供に虐待を重ねる事件が多発しています。
経済的に豊かでも、基本的なことができないような人間であってはならない。
孔子はまず親孝行の大切さを説き、兄弟仲良く家族を大切にせよと説き、
そして、いくつになっても学ぶことの大切さを説きました。

儒学の祖である孔子の学問は権力を持つ支配者に向けたものです。
戦後、日本はGHQによって論語などの道徳教育をやめてしまいました。
結果、戦前に道徳教育を受けた人達による経営は過去のものになってしまった。
今は、詰め込み教育しか受けていない私達の世代が政治をし、経営をしているのです。

デフレから脱出できるかどうかは、まったくわかりません。
仮に抜け出したとしても、国家的な経済危機はまだまだ続きます。

国の経済が6割まで落ち込むはずがない、と言い切れるでしょうか。
20年の東京五輪までは、何とか維持できるかもしれませんが、
その反動は大きく、国家財政が破綻する可能性もあります。
先に米国の財政が傾けば、日本は一挙に後退するでしょう。

敗戦国家の後遺症は、今も様々なところに残っています。
社員とその家族、取引きをしていただいている方々、そして、
未来の子供たちのために、決して戦争をする国家にしてはならない。
まずは経営者として社員を守り、顧客の発展に全力を尽くしていきたい。

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