バイマンスリーワーズBimonthly Words
徳は才の主なり
政府の要請により、好決算の大手企業はベースアップと定期昇給を行う予定。
一方、中小企業では原材料の高騰や光熱費のコスト増が重荷となり、
じわじわと円安とインフレ誘導が経営を圧迫してきました。
いつの時代も中小企業の給料は簡単には上げられません。
社員が成長し、業績が好転したのなら気持ちよく昇給できます。
しかし、政府の要請で上げるというのも経営者としては残念であり、
そんな理由なら恩恵を受けた社員のほうも腹の底から喜んではいられない。
会社に余力がないのに無理に昇給し、会社が傾いてしまったら元も子もありません。
1円でも多く欲しい社員側と、少しでも人件費を抑えたい経営側。
労使が対立した時代では、お互いの利害が給与で対立する関係でしたが、
その後は、雇用形態、福利厚生、定年制など人事全般の問題に亘りました。
大手と違って中小企業の経営者は、どのような人事方針を持てばいいのでしょうか。
近年、「大家族主義経営」を掲げる中小企業の経営者が増えています。
稲盛和夫氏の京セラ・フィロソフィー「大家族主義」の影響もあるのか、
利益を優先するのではなく、社員を家族のように信頼し大切にする経営です。
まずは「顧客第一」のはずでしょうが、社員の幸せを優先させるのは何故なのか…。
大手企業になっても、人間尊重の「大家族主義」を貫いた出光佐三。
積極果敢に石油メジャーに挑戦し、独立系の石油商社として活躍しました。
「出光は人間をつくることが事業であって、石油業はその手段である」
と喝破(かっぱ)した出光の思想には、経営の神様 松下幸之助にも通ずるものがあります。
やさしい会社と大家族主義は違う
出光の人事方針には七不思議と呼ばれるものがありました。
1.定年がない 2.首切りがない 3.出勤簿がない 4.労働組合がない
5.給料公示がない 6.残業代を受け取らない 7.給料は労働の対価ではない。
1911年の創業以来貫いてきた方針で、2006年の株式公開で労務制度は整備されましたが、
「首切りがない」「労働組合がない」は、今も厳然と残っています。
大家族主義を「家庭的な雰囲気で…」と思ったら大きな間違いです。
「出光ではなまぬるいことはやりません。努めて自分から難関に向かい、いばらの道に入って、
自分を鍛え上げる。(中略)本当の愛情とは、身をもって若い人を導いていくことである。」
『出光佐三 「日本人にかえれ」卒業証書を捨てよ より』
本当の大家族主義は、社員が物心両面を会社に預けてしまう覚悟がいります。
家庭的で、暖かい雰囲気を求めているような社員では務まりません。
一般社員は、成長するために自分で自分を厳しく鍛え上げ、
幹部社員は、部下を厳しく指導し育てる、人間修練道場のようです。
大家族主義を貫くには、経営者にとっても簡単ではありません。
定年制をなくし、健康で本人の意思さえあれば、雇用し続ける。
また給料や賞与の支払いも遅れることなく、できるだけ早く支払う。
どれほど苦しくても、社員への支払いを遅らせるのは経営者の甘えです。
「大家族主義」の考え方は、日本では社員にとどまらず広がりました。
仕入先や協力業者の人達も同士であり「大家族」の一員とする考え方です。
また、同業者も「大家族」として考えて、発展したのが業界団体になりました。
ところが、私達にもっとも近い「顧客」との関係は「大家族主義」とはなりにくい…。
手法が過ぎると 人格が透けて見える
ステルス・マーケティング(通称”ステマ”)という手法があります。
レーダーではとらえ難いステルス戦闘機に倣ったもので、
消費者に気づかれないよう宣伝するテレビ番組や飲食店の口コミサイトです。
ステマは現代版の”サクラ”で、WEBやマスコミを巧みに使うので効果は大きい。
それにしても一般の広告効果が低下しているとはいえ、消費者にわからないように誘導し、
ケースによっては偽りの情報を伝えるという、小賢しいやり方はいかがなものか…。
その心理の奥にあるのは、料理・飲食業界のメニュー偽装問題や、
食品の賞味期限問題などと、大きく変わらないのではないか。
~ 徳は才の主(しゅ)にして 才は徳の奴(ど)なり ~
「人徳は才能の主人であり、才能は人徳の使用人である。才能が豊かでも、人徳が備わっていなければ、
主人がいない家で使用人が勝手に振舞っているようなものだ。
才能のある人間は、人徳を高めないと暴走して手が付けられない存在になる。」 『菜根譚 前集140項』
ステマなどのPR手法、顧客開拓や顧客満足の方法など、巷には経営手法が溢れています。
経営の手法はそれが巧みであるほど、その奥にある経営者の思惑が透けて見える。
「大切なお客様を騙すような経営者なら、私達も騙されているのではないか?」
社内事情を知っている社員は、そんな不信感を抱いてしまいます。
中小企業が大家族主義で社員の成長を支援し、守ることは真にすばらしい。
しかし、ブラック企業と呼ばれないための言葉だけの見せかけや、
誕生会などのイベントをやるだけの大家族主義では限界がある。
そう、極限状態に追い込まれた時に、経営者の真の人格が表われます。
出光佐三がそのことを証明しています。
敗戦で再起不能な状態のところへ、海外にいた千人余りの従業員が引き揚げてきました。
幹部は「大量解雇はやむを得ません」と佐三に訴えたが、氏は激怒してこう語った。
「君たちは、店員(社員)を何と思っておるのか。店員と会社は一つだ!
家計が苦しいからと家族を追い出すようなことができるか。事業は飛び、借金は残ったが、
会社を支えるのは人だ。人を大切にせずして何をしようというのか!」
(Bimonthly Words vol.62 vol.67 において既紹介)
これは、分析、採算性、経営判断といったマネジメントの世界を超越しています。
世間では、出光佐三 自殺説が噂されるほど追い込まれていましたが、
事業が飛んでも命がけで人間尊重の「大家族主義」を貫いた佐三。
優秀な人材を束ねるのは「人徳」であることを証明した人でした。
人徳で経営はできる
経営にも様々な手法やテクニックがあり、うまく活用すればいい。
しかし、「大家族主義」は経営者の根本哲学であり、手法ではありません。
どう考えても昇給できない時はできないし、上げられる時に上げればいい。
人の問題には策を弄さず、人徳で臨むのが経営者の姿勢ではないでしょうか。
経営者も人間であり、スーパーマンではありません。
戦略立案、マーケティング、人事や財務などの能力が求められますが、
あまりにも幅広く深いため、才能がないと勉強をあきらめる経営者が少なくない。
しかし、ここで少し考え直していただきたい…。
実務が出来なくても、人徳があれば経営はできます。
ここぞという時、トップが私達を裏切ることはありえない…。
結果はどうであれ、トップは自分を犠牲にして私達を守ってくれる…。
経営者の人柄を社員が心底から信じている…これが「人徳」ではないだろうか。
「万象具徳」という言葉があり、すべてのものに徳が具わっているといわれる。
人を信じ、決して見返りを求めない「徳」の心は、誰もが持っています。
そんな「徳」を磨くのに才能は要らないのです。
日本もテロの脅威にさらされる国になってしまいました。
これまでアメリカに追従するしかなかった日本は、
こちらを立てれば、あちらが立たずで、どちらに向かうのか…。
地球規模の「大家族主義」で乗り越えることができないかと願っています。
人には父と母が2人いて、祖父母は4人、その親は8人と倍々に増える。
十代前(約300年前)は1000人、二十代前(約600年前)は100万人、三十代前(約900年前)は10億人。
ならば、900年前の日本に少なくとも20億人いなければならないが、当時の人口は約3千万人でした。
従ってあなたの親と私の親は同じかもしれません。
私たちは時を遡るとみんな親戚や兄弟なのです。
【古村 豊治 著「成功の宇宙法則」 より要約】