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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

随処に主となれ

2015年05月

「中小企業が賃上げに踏み込むかどうかにかかっています」
経営を知らない政治のトップが中小企業にまで賃上げを要求しています。
ここで給料を上げないと「なんてケチな経営者か…」と社員からの不評を買う。
待遇を良くしたいのは山々だが、法定福利費が相当の負担になっているのをご存じか…。

企業は社員の健康・年金・雇用への補助を続けてきました。
法定福利費は経団連の1970年の調査で、給与総額の5.8%でしたが、
2013年度は14.7%、1カ月1人当たりで 81,258円にまで膨らんでいます。
一方、食費や住宅補助などの法定外の福利厚生費は、抑制傾向が続いています。

中小企業における社員への福利厚生は、まだまだ改善する余地があります。
ところが、法定福利費の負担は上がり続けており、すでに限界に近い。
適度な福利厚生は社員への栄養になるが、一線を超えると麻薬になり、
会社に頼ってぶら下がる社員を増やしてしまう可能性があります。

国や公共団体からの支援にもさまざまなものがあります。
経済的に困窮する人の自立を支援する「生活保護」も良い制度ですが、
支給総額は4兆円、国家予算の約1割にまで膨らみ、不正受給も急増しているという。
正しく受給している人が白い目で見られる悲しい問題も起こっています。

会社に頼りがちな社員は、制度やルールに甘えるようになり、
仕事をやらされている、という被害者的な意識になりやすい。
言わないとやらない、言うと嫌々やる、やってもそれが続かない…。
ありがたい仕事なのに”やらされ意識”で仕事をする集団になってしまう。

「何をしてもらえるか」ではなく「何ができるのか」

以前にも紹介した中村久子さんは真に自立した人でした。
3歳で特発性脱疽という難病で両手両足を失った久子さんは、
美しい文字を書き、料理、縫い物を見事にこなす技術を身につけました。
ところが、国からの障がい者への支援金は、生涯受け取らず生き抜いたのです。

久子さんの言葉です。
「役場から扶助料をいただけば、生きてゆかれるということを聴きましたけれど、扶助料はいただきたくない。
なぜならば、扶助料はもとを正すと日本のお国の大切なお金でございます。手も足もない者が徒食をするために、
尊いお金をもらってはいけない。働いてゆこうと思いました」 【「中村久子の生涯」春秋社 より】

なんて強い人でしょう。
“頼らずに生きる”という強い自立心は、生きるための技を育てました。
その腕前は、来日したヘレン・ケラーに贈る日本人形を自分で作ったぐらいです。
磨いた技を見世物小屋で披露して生計を立て、結婚をして二女をもうけています。

自分の足でしっかと立ち、自分の力で生きていく…。
こんな気概をもった人物が、あなたの会社にどれだけいるか。
「何をしてもらえるか?」「どんな福利厚生があるのか…」
会社に甘えた意識で仕事をする人が少なくありません。

権利が先行し、義務が後回しにされる世の中になっています。
「私は何をしてもらえるか」と考えるのではなく、
「私には何ができるのか」が本筋ではないか。
受け身でなく、自分を主体とする社員がいる会社は強い。

経営者よ 甘えるなかれ

~ 随処に主となれば 立処皆真なり ~
臨済宗の開祖 臨済義玄禅師の教えです。
いつ、どこにいて、どんな立場でも、何ものにも囚われず、
常に主体性を持ち、力の限り生きるなら、そこには真実がある。

「随処に主となる」というのは、自己中心的であれ、という意味ではない。
「オレが、オレが…」と自分を前面に出せ、という意味でもない。
仕事をやらされるのではなく、研修に行かされるのでもなく、
何ごともチャンスと捉え、自ら主体者となって動く。

権限のない社員であっても「主」になることはできます。
お客様とはいつも会社の代表者としての心構えで接し、
社内の会議では、常に経営者の立場で考えて発言をする。
ならば権限がなくても、社長を使えるぐらいの力がつくでしょう。

そして、この教えは権限を持ったリーダーの本質に迫ります。
~「私は何をしてもらえるか」ではなく、
「私には何ができるのか」が本筋ではないか ~
じつはこのテーマ、経営者自身への問いかけなのです。

経営者になると誰もがわがままになり易い。
部下を育てるために”やらせてみる”のは大切だが、
経営者がやるべき身の回りのことまでさせて、文句をつける…。
「自分自身が経営者としてやるべき仕事をちゃんとしていないのに、
部下の仕事ぶりには不満をいうとは何事か!」…と禅師ならば言うでしょう。

わがままの根っこにあるのは”甘え”です。
甘えた心で”やらせる”から”やらされ意識”の社員が生まれてくる。
仏教寺院では大僧正であっても、掃除などのお勤めを欠かしません。
“随処で主となれ”は”経営者よ、甘えるなかれ”の”喝!”に聞こえます。

自立しようと思う心に価値がある

教育の本質は「自立」にあります。
未熟な時は、細かな世話と指導をし、力がついたら突き放す。
そしてまた、頼ってきたら、自分で考えさせ、失敗をさせ、また突き放す。
これらの行為はすべて本人が「自立」できるように指導・教育しているわけです。

人間なら誰しもが”何かに頼りたい、すがりたい”という心境になります。
そんな時、会社からの支援があれば救いであり、本当にありがたい。
人、物、金が不足する中小企業の経営者も、何かにすがりたい時がある。
そんな時、国や団体、親会社などから支援があれば頼りたくなるのも人情だ。

そう、社員も経営者も、それぞれに依存心をもっているのです。
企業は様々な人たちの力添えのおかげで成り立っており、
本当は、人も企業も独りで立つことはできません。
だからこそ、できるかぎり頼らずに、やれることは自分でやる。
自立することよりも、自立しようと思う心に価値があります。

中小企業を支援する公的な補助金や助成金は、
大いに活用すべき制度だが、頼らないようにしよう。
親会社や大口顧客とは、柔軟なお付き合いをするが、
甘えない、頼らない、という毅然たる姿勢を貫いていこう。
そんな主体性のある経営者の姿勢を、社員は自然に学んでいるのです。

補助金や助成金、介護サービスの報酬などの本年度予算が削られる一方で、
防衛予算は過去最高の4兆9,800億円と3年連続の増加です。
自衛隊の海外活動範囲が大幅に拡大しているためというが、
これは防衛予算ではなくて”攻撃予算”ではないか…。

自立した国家に向けて、戦争や税金の無駄遣いをしてはならない。
非暴力を貫く、真の平和国家を目指していこう。
私たちは中小企業経営者としての本分を尽くしましょう。
それは常に主体性を持って、社員を守ることに他なりません。

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