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バイマンスリーワーズBimonthly Words

無用の用

2015年09月

日本の文化は”間(ま)”を大切にしてきました。
たとえば、墨の濃淡だけで自然美を表現する水墨画。
月の周りを描くことで「白い空間」を厳然と存在させている。
描いていない空間が、堂々と主題となって配置されているのです。

“間”にはいろんな意味が含まれています。
居間、すき間、奥の間などの空間的な意味合いと、
つかの間、間もなく、間をあけるなど時間的な意味もある。
そして、仲間、世間など、人と人との関係を表わす間があります。

気が置けない「仲間」と、ワイワイガヤガヤとやる時間は楽しい。
自分と相手の間にある”何か”でつながっている人間。
それは、SNSなどの通信手段のことではなく、
目に見えない「絆」のようなものでしょうか。

ところが、この「仲間」が曲者で、良い仲間と良くない仲間があります。
日本を代表する大手企業の不正な会計処理が明るみに出ましたが、
経営陣が悪質な”保身の心”でつながっていたのかどうか、
ヒット商品もなく、赤字が続いた苦肉の策のようです。

儲かる商品を揃えて経営できたら、こんな楽なことはありません。
しかし、ヒット商品の裏には数えきれない失敗がある。
販売促進の企画が大当たりする確率も極めて低い。
意味のない失敗をせず、儲かる経営ができないものか…。

マイナンバー制度の導入、顧客情報の保護問題なども、
なにかと手間がかかるだけで、全く利益のでない仕事です。
社会保険の手続きや、税務調査の対応なども、コストがかかる。
しかし、無用な仕事と考えて手を抜くとブラック企業の仲間入りに…。

失敗と成功は 無用と有用の関係に同じ

老荘思想の大家『荘子』はこう語りました。
「~「無用」がなければ「有用」も存在しない ~
役に立つもの(有用)は、役に立たないもの(無用)で成り立っている。
たとえば、この大地で役に立つ(有用)のは、足の裏が接している地面くらいだが、
もしそれ以外の地面(無用)を掘り下げたら、君はその大地を歩けるか?」

仲間との世間話は、一見ムダな時間のようですが、
その話題の中に問題解決のヒントが隠れていたりします。
5本の映画を観て、うち1本がいい作品だったらOKでしょう。
他の4本はいい作品に出遭うためにどうしても必要な存在だった訳です。

失敗やムダが続くと命取りにつながります。
よって、少しでも余分な経費を使わないようにし、
できる限りミスをしないような経営をするのは当たり前。
しかし、一切のムダをやめ、失敗を退(しりぞ)ける姿勢はいかがなものか…。

ヒット商品は、失敗や苦しみをもとにして生まれてきます。
優秀な人材も、あきらめずに採用活動を続けることで獲得できる。
不正をしていた経営者が、税務調査のおかげで心を入れ替えた例もある。
経営の世界にも「無用」が「有用」に転ずることが多々あるのです。

「企業は経営者の器以上に大きくならない」と言われます。
中小企業の経営者には、自分の大きさをわかっているかのように、
規模を大きくしないで少数精鋭の手堅い経営をしたいという人が多い。

ところが、バブル経済では実力以上に業績があがり、
過剰な投資をした中小企業経営者が続出したのも事実です。
つまり、「企業は経営者の器よりも大きくなってしまう」のです。
問題なのは、経営者が自分の器を自覚していないことではないか…。

経営者の「器」とは何か?

老荘思想の根本である『老子』の教えがあります。
~ 無用の用 ~
「『有』がもたらす便利は『無』がその作用を発揮している。
粘土をこねて器を作るが、器には空間という「無」があるから容器として使える。
一軒の家も、空間という「無」のおかげで住むことができるのだ。これを”無用の用”という。」

誰もが茶碗の「形」や「色つや」に心を奪われますが、
じつは、お茶を入れる「空間」に茶碗として意味があります。
夢のマイホームを建てても、本当に欲しかったものは建物ではなく、
建物の中に生まれた「空間」であり、そこで過ごす「時間」なのです。

空間があり、時間があるから、建物の価値が生まれる。
どれほど立派な社屋を建てても、それは入れ物にすぎない。
経営者の判断で最新の設備を導入しても、それは道具にすぎない。
社員がやる気を出すか、否かは、経営者の「器」に依(よ)るところが大きい。

経営者の「器」とは何なのか?
それは”入れ物”のことではありません。
売上や利益、社屋や設備といった見えるものでもない。
見えている”器”を大きく見せようとすると判断を間違えます。

経営者の「器」とは”間(ま)”なのです。
それは目には見えない、人々の感情を容れる大きな空間。
若い社員の「夢」や「志」、ベテラン社員の「期待」や「不安」…。
そして、ひねくれた心や、複雑にもつれた心も受け容れる、無限の空間です。

最近は人手不足ということもあり、外国人や障害者はもちろん、
引きこもり、同性愛者など就労が困難な人にも雇用機会があります。
過去に成功をおさめた経営者は、新しい価値観に否定的になりやすい。
急速に進む少子高齢化に対応できる、新たな「器」が求められています。

この世にムダなものは一つもない

~ 人間 ~
仏法では「じんかん」と読みます。
人は一人では生きていくことができません。
だからこそ人と人との「間」を生きているのが人間です。

この世の中にムダなものは何一つありません。
役に立つかどうかを考えているうちに判断を誤ります。
どんなミスや、失敗であれ、プラスになるように考えてみる…。
そんな生き方を続けるうちに、経営者の器が豊かになっていくでしょう。

経営者の器が”間”であると考えるなら、
貧弱な社屋や設備であっても、卑下する必要はない。
家庭も会社も、目に見えるもので良し悪しを決めてはならない。
仲間を大切に、時間を大切に、そして空間をきれいにすればいいのです。

なぜか多くの企業がやめてしまった運動会や社員旅行を再開したらどうでしょう。
人生の楽しみは、一緒に過ごした仲間との「空間」と「時間」の中にある。
特に社員旅行は、社員の交流を深め、温泉や観光地の経済も潤います。
企業の運動会や社員旅行は「無用の用」の代表格かもしれません。

戦争をする国家になるかどうかの瀬戸際になっています。
私たちは、未来の子供たちのために判断を間違えてはなりません。

「老子」の影響を受けたとされるインドの指導者、ガンジーの言葉です。
~ 非暴力は人間に与えられた最大の武器であり、
人間が発明した最強の武器よりも強い力を持つ ~
今の日本の指導者に”戦わない強さ”が理解できるでしょうか…。

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