Now Loading

株式会社新経営サービス

Books
出版物

トップページ > バイマンスリーワーズ > 下位に在りて憂えず

バイマンスリーワーズBimonthly Words

下位に在りて憂えず

2023年01月

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

日本の世界ランキングが悉く後退しています。
スイスにある国際経営開発研究所の発表によると、
’89年から4年連続世界1位だった日本の国際競争力は、
昨年の発表で63カ国中の34位にまで順位を下げました。

企業の時価総額は ’89年に上位50社中32社が日本企業でしたが、
昨年の上位50社に入ったのは、トヨタ自動車の1社のみ。
また、平均賃金(年収)の日本の順位は、
’20年で35カ国中22位に後退しています。

かつて世界のトップランナーだった日本企業。
年頭から暗い話題になりましたが、現実の話です。
このまま円安が放置され、物価の高騰が続くならば、
“失われた30年”は終わらず“40年”に向かうのか…。

国内では「年収が低い会社ランキング」や、
「倒産危険度ランキング」なども公表されています。
ドキッとする情報ですが、当の社員はどう感じるでしょう。
会社への忠誠心が薄れる可能性もあり、警戒が必要です。

デジタル化とAIの発達により膨大なデータが分析され、
あらゆる分野で“ランキング”が行われる時代です。
しかし、猫も杓子もランキングによって比較され、
その結果に一喜一憂する姿勢はいかがなものか…。

誰かと比較すると 幸福度は下がる

「雨風がしのげて、食べ物があって、家族がいたら、それで幸せ」
“世界一幸せな国”のブータンは幸福度調査で常に上位でした。
ところが、情報鎖国だったブータンにインターネットが解禁され、
多くの国民がスマホで簡単に世界情報を入手できるようになりました。
すると、近年の調査では幸福度ランキングが著しく低下しているのです。

ある精神科医の話です。
「自分の年収が順調に増えていても、
他人がそれ以上なら幸福度は上がりません。
誰かと比較することで、幸福度は下がるのです」

何かと比較される社会は、幸せを感じにくい世の中になります。
ビッグデータを様々な角度からランキングすることで、
上位に位置する勝ち組の人は優越感で満たされ、
それ以外の負け組には劣等感が漂います。

上から目線の、行き過ぎた優越感は敬遠されますが、
適度な優越感は、健全な自信につながる効果があります。
一方で、自分を卑下する不健全な劣等感はよくありませんが、
適度な劣等感は負けん気を育て、努力を続ける原動力になります。

国も企業も、かつては世界の勝ち組であった日本ですが、
今はどっぷり負け組で劣等感が漂っています。
~ 優越感と劣等感 ~
人間なら誰もが持っているこの厄介な感情。
どうやって付き合っていけばいいのか…。

優越感の正体は劣等感であった

~ 上位に居りて驕らず 下位に在りて憂えず ~(易経 文言伝)
「高い地位にあっても驕らず、地位が低くても心悩むことはない。
 物事に集中して必死に努力をしているのなら、
 地位や出世など余計なことに気をとられている暇はない」

易経は上位にいる経営トップに警鐘を鳴らしています。
トップにとっての敵は同業他社や景気悪化ではありません。
経営トップの最大の敵は自らの内面に潜む“驕り”の心であり、
驕りから油断が生まれ、判断が甘くなり、社員に伝播してしまう。

では、そんな驕りの心はどうやって生まれるのか…。
驕りの心は優越感をうっすらと感じることに始まります。
その優越感が常態化することで“驕り”に変質するわけで、
元々謙虚な人でも、長くトップにいると優越感に満たされやすい。

さあ、謙虚な人の心をも支配する、優越感とはいったい何か…?
子供の頃から兄弟と比較され、辛い思いをした経験もあるでしょう。
二代目の経営者はどうしても創業者と比べられ、重圧を感じてしまう。
優越感を求める背景には、誰かと比較され、引け目を感じた劣等感がある。

そう、“驕り”を生む優越感の正体は…劣等感だったのです。
自分を長年苦しめてきた劣等感から、優越感が生まれ、
優越感の背後には、いつも劣等感がいたのです。

下位にいる時の生き方が 上位における人格を作る

易経の教えは上位で活躍している時よりも、
下位にいる時の心のあり方に本質を求めます。
~ 下位に在りて憂えず ~
地位が低くても、心を悩ませず、卑下してはならない。
下位にいる時こそ、どのように考えて、いかに振る舞うか…。

ウサギと亀の競争の教訓は「油断大敵」だけではありません。
亀の目標はウサギに勝つことでなく“山の頂上”でした。
たとえ劣勢に置かれても、目標を正しく見定めたなら、
判断や行動が変わり、結果が変わるという教訓です。

トップになると、周りの人は本心を見せません。
下位にいる時の自分に対する人々の接し方から、
思いやりの大切さを学び、人を見る目が養われます。
下位にいる時の生き方が、上位における人格を作るのです。

幹部候補生は、厳しい現場の仕事を通じて、
人情の機微がわかる心優しい人間になって欲しい。
後継経営者は、志の高い使命感溢れる経営者をめざし、
不遇な状況でも自分を磨くことを忘れないでいただきたい。

かつての経済大国日本は、実態とかけ離れたバブルであり、
下位にいる今こそ、地に足がついた判断が可能です。
単に売上や利益を追いかけるような経営ではなく、
本質的な“人の問題”に打ち込むことができるでしょう。

私たち一人ひとりが、誰かと比べる経営人生ではなく、
人生の真の目的に向かって邁進する、そんな年にしたいと思います。

文字サイズ