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バイマンスリーワーズBimonthly Words

士魂商才

2021年01月

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

一年前のこの時期に誰が予測をしたでしょう。
目に見えない新型ウイルスが世界中で猛威を振るい、
東京五輪をはじめ重要なイベントが軒並みに延期や中止。
未曽有の打撃を受けた世の中はこれからどうなっていくのか…。

近年はこんな“予測不能な状態”を米国の軍事用語から、
 VUCA(ブーカ)の時代と呼ばれます。
 V…Volatility  変動性
 U…Uncertainty 不確実性
 C…Complexity 複雑性
 A…Ambiguity 曖昧性

本来、戦争の姿は国と国との争いでしたが、
近年はアルカイダなどのテロ集団との戦いに移行。
同時多発的な爆破やテロ行為は対戦相手が不確定で、
誰が、いつ、どんな攻撃を仕掛けてくるかわかりません。

ビジネスの戦場も相手がわかりやすい競争でしたが、
近年は誰が、どんなことをしてくるかわからない。
そんな所に感染症や自然災害が襲ってくるので、
これまでの経営では通用しなくなっています。

そこで今、大活躍しているのが人工知能のAI。
センサーやコンピュータを使って得られたデータを、
ディープラーニング(深層学習)によってAIが予測する。
気象の予測、人や車の動向など、様々な場面で活躍しています。

ところが最近のAIの動きが少々恐ろしい。
人間の言動から発生する脳の反応をAIに学ばせ、
潜在意識を探って人の心の内側を研究しているという。
こんな“神の領域”に近い世界に踏み込んでいいものか?

心眼で優秀な人物を見極める

時代が予測不能なVUCAになっている以上に、
人間の心の中こそVUCAな世界ではないでしょうか。
コロコロ変わり、不確実で、複雑で、実体は曖昧そのもの。
かといって人心掌握をAIに任せる経営者にならないで欲しい。

後継経営者に指名したいと願っているが、
我が社に骨を埋める覚悟はあるのだろうか?
経営幹部に育って欲しいが、モノになるだろうか?
AIに頼らず自分の眼で人物を見抜く方法はないものか…。

「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一。
現在の「みずほ銀行」など五百社もの企業設立に尽力し、
自らは発起人や調整役に徹し、経営は信頼できる人物に任せました。
そんな渋沢が人物を見抜いた極意は、心眼による「視・観・察」でした。

「視」とは、その人の外見から行為の善悪を判断し、
「観」とは、その人の行為は何が動機になっているかを知り、
「察」とは、その人が何に満足をして暮らしているのかを察する。
渋沢は「視も観も“ミル”だが肉眼のみならず“心眼”でみよ」という。

そして、渋沢は、智・情・意の調和がとれた人物に経営を任せたのです。
「智」とは、事業を推進する「智恵」であり、
「情」とは、人の気持ちを思いやる「情愛」であり、
「意」とは、精神作用の根本にある「意志」を確認する。
これこそ心眼による“ディープラーニング”でした。

論語は人間関係解決の糸口を示す

渋沢は『論語と算盤』の冒頭で「士魂商才」を唱えています。
「人間の世の中に立つには、武士道精神が必要だが、
 商才がなければ、経済の上から自滅を招くようになる。
 ゆえに士魂にして商才がなければならない」

渋沢は農民から取り立てられた武士でした。
北辰一刀流の門下で武士道精神を叩き込まれ、
己の人生と重ねるように経営者にも同じ精神を求めた。
さあ、私たち現代人の経営にも通じる武士道とは何なのか…?

経営者が後継者に不満を感じるのは、
躾や教育ができなかった自分への苛立ちかも知れない。
幹部社員に対する不信感が拭えないのは、
経営方針を伝えられない自分に自信がないからではないか。

経営は煮詰めていくと人の問題に集約される。
親と子、上司と部下、家族や取引先との関係など、
複雑で曖昧な人間関係のあり方はいかにあるべきか…。
論語は人間関係解決の糸口を示す儒教精神の最高峰といえる。

渋沢は、士魂と商才を高める方法についても述べています。
「やはり論語が最も“士魂”を養成する根底となるものと思う。
 ならば“商才”はどうか。じつは商才も論語で充分養えるものである」
士魂はもちろん、商才を養うにも論語がいい、というわけです。

人物を見抜く極意となった「視・観・察」や「智・情・意」も、
渋沢が幼い頃から学んできた論語からの引用でした。
武士道も、経営道でも論語が師であったのです。

前向きな死生観をつかむと 充実した人生に変わる

~ 武士道とは 死ぬ事と見つけたり ~
武士の心得を著した『葉隠』の一節ですが、
“武士道とは目的のためには死をも恐れない”
という誤った死生観で解釈すると武士道を見失う。
予測のできないVUCAの時代であっても、
生を見つめた死生観をつかめば充実した人生に変わります。

人間は必ず死ぬ。
人生は一度しかない。
そして…いつ死ぬか分からない。
だからこそ未来予測に心を奪われず、
残る時間と人との出会いを大切に生きよう。

弟子に「死とは何か?」と問われ、孔子は謙虚に答えました。
~ いまだ生を知らず いずくんぞ死を知らん ~
「未だ人間としての生き方が解らないのに、どうして死のことが解るだろう」
孔子は死後の世界より、人間いかに生きるか、を大切にしたのでした。

天が導いたご縁でつながった経営トップと後継者。
不思議な出会いから一緒に仕事をする幹部社員と経営者。
何を不満に思い、何が不安であろう、武士の心と書いて「志」。
一緒に仕事ができる喜びを感じ、志を一つにして経営道を邁進したい。

コロナのワクチン接種が始まりそうですが不安は拭えません。
禍根を残した米大統領選で世界はより混乱するかも知れません。
~ 門松は 冥土の旅の一里塚 めでたくもあり めでたくもなし ~
どんな年になるのかわからないが、一日一日を大切に生きる年にしたい。

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