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バイマンスリーワーズBimonthly Words

まっすぐに

2020年11月

秋も深まってまいりました。
枯れ葉の舞い散る晩秋の光景は、
今のご時世では、あまりにも寂しい。
気が滅入らないように心したいと思います。

禅の公案をひとつ。
その昔、中国の五台山に向かう修行僧が、
途中の麓にある茶店の老婆に尋ねました。
「五台山への道はどう行ったらいいですか」
すると老婆は、「まっすぐに行きなされ」と答えました。

言われる通り、まっすぐに歩いて行くと、
「立派な坊さんに見えたが、私の言葉を真に受けてふらふら行きよるなぁ」
と、老婆は後ろから修行僧に聞こえるように嘲笑うのでした。

「まっすぐに行きなされ」と指示をしながら、
そのあとで「私の言うことを真に受けて…」と言う。
修行僧は「むむ…この婆さんは俺を試そうとしているのか」
これは、ただの意地悪ばあさんではないぞという噂が広がります。

そこで名僧の趙州和尚が老婆の人物を見極めに行くことになりました。
結果は、「まっすぐに…」そして「私の言うことを…」と、同じです。
すると趙州和尚は五台山に上らず、道場に戻ってこう言いました。
「俺は五台山の婆さんの腹の底をすっかり見抜いてきたぞ!」

さあ、あの老婆の「まっすぐに」とは、どういう意味か?
趙州和尚は婆さんの何を見破ったというのか、答えよ。

人生の分かれ道に 意地悪ばあさんが立っている

ベテランのホテルマンから転職の相談を受けました。
職業を根本から見直したいのでアドバイスが欲しいという。
その翌日には、よく知る飲食店の店長からも転職の報告を聞き、
コロナの影響を受けた業界の人が続々と大移動する実態を感じます。

加えてAI(人工知能)とデジタル化の進展によって、
仕事を奪われ、転職を余儀なくされる人も増えるでしょう。
職業を変え、会社を変え、ガラッと業界を変える人だけでなく、
この道一筋で歩んできた人までも、人生の分かれ道に立っています。

さあ、どの道を行けばいいのか…?
そんな時、あの婆さんの声が聞こえてきます。

「まっすぐに」と言われ、その先で分かれていたら、
また誰かに「どちらに行けば…」と聞かざるを得ません。
そこでまた「まっすぐ」と言われ、進んでいくとまた分かれ道。
迷ったあげく、ぐるっと回って元の位置、なんてこともあるでしょう。

とある商売でひと儲け、調子に乗って広げすぎ、
借金まみれでスッカラカン、なんて話は尽きません。
ジャパンライフのオーナー商法による巨額詐欺事件では、
老後資金の7000万円を騙し取られた一般女性もいました。

何故あの時、甘い誘いに乗ったのか…と悔やまれますが、
人生の分かれ道には意地悪ばあさんが立っています。

日々革新を続けることが長寿企業の秘訣

中国の故事には、何でも命中させる弓の名人が登場します。
ある日、猿に矢を放つと猿は木の周りを3回まわって逃げましたが、
名人の矢は猿を追いかけ、同じく木の周りを3回まわって命中しました。
矢はまっすぐ飛ぶはずなのに、さぞ猿もびっくりしたでしょう。

さて、この矢はまっすぐに飛んだのか、という問題ですが、
木の周りを回ったのでまっすぐではないと思われます。
ところが、やっぱりまっすぐに飛んでいました。
何故なら名人の矢はずっと猿を追いかけていたのです。

ここで松下幸之助の名言。
~ 成功とは、成功するまで続けることである ~

これは「辛抱強く続けよ」という根性論ではありません。
何が起こっても、心の奥底にある信念を曲げてはならない。
信念を貫くならばいつか必ず成就する、が真意であり、
“何を続けるか”が重要な問いかけではないか…。

コロナ禍で限界を感じ、廃業を考える企業が続出しています。
しかし、あらためて自分自身に問いかけてみましょう。
~ この道をめざした元々の動機は何だったのか? ~
この動機を信念として、もう少し頑張ってみてはどうでしょう。

日本には本業一筋で何百年も続く長寿企業があります。
創業の精神を“まっすぐ”に貫いた結果でしょう。
しかし、創業の精神を信念として貫きながらも、
戦略や戦術は時代に合わせた革新が必要です。

創業500年を誇る長寿企業、羊羹の「虎屋」では、
昔の味を守りつつ、近年は大幅に甘さを控えているという。
伝統の上にあぐらをかき、過去の方法を守り続けるのではなく、
時代の変化に沿って“革新を続ける”ことが長寿の秘訣というわけです。

人生100年時代、人生の目的を考え直してみよう

そもそも禅の公案とは正解があるようで、ない、
ないようで、ある、という不可解なもの。
頭で考えても答えは見つからないし、
まして教えてもらうことでもありません。

五台山に上ることが目的ならば、
道のりさえ間違えなければたどり着く。
しかし、悟りを得ることが目的であるなら、
修行僧は五台山に上らなくても悟ることができる。

さあ、あなたは何を目的に生きているのか?
それは目先の目標でなく人生を貫く目的のことだ。
人生の目的さえ見えていたら回り道は貴重な体験になる。
そこで経験することすべてが栄養となり、人生を豊かにします。

時代に合った職業に転じるのは大いに結構ですが、
それは人生の目的に沿ったまっすぐな職業でありたい。
時代に合うように事業を変化させることが重要ですが、
それは会社の理念に沿ったまっすぐな事業であって欲しい。

今さら…という方、今や“人生100年時代”。
ここぞという時に現れる、あの意地悪ばあさんは、
人生の目的を考えさせる親切な婆さんかも知れません。
婆さんが意地悪か、親切かは、あなた次第になるでしょう。

混乱する米大統領選挙は、やはり現職の再選となるのでしょうか。
そうなれば、米中の分断が加速し、世界は大荒れになるかも知れない。
~ 蛤の ふたみにわかれ ゆく秋ぞ ~ 芭蕉
時代の分かれ目で、行く先を間違えないよう、まっすぐに生きていきたい。

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