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バイマンスリーワーズBimonthly Words

泰山は土壌を譲らず

1992年01月

司馬遷の残した「史記」からの引用です。秦の宰相、李斬(りし)が、他国者であることを理由に排斥されそうになったとき、始皇帝に対し次のように訴えたと言われています。

「泰山(山東省にある名山で、歴代の皇帝は、特に泰山をあがめ奉り、泰山に登ると子供を授かるとか、事業に成功するとかのご利益があるとされている)は、どんな土でも受け容れるからあのような高い山になった。度量の大きい人物はどんな者の意見にも耳を傾けるから、大事業を成し遂げられるのです」

オーナー経営者の悩みの多くは幹部

先日、こんな悩みをお持ちの社長にお会いしました。

30才で独立され、20年たった今では6つの流通店舗を堂々と経営されているその社長は次のように話されました。

「私の片腕となってくれるような幹部が出てこないのです。これまで生え抜きの社員、中途採用の社員も含めて数名を幹部として役員登用をしたけれど、役員になって1~2年すると権利ばかりを主張したり、逆におとなしくなったりして、経営者である私を援助する発言をしない。それを私が諫めると嫌がり、辞めていった者もいる。私は幹部に恵まれない運命にあるのかもしれない。」

これまで精力的に全店舗を管理され、業績も着実に伸ばしてこられた社長でしたが、近年体力的にも衰えを感じられるのでしょう。幹部育成のため、業界の幹部研修にも多額の費用をかけて教育されているのですが、思うように育ってこないと感じておられるのです。幹部に登用するまではその人柄や仕事ぶりに感心できたのに、役員になり力がつき出すと合わなくなるとのことでした。

こんな事例はこの社長のことだけではありません。私自身いつも感じるのですが、自分にとって快い部下の発言は耳に入りやすく、苦言を聞くことは本当にいやなものです。一時の快楽を求めて甘言のみを受け入れると「幹部社員が育たない」という苦労が永遠につきまとうことはわかっているのですが、現実はなかなかそうはいきません。

では、どうすればどんな者の意見にも耳を傾けられるのか考えてみましょう。

同族経営で真の幹部は育たない

私は、どんな者の意見にも耳を傾けられるスタンスを保つ秘訣は、自社が「公器なものである」と気づくことだと思います。トップが自社を「自分のもの」と思っている間は、自分と違う考えを持っている人間を遠ざけたいと思うのが当然です。ところが、会社とは社員皆のもの、社会のものと本当に思えるようになれば、各々の持つ価値観を受け容れることができます。もちろん幹部社員の甘い発言に対しては厳しく叱責することを忘れてはなりません。しかし、物事を厳しく見つめた建設的な発言についてはまず聴くことから始めなければならないのです。

論語に「君子は義に喩り、小人は利に喩る」というのがあります。その意味は何事においても徳のある者はそれが正しいか、正しくないかを考えるけれども、徳のない者はすぐにそれが得か損かを考えると言うことです。企業経営に置き換えるなら、自社を公器なものと考える経営者はその意見が正しいか否かで考え、同族経営に固執するなら、直感的に損か得かでとらえてしまうということになります。この意思決定のロジックが聞く耳に影響を与え、ひいては幹部の成長、そして企業の成長まで変えてしまうのは本当に恐ろしいことです。

昨年亡くなられたオムロン(旧立石電器)創業者の立石一真氏は会社が小さな頃から「企業の公器性」を理念として現在のオムロンを築かれました。創業者のほとんどは同族経営からスタートするものです。同族経営にもそれなりの良さがあります。が、反面、その良さは企業の発展過程によって効果性に違いがあり、時には足かせとなることも理解しなくてはなりません。会社がそれなりの規模になってから公器性を目指すという姿勢は大いに問題だと思うのです。

今、何らかの壁に当たっているのであれば、ご自身の理念が、公器←→同族という位置関係の中でどのあたりにあるのか見直す時期なのかもしれません。

 

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