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バイマンスリーワーズBimonthly Words

雑用優先のすすめ

1991年11月

今年も師走がもうそこまでやってきました。「師も走る」ほど世の中全体が慌ただしく動く12月は、普段から忙しい経営者にとっては苦難の月ともいえるでしょう。年末は公私ともに一年の締めくくりや迎春準備などが重なり、特に近年では通信網の発達よる情報の反乱の中、多忙極まりないといった感が強くあります。

「昔はもっとゆったりして仕事ができたのに…」とこぼされる経営者がいらっしゃいます。工場やオフィスで機械化が進むと、確かにこのような感覚を抱くことは私達にもよくあることです。

しかし、では、昔はゆったりしていて、今はすべて忙しいのか?

私はどうもそうではないと思うのです。

あのローマ帝国時代には、

「何もすることのない人ほど忙しい」

という言葉がありました。また後世では、

「ブタのしっぽは終日せわしく動いているが何もしていない」

というのもあります。

このような古語から考えてみると「忙しい」という感覚はその環境からではなく、自分達で作り出しているようにも思えます。

 

では、どんなときに人間は「忙しい」と感じるのでしょうか?

それは「雑用に追われていると感じる時」だと思われます。そしてその雑用は小さなことであるけれど必ず処理しなければならないものでしょう。

 

そこで、年末を迎えるにあたって私達がまず注意したいことは、

 

雑用の処理を優先させること

 

です。雑用は自分のまわりから発生します。そこで先手を打って雑用をこなす。具体的には、早朝に掃除をするのと同じように、朝一番の30分~1時間で処理してしまうのがいいでしょう。部下に指示をしたり、取引先に連絡をとったり、すべて先手で処理してしまおうというのです。逆に、さきに先方から連絡を受けたり、指示を受けているようでは、追われるばかりで仕事が進みません。

 

雑用を処理したら、次に注意すべきことは“本来の自分の仕事”に着手することです。ここでヒマになってしまう経営者は考えものです。

ここでいう“本来の自分の仕事”とは何か。「特別の経営者」は別にすることとして、それは、

 

計画を立てること

 

に尽きるでしょう。計画を立てることを嫌うと、誰かの立てた計画(それは取引先であったり、上司であったり、時に優秀な部下であったりする)に巻き込まれてしまいます。明日のこと、来週のこと、来月、3ヶ月先、来年….といった具合に将来のことを考え、自分が今何を為すべきかを考えるのです。そして、いつも自分を忙しい状態におくべきです。「忙しい状態」と「忙しく感じる」とは全く意味が違います。「忙しく感じる」のは、何かに追われていることであり、「忙しい状態」とはある目標に向かって一心不乱に努力している状態をいいます。

先日亡くなられた本田宗一郎氏にこんな逸話があります。ホンダがまだ、小さな自動車工場だった頃のある日、宗一郎氏が数日間かかりきりの車の修理を始めたが、お昼になっても社員が出社しない。全員黙って辞めたのかと思い、奥さんに尋ねたところ、「今日はお正月の元旦ですから、皆休んでます」とのこと。「あっそうか」と答えて、また車の修理を始めたというのです。

まさに「憤りを発しては食を忘る」(寝食を忘れて学問や仕事に励むこと)とはこんなことを言うのでしょう。

 

本田宗一郎氏のような経営者は「特別の経営者」です。計画を立てずとも(立てていたのかも知れませんが)自分の為すべきことがわかる人なのです。平凡な私達は、まず、計画を立てて自分の為すべきことを発見し、また、自らを忙しい状態に置かないと優秀な経営者にはなり得ません。「小人閑居して不善を為す」の言葉通り、凡人は暇がありすぎるとよくないことばかり考えます。

 

雑用を優先処理し、自分の時間を作り、また忙しい状態に身を置く、つまり、

 

Keep  Busy = 忙しくあり続けること

 

が、自己の能力を高め、結果としてゆとりを生み出すことになります。“ゆとり”とは「時間」のことではありません。「余力」なのです。力を余せるだけの能力を備えることに人間本来の意義があるのです。

 

この年末、雑用を早めに処理し、本来の自分の仕事でおもいっきり忙しくなるのもお正月のお屠蘇をおいしくするコツかもしれませんね。

 

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