Now Loading

株式会社新経営サービス

Books
出版物

トップページ > バイマンスリーワーズ > 人事の打率は3割3分3厘

バイマンスリーワーズBimonthly Words

人事の打率は3割3分3厘

1993年05月

ピーター.F.ドラッカーが最近の著書で次のように語っています。

 

トップ経営陣は人事と人事管理に最も多くの時間をとられている。人事ほど尾を引く決定はないし、人事ほど元に戻すことの難しい決定もない。しかし、現実にはしばしば間違った昇進や異動が行われている。どうひいき目に見ても、人事の打率は3割3分3厘といったところである。3分の1は正しく、3分の1はお粗末であり、3分の1はまったくの失敗である。

完全無欠は無理であっても10割に近い打率をあげなければならない。

 

人の評価において絶対に誤りを犯さないなどということはあり得ません。しかし、その確率の高さが、経営戦略を遂行する成功率に比例しているのも確かです。

ドラッカーは昇進や異動に関する成功確率を高めるために次の5つの手順を踏むことを説いています。そしてその意味を私なりに付してみました。

 

手順1  仕事の内容を検討せよ

いわゆる職務分析である。中小企業ではあらゆる分野において業務内容が余りにも漠然としている。業務を細分化し、「人のできる仕事をする」という状態から「仕事が人を選ぶ」状態の基礎作りを行う。

 

手順2  常に何人かの有資格者について検討せよ

ドラッカーは“何人かの”がキーワードと言っているが、これは、中小企業では現実離れしている。“有資格者”に至っては中小企業内ではほんの一握りであり、日本では資格制度そのものが確立されていない。

 

手順3  候補者をいかなる角度から見るべきか検討せよ

仕事内容の検討に対し、候補者の検討である。候補者選びのポイントはその人間の弱みから出発しないことである。弱みからはいかなる成果も生み出せない。成果を生むものは人間一人ひとりの持つ強みである。

 

手順4  候補者一人ひとりについて、一緒に働いたことのある何人かと話をせよ。

 

だれでも第一印象や好き嫌いの感情を持っている。過去の事実に対する偏見もあろう。他の人間にはどのように映っているかを聴くのである。

 

手順5  任命の後に“要求されている仕事は何か”を理解させよ

 

中小企業にとって最も大切なのがこれである。中小企業における人事の過ちの多くは任命後の職務内容の不鮮明さにある。大企業や管理の行き届いた伝統的な企業では“新しく要求されている仕事は何か”が明確であり、事実が存在している。ドラッカーは、新しいポストに就けた者を呼び寄せて、次のように言うべきであるとしている。

 

『君はセールスマネージャーになって3カ月が経つ。この新しいポストで成功するためには、何をしなければならないと思うか?1週間か10日よく考えて書いてきてくれ。ただし、今ここではっきり言っておけることが1つだけある。それは、マネージャーという昇進をもたらしたこれまでの君の仕事ぶりというのは、これからの新しいポストではまったく通用しないということだ』

 

新しい仕事の要求するものを考え、あるいは考えさせることを怠ることが、昇進人事の最大の失敗原因であるという。この手順を踏まないぎり、新しいポストに就いた者の仕事ぶりがお粗末であっても、その者を責めてはならない。自らを責めるべきである。トップとしてなすべきことを怠ったからである。

ドラッカーのいう5つの手順は総じて抽象的なため、中小企業にとって決して現実的とはいえません。しかし、元来人材不足の中小企業では大企業以上に人事に関心を寄せなければなりません。そして今、人事問題が頭を悩ませているのなら、まずは5つの手順を素直に理解すべきでしょう。

 

大企業を中心に中間管理職の余剰現象が社会問題となり、中堅・中小企業への大異動が起こっています。日本経済全体の人材の均衡化が図れ、中小企業にとっては好ましい傾向かもしれません。しかし、そこには大きな落とし穴も待ち受けているのです。それは、大企業の中間管理職を経験した者を採用したからといって、必ずしも中小企業でその経験が活かせるとは限らないのです。否、活かせない確率の方が高いのです。ドラッカーの言う“これまでの仕事ぶりというのはこれからの新しいポストではまったく通用しない”というのは、こんなところに現れてくるのです。中小企業が大企業出身の管理職者をヘッドハンティングする際には、採用の後に要求される仕事を求めていては遅すぎます。その面接の段階から新しいポストの要求する仕事を考え、そして考えさせないと、互いに不幸な結果を招くことになります。このような事態があちこちの中小企業で発生しており、残念でなりません。

間違った人事をされてしまった人間をそのまま不適なポストに置いておくことは親切ではありません。単なる意地悪に過ぎないのです。これが長引くといびりになります。組織の中の人間という者は他人がどのように評価され、どのように処遇されるのかについてその善し悪しを問わず、敏感に感じとります。そして自分の将来をそこにオーバーラップさせるのです。したがって現在配置されている管理職がやる気をなくしていないか、要求している仕事を充分に理解しているかを経営者自ら定期的にチェックする必要があります。これが人事打率をあげるための出発なのです。

 

また、今春に昇進された管理職の皆さんにとっては新しいポストとして何が必要なのか、これまでと同じような仕事ぶりで終始していないかについて、じっくり考える季節になっているのです。

 

文字サイズ