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バイマンスリーワーズBimonthly Words

みずから活動して他を動かしむるは水なり

1993年03月

これまで政治家や各方面の指導者が親しんだ書物の一つに「水五則」があります。作者は不明ですが、松原泰道氏によれば、それは古くから日本で伝えられてきており、戦国時代の武将・黒田孝高が熱心に信奉、実践し、世に広めたのではないかとのことです。(松原泰道『人徳の研究』大和出版による)

水五則は「みずから活動して他を動かしむるは水なり」という第一則から始まり、水の持つ特性から私達リーダーが学ぶべきところの多くを示唆してくれています。地球の表面積の72パーセントは水で覆われており、人間の体も70パーセントは水です。私達と水とのかかわり合いは大きく、水から教わる、ということも大いに納得できることなのです。

景気が低迷し、先行きが全く不安な状態となっている今、企業を預かる私達リーダーは、水五則、特に第一則の「みずから活動して他を動かしむるは水なり」の真意を理解し、実践しなければならないと思うのです。

私は業務上、「あなたはいつ景気が回復すると思うか?」という質問をよく受けます。昨年までは、「平成6年の春以降でしょう」とお答えしておりました。大手企業の平成5年の賃上げは、3パーセント台が確保できれば良い方で、そのままの状態で1年間推移します。もちろん夏、冬のボーナスも見込めない。個人消費が1年以上冷え込むのは確実との見方から悲観的な見解を持っておりました。

しかし、最近は単なる悲観的景況観では非常に甘かったと反省しています。なぜなら、「景気が回復する」という概念ではとらえられないのが現在の日本経済の姿であると認識するからです。それは「経済の再建」という概念からスタートしなければなりません。その理由について詳しく述べるのは、紙面の関係上またの機会に譲るとして、大意は次のようなことです。

 

 ・今回の不況はこれまでの日本の歴史上になかったものであること

 ・バブルの形成とその崩壊は自然発生的なものではなく、アメリカに中心を置く多国籍企業が、日本経済の基盤である金融システムと大企業を狙い打ちにした人為的なものであること

 ・狙い打ちにされた金融システムと大企業のほとんどは壊滅的な打撃を受け、今なお立ち上がれない状態となっている。これは、血の出ない第3次世界大戦であると認識すべきである。そしてその攻撃はまだ続いていること

 ・よって日本経済は第2次世界大戦後の経済再建と同じく、いちから出直す腹をくくらなければならないこと

 ・「景気回復」という言葉は適切でなく、「経済再建」であること

 

経営者が「景気の回復」という言葉を使っている間は、どうしてもその気持ちの奥底に「いずれ以前のようないい時代が戻ってくるだろう」という甘い考えが残ります。となれば、以前と同じ考え方とやり方で企業をリードしてしまいます。ここで、大きな間違いを冒すのです。以前のやり方はその当時の経営環境に沿っていたために成功したのであって、今はその経営環境が先述のように激変しています。血の出ない戦争であったために表面的な変化は見られませんが、日本経済のその内実は焼け野原同然なのです。リーダーは景気の回復はないと腹をくくらないとこの場を乗りきることはできないでしょう。

焼け野原的日本経済という考え方は、決して悲観的なものではありません。現実を直視した積極的で攻撃的な考えなのです。特に中堅・中小企業にとっては追い風の状態であるといえます。異常な状態から脱け出した人材難問題、財テク指向から本来業務への回帰、大企業に比べると大幅に少ない法規制など、これまで制約されていた内容が今は一挙に追い風となって私達に味方しているのです。多くの企業のリーダーはこのことに気づいていません。また、味方に引き込むアクションを起こしていないのです。大企業依存型、金融システム依存型を除いた中堅・中小企業はほとんど打撃を受けていないことも私共の調査で分かってきました。つまり、バブル崩壊という外国企業からの爆撃の際には疎開をしていたと考えられます。今、身支度をして、いち早く戦略的にアクションを起こすことができるのは中堅・中小企業なのです。大企業や金融関係ではまだまだ後始末に追われ、ほとんどはそのウミを出し切っていません。

この時のアクションは戦略的でなければなりません。これまでの延長で目一杯の努力をするということでは力尽きてしまいます。たとえば、こういうようなことです。

 

 ・消費者への直取引をためらっていたメーカーや問屋なら、今思い切って打って出る

 ・下請加工体質のメーカーなら新たな販売チャネルを開拓する

 ・新規顧客の開拓についても断然今はやり易い

 ・人事面の制度改編の時期をうかがっていたのなら、今がチャンス

 ・優秀な人材が採れないと嘆いておられたなら、今なら採れる

これからは私達中堅・中小企業が飛躍する時代となってきます。まさに下剋上です。もちろんすべての中堅・中小企業が活躍できるわけではありません。リーダーの才覚と行動力にかかっていることは論ずるまでもないのです。しかし、才覚と行動力を備えているのに未だ日和見的に現状をとらえ、活動をしない、口先だけのリーダーが多いことも実感しております。バブル崩壊後の不況よりも傍観者的リーダーが多く存在するというこの現象こそ恐ろしいことと感じるのです。それは、プロ野球の消化試合を外野席でビール片手にゴロ寝観戦をしている姿となんら変わりありません。このようなリーダーが率いる企業の将来は目に見えています。

 

みずから活動して他を動かしむるは水なり

 

この言葉は、中堅・中小企業が非力ながらもみずからの力で歩みを進め、日本経済再建に貢献せよといっているのと同時にそれはリーダーの双肩にかかっていると言っているようにも思います。

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