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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

錦の御旗

1993年07月

中小企業らしい成功戦略を立て、見事に遂行している企業を除けば、ほとんどの中小企業で急激な業績悪化に陥っています。昨年対比10%ダウンならまだ健闘の部類で、今年4月以降では20%ダウン企業が続出しています。私も顧客企業で同じような傾向が現れ、その緊急対策に東奔西走の毎日が続いています。その中で私が強く感じ、わかってきたことがあります。それは、今回の不況で苦しんでいる中小企業が次のようなパターンに分かれてしまっていることです。

 

 パターン1  成功戦略は描けているのに、社内の様々な問題で体制が整わず、不況の嵐に仕方なく流されている企業

 パターン2  「何とかしなければ」という思いはあるが、打開策が見いだせず、旧来のやり方に加え、努力と根性で乗り切ろうとしている企業

 パターン3  未だマスコミの発表する経済予測をベースに景気回復をアテにして、何もしていない企業

 

パターン3の景気回復を待つ式の企業はもはや論外です。今の日本は産業構造そのものの変革が急速に進んでいるため、景気が回復しても自社が回復する可能性は非常に低いのです。メーカーはメーカーとして、問屋は問屋としての新たな自立戦略を描かないと再浮上はできません。まして、今回の不況は確実に長期化するという前提で対策を講じていただきたいのです。マスコミで景気回復説が論じられているのは、心理的な消費低下による更なる不況を避けるためであって、企業の舵を握る指導者である皆さんにとっては正しい現状認識をすることがすべてのスタートなのです。

【前提条件】まず我社はどの位置にいるか

今回の不況対策を考える前に、我社は今どのような状態になっているかを確認して下さい。先述のパターン1とパターン2を更に分解し、構図に表すと次のようになります。

今回の大不況の波を泳ぎきるには、2つの絶対条件をリーダーが持たなければなりません。1つは現在の環境下でも勝ち抜ける成功戦略を持っていること。(タテのベクトル)2つめは成功戦略を遂行するための推進態勢(もしくはトップのやる気)を整えることです。(ヨコのベクトル)

つまり今、企業は底なしの湖の中に一人でいるようなものです。“推進態勢”とは底なしの湖な中でも立ち泳ぎができる力のことであり、“成功戦略”とはどの方向の陸地に向かって泳ぐのかを指しています。換言すれば成功戦略を持っているか否かは“頭脳”の問題であり、推進態勢のあるなしは、“人を動かす力”といえるでしょう。成功戦略を明確に持ち推進態勢が整ったとき、その向こうには光輝くオアシスがあります。ところが、その手前には不況の波を引き起こす大魔神が待ち受け、大きなうねりを絶え間なく発しているのです。

今、日本経済にはこのような経済スゴロクができあがり、その中で各企業が逆流する川をオアシスに向かって必死に泳いでいるように思えます。まず我社はこの構図の中でどの位置にあるかを確認し、そしてその位置ごとに対策を考えてみましょう。

【対策1 清貧企業の脱出法】 -決して悲観しない-

成功戦略が見えず、推進態勢もない墓場の一歩手前企業です。ここでいう“推進態勢がない”とは人材がいない、組織が確立していないといった意味ではありません。たとえ少人数でも、ある方向に向かってそのパワーを集中化させることができれば“推進態勢がある”と判定されます。

たとえば、2~3人の少人数で事業をされているAさんとBさんがいます。Aさんは、顧客や社員からの様々な要請にすべて自分で応え、心身共に全開で仕事に取り組んでいます。しかし、自分の考えを確立していないために、すべてにふりまわされた毎日を送っており、業績も芳しくありません。よってだんだん事業意欲が衰えてきています。一方、Bさんは、周囲からの様々な要請について、その優先順位をつけ、ムダと思われる仕事は思い切って引き受けないようにします。結果、もちろん業績も厳しい状況にありますが、将来を見据えやる気満々です。Aさん推進態勢はありません。Bさんには推進態勢があるといえます。

ここでは、不況だ、墓場の一歩手前だと悲観しないことです。逆長期化する不況と仲良くすることを考えるべきです。不況を恐れていると後ろからどんどん追いかけてくる。面子を捨てて不況とどうつき合っていくかが清貧型企業の命題なのです。大手企業の多くは、今この位置にいます。これまでの戦略が通用しなくなり、社内には大企業病が蔓延し、推進態勢もないのです。面子を捨て、思い切ったリストラを断行する大手企業は生き残れるでしょう。面子を捨てられない企業は大手といえども墓場行きでしょう。具体的には利益に直結しない固定費は思い切って切り捨てる。清貧の企業運営を味わうのです。中途半端な清貧では乗り切れません。そして、その間にこれからの時代に沿った戦略を練り直すのです。それに耐えられず新しい戦略も浮かばない人は撤退計画を作る。この決定は1日でも早いに限ります。撤退するにも相当の資金が要るのです。

【対策2 求心力喪失企業の脱出法】 -錦の御旗をもつ-

不況の波を乗り切れる正しい経営戦略を持っているのに推進態勢がバラバラなためにせっかくの戦略が絵に描いた餅となっている型です。私もコンサルタントとして様々な企業のお手伝いをする中で、いちばんストレスのたまるケースがこれです。このようになる原因はほとんどがリーダー及びリーダーとなるべき人の求心力喪失にあります。リーダーが求心力を持ち得ないのは、

 a.全社員を引っ張れるだけの人徳・資質が伴っていないケース

 b.経営戦略に魂が入っていないケース

に分けられます。ところがaのように全社員を引っ張れる人徳・資質がなくても、bの経営戦略に魂が入り、的確な意思決定を続ければ求心力は充分に持ち得ます。つまり人徳は後からでもついてきます。それほど経営戦略に入魂することは意味深いのです。

松下幸之助氏は“正しいことはこれだ”という信念、正義感があるところに人を動かす力が生まれてくると言っています。

「正義感を持つと言うことは、言い換えれば“錦の御旗”を持つということだ。人間は錦の御旗を持てたときに本当に強い勇気なり力が湧いてくるものだ。それが人を動かす原動力になる」

というわけです。ではどうすれば錦の御旗を持つことができるのか。

 

 「経営者としての仕事に真剣に取り組むことだ」

 

と言い切っています。

 

 「仕事に打ち込まないからゴマカシが入る。ゴマカシでは回りの人を説得できない。説得できないからやる気も湧かず打ち込めない。この悪循環こそ問題だ」

経営者として最重要の仕事は自社の経営戦略について考え続けることです。徹底的に調べ、相談すべき人に相談し、考え抜くことです。ならば、自分の考えが信念に変わっていきます。経営戦略に対する信念が人を動かし、自分も動機付けるのです。今、自分の考えている戦略は正しいのかどうか常に不安が伴うでしょう。しかし、経営戦略の正しさを証明するのは結果を出すことにしかほかありません。結果を出すには、自分が考え抜いた戦略を信じ、その経営戦略を錦の御旗にして真っしぐらに突き進むのです。

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