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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

利は顧客にあり

1998年07月

社会主義経済の終焉

1990年2月の株価大暴落のあと消費意欲をなくしたのはリストラに追われた法人企業でした。当時、バブルの痛手が少なかった個人消費はまだまだ堅調だったのです。ところが昨年の政府による経済政策の失敗が引き金となって頼みの個人消費も極端に冷え込み、住宅関連や自動車をはじめ多くの業界に売上不振を招きました。デフレによる価格下落がこれに拍車をかけ、年々下がる粗利益率に耐えられない卸や小売といった流通業者は瀕死の状態です。

メーカー・卸・小売 というピラミッド型流通チャネルの枠組みは今世紀中に崩壊するでしょう。存在価値のないような中間業者は確実に消滅します。酒屋、米屋、ガソリンスタンド、自動車整備といった法の下で保護されていた中小零細業者の多くが規制緩和の渦に巻き込まれて姿を消しています。

なぜこのようなことが起こり、いったい誰がこんなことをしたのでしょうか?

要するにこれまでの日本の経済システムは「官僚主導型の社会主義経済」だった訳です。官僚が全体の枠組みをコントロールし、その中で企業が主体となって経済を引っ張るという図式のことです。そこに消費者やエンドユーザーの顔は見当たりません。「顧客第一主義」という謳い文句はどの企業にもありましたが、経済の枠組みが変わらなかったために結局は消費者やエンドユーザーに負担がかかっていたのです。メーカーから出た製品が消費者には3倍以上で売られたり、使用する添加物や素材が人体に悪影響を及ぼすことがわかっていながら企業の利益確保のために消費者には知らされませんでした。結果、消費者物価は世界一、モノは有り余り、環境対策も後発組ということになってしまったのです。

官僚と企業の論理を優先させて発展したのが経済大国日本の姿です。このことは、結果として良かった点もありますが多くの反省点も残されました。今はこの枠組みが音を立てて崩れているのです。歴史的な古い建物が壊れるときに初めてその構造が分かるように、経済の仕組みが崩れていくのを見てわれわれは「ああ…そういうことだったのか」と分かってきたのです。

21世紀は「消費者主導の自由主義経済」が建設されていくでしょう。規制は緩くなる一方で、消費者はより賢くなり、自分の都合でしかものを考えない企業の商品には目もくれなくなります。そんな経営環境で中小企業はどのような方向を選択すればいいのか、お上に頼らず、自分の足でしっかりと立つことの出来る“自立戦略”とはどのようなものなのか、考えてみたいと思います。

中小企業が自立する戦略 ― 自立のための4原則と基本戦略 ―

■収益性の原則■

縮小経済だからこそ売上が上がらなくても利益の出る体質を作ることがポイントになる。これが収益性の原則。そのためには消費者により近いところで自社の独自性を認めてもらうことだ。いつまでも下請けや消費者やユーザーの見えない中間業者で留まっていても打開策は見当たらない。

着眼点① エンドユーザーとの直結パイプをもつ

もともとエンドユーザーを対象にしている企業はあらゆる方法でこれまで以上に密着することが基本。一方、直結パイプのないメーカーは販売先である卸売業者を、卸売業者は小売業者を見て「中・長期的に付き合っていけるか?」についてシビアな目で判定する。不安材料が多ければエンドユーザー直結のバイパス建設にとりかかる。これには早くとも3年から5年はかかるので1日でも早く着手すること。効率が悪いからといってやらなければいつまでも出来ない。効率はやってから考えること。

着眼点② 独自の商品力を持つ

単なる問屋、普通の小売は消え、本部が独自の商品力を持たないフランチャイズもダメになる。小さな市場のエンドユーザーに支持される自社固有の商品を持たねばならない。中小企業は難しいものを開発する必要はなく、人まねからスタートすればよい。それに顧客から「一味違う!」と感じてもらえるような改良を加える。街の飲食店や料理屋が長く続くのはこのためである。

着眼点③ リピート客(愛顧客)を蓄積する

新規顧客を獲得するには多大の時間と費用と情熱を消費し、収益性を圧迫する。新規開拓活動は永遠に必要なことだが、獲得した新しい顧客に末長くご愛顧いただけるようなノウハウがなければ無意味な活動になってしまう。ファンづくりのノウハウ蓄積である。これに成功すれば広告宣伝や多大な販売促進費も不要になる。東京ディズニーランドが成功した秘訣はリピート客づくりのノウハウにある。最良のセールスマンは満足されたお客様であることを忘れてはならない。

 

■安全性の原則■

いざという時に次の手が打てるようになっているかが安全性の原則。これは商品や販売といった戦略分野はもちろん、財務や人事でも必要である。

着眼点① 3本の柱を育てる

商品の3本柱·································· 単品商品ではいつまでも勝負できない。機能の違った商品を3種類は持ちお互いでリスク補完をするわけだ。3本の柱ができるまでは「利益」より「育てる」ことが大切。

顧客(販売チャネル)の3本柱········ 販売先件数のことではなく3種類の販売チャネルを指す。官公庁・一般法人・個人客とか、代理店・専門店・通販といったように形態の違うものに分けておく。

着眼点② 自己金融ノウハウを蓄積する

今後も続く銀行の貸し渋りに対抗するために資金調達先を金融機関以外にも作っておく。社員が会社を銀行と見立てて預託する「社内預金」や「社内投資」もしくは「持ち株制度」、取引先などの外部から預かる社債などもあわせて検討する。

着眼点③ 多元的雇用を活用する

雇用形式を多様な形態の組み合わせにしておく。たとえば、a正社員グループ、bパート・アルバイトグループ、c2~3年で雇用契約を見直す契約社員グループ、といった雇用形態の組み合わせで柔軟性を持たせる。賃金制度や評価制度もグループごとに違うものにしておく。

 

■生産性の原則■

社員一人が稼ぎ出す付加価値額を年1500万円以上(中小企業では1200万円以上)を目安にした運営をおこなう。

着眼点① アウトソーシングを活用する

必要な機能でありながら人材不足、ノウハウ不足で強化できない部門や不採算部門は思い切って外部に委託してしまう。生産、販売、コンピューターシステム、物流部門はもちろん、人事や総務・経理といった間接部門も適当な業者があれば委託する。

着眼点② 時間管理教育の徹底

決まったことを、決められた通りにただ漫然と仕事をしているだけという社員のいかに多いことか。お金はまた取り戻せるが時間は取り戻せない。セールスマンや技術者に対し短時間でより多くの仕事をこなすというトレーニングを積ませることだ。その手法は数多く発表されている。業績に直結する実働時間を2倍程度にすることは難しいことではない。設備産業の場合は24時間フル操業、もしくは2直勤務体制、ないしは休業日をなくして設備生産性のアップを図る。

着眼点③ 機械化(コンピューター)をより進める

人間でしかできないことを人間がやり、その他は機械に任せるという方針を貫く。投資が必要だが長期的に見れば生産性は確実に上がる。特に顧客情報や商品情報の管理は正確で迅速な最新のコンピューターシステムを導入すること。売上に直結しない間接人員も大幅に減らすことが出来る。判断業務や心を込めたサービスはその後の問題。コンピューターとの共存にまだまだ中小企業は遅れている。

 

■成長性の原則■

やはり成長性の高い事業分野にシフトすることが大前提になる。これが成長性の原則。縮小経済であっても成長する事業の業種・業態はいくらでもある。今回はその発想の着眼点を考えてみた。

着眼点① アウトソーシングを請け負う

他社ができない業務、困っている業務を一括で代行して請け負う。例を挙げれば、生産・加工という仕事をまとめて受ける。販売業務の全般、物流全般、設備のメンテナンス、事務の代行、など自社でノウハウを貯めている仕事を商品とするわけだ。

着眼点② インターネットを軽視しない

情報通信の発達は非効率な事業を効率化し、個人の自立を促進する。インターネットも単なるブームだと軽視しないことだ。情報先進国のアメリカではアマゾン社が「世界一に品揃えを誇る店舗のない書店」として成功、自動車販売のオート・バイ・テル社は月間2万台の販売実績がある。フェデックス社は一日に120万個の荷物をインターネットで受注している。販売の武器として捉えるだけでなく仕入先、提携先、アウトソーシング先を探すのにも有効である。

着眼点③ RE(再生)市場をねらう

使い捨てを反省する時代に入り、日本人が忘れていた「もったいない」という感覚がよみがえっている。新車よりも中古車が、新築よりもリフォームが、新書よりも古本が見直されている。すばらしいではないか。物々交換、廃棄物処理、各種修理業など多くの企業が嫌がる仕事、手間のかかるコスト高の仕事の中に確実な需要がある。

 

◆基本戦略 顧客満足経営◆

規模の大小や業種の壁を越えたすべての企業に共通する基本戦略が「顧客満足経営」だ。価格面や品質面で顧客をだましだましで乗り切ってきた企業はいずれ「化けの皮」を外される。国も企業も自分の保護が中心であって消費者保護の政策は取ってこなかった。これからは企業が顧客を育て、顧客を愛し、顧客を保護しなければならない。全社員がいつもお客様のことを考えている会社は強い。次もまたその次もご愛顧いただき、できれば一生のお付き合いをしたいという愛顧客精神だ。これは戦略というよりも当たり前のことである。この当たり前のことができるか否かが成功の鍵を握っている。

着眼点① 判断基準を顧客に置く

商品の開発・改良・撤退、販売の仕方、クレームの対応方法など企業経営のあらゆる場面で「顧客ならどう判断するか?」を判断基準にする。古本販売のブックオフは「古本、高価買入れます」でなく、「本、お売り下さい」と顧客の立場で表現している。ミスミは「販売代理店」でなく「購買代理店」としてユーザーの立場で自社のポジションをみている。このスタンスがすべての場面に影響する。

着眼点② 信用第一の精神を行動にあらわす(針の穴も見逃さない)

情報洪水の中では口コミがもっとも説得力がある。悪い評判は1人から平均10人に伝わるというがどんな小さなクレームでもすばやく対応することだ。おたふくソースは消費者からのクレームに対しその日に家庭まで訪問して苦情を聞き、商品改良後には再度報告に行くという。キャノンでは顧客からのクレームを隠さずにインターネット上でオープンにし、クレームが大幅に減っているという。完璧を目指すも完璧はありえない。お客様に絶対迷惑をかけないという信用第一の精神を具体的な行動で表すのである。

着眼点③「まごころ」の接客サービス

商品の持つ価値だけではライバル会社との差別化が図れなくなった。そこで接客サービスの質がものをいう。接客サービスは形になって残らないためにその瞬間にどんな印象を顧客が抱くかにかかっている。まさに“一期一会”の精神が重要で、「良くて当たり前、お客は悪いほうで評価する」のが接客サービスの宿命。中には横柄な態度の顧客もいるだろう。しかし、心の底から顧客の存在をありがたく思い、顧客のために何が出来るかをまごころで考えたサービスを施すことだ。

自由主義経済に向けて

今の日本経済は暗い洞窟の中で行き場を失ってしまったようです。でも出口の灯りがかすかに見えています。消費者主導の自由主義経済という新しい環境が見えているのです。自由主義経済とは言い換えれば実力主義のことで、これまでのような規制は大幅に減りますが、誰も助けてくれません。その時にあなたの会社をどのような方向に向けるのか、舵取りを間違えないようにしましょう。その際には前掲の戦略の4原則に照らして考えてみて下さい。そして消費者が中心である以上、企業は出来る限り消費者やエンドユーザーに近いところに居場所を置くことです。

もう高度成長時代に成功した経営手法は通じません。その多くは供給者側の論理から生まれたもので消費者やエンドユーザーと一体となったものではなかったのです。経営手法とはその時代の経営環境に支えられて有効なものになるわけで、新しい経営環境では新しい手法が必要になります。ですから過去にあなたが成功した経営手法はいったん捨て去りましょう。

高度成長時代を支えてきた官僚主導型の社会主義経済下では、「利は元にあり」の考え方が経営者のベースにありました。力のある者、つまりメーカーや仕入先を大切にすることが最も重要だったのです。もちろんこれからもメーカーや仕入先を大切にするこころをなくしてはなりません。しかし、消費者主導の自由主義経済では、メーカーも販売業者も一緒になってエンドユーザーに対して最大の関心を払わねばなりません。これは一般企業ではもちろんのこと、病院や学校、各種団体にも通じる考え方です。

これからは、心して“利は顧客にあり”を実践しようではありませんか。なかなか業績に現れなくても誰かに反対されても、この思想を貫いていきましょう。

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