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バイマンスリーワーズBimonthly Words

善き友をもつことは この道のすべてである

2006年07月

パートの主婦から社長が誕生したニュースは久々にうれしいものでした。
東証一部上場のブックオフコーポレーションの社長に就任した橋本真由美氏(57)は、会長になった創業者の
坂本孝氏(66)のアイデアを16年間にわたって現場で実践し、古書店チェーンという新分野を築きあげました。

橋本氏は短大を卒業後、栄養士として病院に勤務したのち結婚して専業主婦になります。「娘の学費の足しに」と1990年、
ブックオフ第一号店に時給600円のパートとして入社。「平日5時まで、土日は休み」を希望する、ごく普通の主婦でした。
橋本氏はすぐに商売の魅力に引き込まれていきます。自らすすんで休日出勤をする仕事振りで、翌年には正社員になりました。

「仕事を任される喜びに目覚めました。この喜びを後から入って来るパートやアルバイトの人たちにも与えたい」と、社内の
誰からも「お母さん」と慕われる面倒見の良さもあって、いつのまにか店のリーダー的存在に。そして人材育成の第一人者に
なっていきます。3年後には取締役に抜擢。2003年から常務、そして10人程度でスタートした小さなお店が、今では
正社員が約600人、パート・アルバイトを約5,900人も抱える大所帯になり、そのトップの社長就任となったのです。

このように社長に昇り詰めるまでの経緯は、橋本氏ご自身の功績はもちろんですが、橋本氏の人物と可能性を見抜いてチャンス
を与えていった創業者、坂本氏の存在がなければありえません。
坂本氏は「古本屋ってそんなに儲かるのですか?」と質問されると、「古本屋は儲かりません。」ときっぱりと答える。「儲から
ないから、誰も古本屋のフランチャイズをやらなかったんです。その儲からないものを社員一人ひとりが血のにじむような努力を
して利益が出るようにしたのです。」と言う。

坂本氏は、まず一号店を儲かる事業に変革させました。そして事業を拡大させながらも、組織経営の要点を押さえることで成功を
した例だと言えるでしょう。

組織経営のゴールは全社員経営者

「組織の経営」にはいくつかの要点があります。それは階段になっており、その階段ごとの
重要ポイントを飛ばして規模を拡大させると、内部から崩壊してしまいます。
まず、組織経営の前提として、経営者が「入るをはかって、出るを制す」を実践し、家族を
養うことのできる商売の実力を持つことです。たとえ小規模な事業でも、儲けるノウハウを
持ち合わせていないと、事業を行う基盤ができません。

事業が軌道に乗ってきたら、組織運営の第一段階に入ります。この段階では商品作りの技術や
営業の手法を部下に教えます。経営者自ら、「専門職」の技術者や営業マンを指導することで、
事業の収益基盤が固まるのです。キーワードは経営者の「指導力」です。 専門職がある程度
育ってくると第二段階に入ります。ここでは「マネージャー」を育てます。マネージャーの
役割は部下を育て、業績を向上させることですが、これは第一段階の経営者と同じ仕事です。

この段階はマネージャーへの権限委譲がカギであり、そのための管理システムの整備と、経営者
とマネージャーの精神的つながりが重要になります。この段階のキーワードは「権限委譲」です。

マネージャーへの権限委譲が進むと第三段階に上がります。ここではマネージャーを統率し、
全体を一つにまとめなければなりません。力がつくほどマネージャーのタイプは十人十色になり、
彼らを同じ方向に向かわせるのは至難の業です。キーワードは経営者の「統率力」。

組織全体が統率できるようになれば、「後継経営者」を選び、育て、経営権を譲る最終段階に
なります。経営者が引退後に取り組むテーマがあればバトンタッチはうまくいきます。技術者に
徹する、ボランティアや趣味に打ち込むといったことで、新しい事業を起こすのもいいでしょう。

ところが、自社の経営に未練が残っているとうまくいきません。新たな人生目標が見つからなければ、
中途半端な引退はせずに、本腰で経営に打ち込むことです。キーワードは「第二の人生」です。

現在、ブックオフには分社によって独立した社長が10人以上いますが、坂本氏は「100人の社長
を育てますよ。」と意気込む。坂本氏の成功の裏には、組織経営という全体的な問題だけでなく、
一人ひとりを経営者として育てていく、個別の育成方針があったのです。

"人材"という表現は適切ではない、人は"人"である

人の問題を考える上で、忘れてはならない仏法の教えがあります。
ブッダ(お釈迦様)が、侍者のアーナンダ(阿難)から次のような質問を受けました。
「私どもが善(よ)き友をもち、善(よ)き仲間のなかにあるということは、すでにこの聖なる
道の半(なか)ばを成就(じょうじゅ)したに等しいと思われますが、如何(いかが)でしょうか?」

アーナンダは、善き友をもつことの重大さが、ようやく身に染みてわかってきたところで、
その重きことはこのくらいに考えてもよいか、と問うたのでしょう。
ブッダはこのように答えました。 「アーナンダよ、それは違う。そのように考えてはならない。
アーナンダよ、善き友をもち、善き仲間のなかにあるということは、この聖なる道の全てである。」

なるほど…。この教えを私なりの解釈で、現代の経営に置き換えてみると次のようになります。
優秀な人材にめぐり会って経営を成功させたいと考える人がいるが、それは違う。そのように
考えてはならない。人は事業の手段ではない。人は”人”なのである。だから”人材”つまり人を
材料とするような表現は誤解を招くので適切ではない。

専門職、マネージャー、後継者のいずれも”人”であって、それぞれに善き人とめぐり会い、善き友
として、一緒に事業を続けていること、このことが最も価値あることであり、これが経営の本質である。

いかがでしょうか。利益を出してそれを将来に向けて投資し、より事業を発展させて利益を上げる。
その過程では少しでも優秀な人材が必要で、そのために人材投資をし、より優秀な人材を獲得したい。
経営者がこのように考えるのは当たり前ですが、ブッダの教えは少し違うようです。

この考え方は、人の存在を高い所に位置しているようだがじつはそうではない。心の奥底で事業の
下に置いているではないか。そんな声が聞こえてくるようです。 人は事業の手段ではありません。
ましてや、使い捨ての道具のように扱われることが、断じてあってはならないのです。

"追い越されるのではないか"という潜在意識が部下の成長を阻む

社員をただの道具のように考える経営者は、世の中が豊かになった今でも存在します。道具と言わずとも、
心の奥では社員を手段として位置づけている経営者も少なくありません。
社員のことをこんな風に考えている経営者に優秀な社員がついていくでしょうか。
このような経営者の意識が、人が育たない根本原因になっていることに気づかねばなりません。
言葉では人材が大切だと言いながら、親族以外を経営陣として認めない中小企業がわんさとあります。

そんな会社に優秀な幹部社員が育つはずがありません。
部下の中に知的労働やマネジメントができる能力を持っている人がいるはずなのに、現場の作業をさせる
だけで、優秀な能力の芽を摘んでしまっているマネージャーもいます。
なぜこのような意識を抱いてしまうのでしょうか?
それは人の上に立っている人の心が、部下のことを見下(みくだ)しているからなのです。

潜在意識の中に、部下が成長して自分を追い越していくのではないか、という恐怖心があるわけです。
言い換えれば、劣等感を避けて優越感に浸っていたいという抵抗感かも知れません。

自分よりも優秀で、活躍する人が部下や後継者の中から育ってくるというのは「出藍(しゅつらん)の誉(ほま)れ」
であり、最高の喜びのはずです。ところが、まだまだ自分の努力や功績を認めて欲しい、自分以外の人がチヤホヤ
されるのはやっぱり納得できない、という心情なのでしょう。
では、経営者にとっての”善き友”とはどのような人なのか?

それは共に経営をする人です。営業や技術者、マネージャーなど立場や雇用形態が違っても、経営者と同じ目線で
考えてくれる人がいます。そんな人が”善き友”ではないでしょうか。
人材の採用環境が厳しくなってきました。これからはパート・アルバイトや派遣社員を活用しないと回らない企業が
増えるでしょう。人材派遣会社は供給が追いつかない状況になるかもしれません。

だからこそ、雇用形態は様々でも”善き友”と出会えることを信じて、人とのご縁を大切に考える経営者が益々必要に
なっていくように思います。

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