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バイマンスリーワーズBimonthly Words

成長に終わりなし

2007年03月

「好きな言葉と言われると、すぐには思い浮かびませんね。……ただ、嫌いな言葉ならありますよ。それは『成功』。この言葉、嫌いです」
「自分の中で立てた目標を成し遂げた、そのことを成功というのならわかります。でも、他人が言う成功を追いかけ始めたら、
何が成功かわからなくなってしまいます。それに、成功したと言いながら、人を蹴落として成功した、という場合もあるじゃないですか。
成功という言葉には、他人はどうでもいい、他人を蹴落として自分が上がっていくみたいな印象もあります」(イチローイズム 集英社刊)

メジャーに行く時、”イチローは成功できるか?”という言葉がマスコミの間で飛び交っていました。 その頃の彼のメッセージです。
少々、天邪鬼で生意気な発言に感じる方があるかもしれませんが、さすがイチロー。
私はみごとな言葉だと感じ入ります。

さあ、史上空前の契約金に大騒ぎした今年の松坂投手は、はたして”成功”できるのでしょうか? 日本を代表するピッチャーであり、イチローと
同様、実力の面では心配ありません。

しかし、松坂投手が”必ず成功する”という保証はないのです。
近年の日本のプロ野球は、実力が国内トップの域に上り詰めたらメジャー行き、という構図ができあがっています。ところが、メジャーで
トップクラスを維持するのは、ほんの一握り。

ちょっとした気の緩みから調子を崩し、不運にもケガや病気から再起できないケースもあります。 近鉄優勝の立役者で本塁打王にも輝いた
中村紀洋選手(通称”中村ノリ”)も国内での輝かしい実績を引っさげて、海を渡った一人でした。ところが、大リーグではパッとせずに一年で
帰国。再起をかけたオリックスでもケガで結果を出せず、自由契約選手になってしまいました。

成功を収めるのは、なんと難しいことでしょうか。
ビジネスの世界も同じで、成功できる企業はほんの一握り。
だから、私達の関心は”どうすれば成功できるか”に向かうのです。

「制約条件」を解決しなければ「成功要因」は得られない

そのことを、難しくいえば「成功要因」( KFS:Key Factor for Success )と呼びます。
成功要因とは、その事業の特性や規模によって違いますが、特殊な技術力、ユニークな商品開発力、
独自の販売方法といったことで、企業が競争優位性を確保するのにはどうしても必要な事項です。

コンサルタントが企業の支援に入る時は、その事業の成功要因をつかんでおくのが定石です。
そして、この成功要因を獲得するために具体的な経営支援に入るのですが、残念ながら当初の
計画通りには遅々として進まないのが実態です。

それはいったいなぜなのか? じつは「成功要因」の裏側には、「成功を阻害する要因」がひそんで
いるのです。
成功を阻害する要因とは、資金や設備の不足、制度の不備、法律による規制、社員のモラール、
といった内容で、すべての企業が抱えている問題であり、経営学では「制約条件」とも呼ばれます。

スポーツ選手なら、ケガや病気、練習場所の確保、といったことが制約条件にあたるでしょう。
コンサルタントは「成功要因」だけでなく「制約条件」をキチンと把握しながら支援しないと、
空回りの活動になり、結果として成果は出ないのです。
企業は内部活動を充実させながら、市場に対する外部活動によって業績が上がります。

つまり「成功要因」とは、この外部への活動のことであり、「制約条件」を解決しなければ、
成功要因を得ることができない、という構図になります。
成功要因と制約条件の関係を、「陰陽」の関係で考えるとよく分かります。

たとえば、精神(陰)が不安定になれば、身体(陽)の調子がおかしくなり、 家庭(陰)が
平穏でなければ、仕事(陽)に打ち込むことができない、という関係と同じです。

「成功」は約束されていない。しかし「成長」は約束されている

私達にとっての”成功”の意味をもう少し考えておきましょう。
多摩大学大学院教授でシンクタンク・ソフィアバンク代表の田坂広志氏の言葉です。
~ 人生において”成功”は約束されていない。しかし”成長”は約束されている ~
「財産を形成したり、出世や有名になることが人生成功の定義であるならば、 成功は約束されていない。
どれほどの努力をしても、ほんのわずかな出来事ですべての夢が破れ去ることがある。

だから、そこに「幻想」を抱いてはならない。
では、人生とはそれほど虚しいものなのか…。
そうではない。
人生において成功は約束されていないけれども、成長は約束されている。

たとえば、ある一つの挫折、失敗、困難など、どのようなことがあっても、 我々の中に”人間としての
成長を遂げていく”という覚悟があれば、 むしろ困難が大きく、挫折が深ければ深いほど、成長できる。
それは、命尽きるまで成長できるのです。」
私自身も”成功したい”と強く思う時期がありました。

目の前に起こる様々な問題は、成功を妨げる現象であり、 せっかちな私にとっては、いつもイライラの
原因になっていたように思います。
「早くこの問題が消えてなくなれ!」と邪魔者扱いをするような感覚が、心の奥底に残っています。
そして、今になって強い反省が湧き上がってきます。

あの時の私は、目の前に起こったあの問題に対して”正対”していただろうか?
己の成功を求めるあまり、目の前の大切な人を軽んじ”邪魔者扱い”をしなかっただろうか?
何のことはない、そういう今の自分は目の前の問題に対し、きちんと対応しているのだろうか?
そんな恥ずかしい想いを抱かずにはいられません。

  「成功」と「成長」

たった一字違いで、ほぼ同じような意味に聞こえる言葉です。
でも、それは違いました…。「成功」と「成長」は全く対極にある言葉だったのです。

成長させるのは自分、成長を止めるのも自分

「制約条件」を邪魔者のように扱ってはなりません。
まして、敵視したり、逃げたりするようなことがあってはなりません。
よく考えてみましょう。
たしかに「制約条件」は「成功」のためには、「邪魔な存在」です。
ところが「制約条件」は「成長」のためには、「最良の糧になる」ことに気がつくのです。

たとえば、「数字が苦手です」という若い経営者がいます。中には数字コンプレックスから、
経営に真正面から取り組むことから逃避している方もいます。成長が止まっているのです。
一方で、その会社が資金繰りに苦しんでいるとしましょう。これは「制約条件」です。
数字に強くなろうと思って、BSやPLをどれだけ分析しても、資金繰りは良くなりません。
ではどうすればいいのか?

数字に強くなることよりも「お金の出し入れ」つまり、資金繰りに強くなることが大切なのです。
無駄な資金は一切出さず、資金の流入を最大にするという資金繰りを、自ら実行すればいいのです。

自己犠牲を払い、倒産すれすれの資金繰りを経験していくうちに、単に数字に強いだけでは、
経営はできないことが実感できるでしょう。そして、そんな苦しい経験を積み重ねていくうちに、
「俺はつらい体験から数字以上に大切なことを学んだ」「あの経験をして何も恐いものはない」
と言い切れる”自信”が、心の奥底から湧き出てくることでしょう。

我が社の社員は能力に乏しいとか、意識レベルが低い、というのも同じこと。
人の問題を、嘆き、愚痴を並べても何の解決にもなりません。
逆説のようですが、優秀な社員ばかりに囲まれていたら、人を育てるチャンスは来ないのです。
ですから、あなたの「人材育成能力」を高める絶好のチャンスが来ていると考えましょう。
「理屈では分かるが、やっぱりそれはきれい事だよ…」と感じる方があると思います。

しかしそのように考えた時、あなたの成長は止まります。あなた自身があなたの成長を止めたのです。
「この忌わしい制約条件が、己を成長させてくれるのだ」と心の底から思えるようになれば、あなたは
更なる成長に向かうのです。

43歳でプロ野球史上最大の減俸額を享受し、現役投手を続ける工藤公康。57歳の今でも140キロ
の剛速球を投げる村田兆治。二人はこれまで幾度となく、挫折や敗北を味わってきたことでしょう。

しかし、そのたびに困難を克服し、そして、今も更なる挑戦を続けている姿を見ていると、
「自分を成長させるのは自分、成長を止めるのも自分。成長自体に終わりはない!」
と叫んでいるように思えてなりません。

さあ、日本一の投手としてメジャーの舞台に立つ26歳の松坂は、どのような人生を歩むのか?
よほどのアクシデントがない限り、それなりの結果を出すでしょう。が、思いもよらぬ不調や苦難も、
いつか体験するに違いありません。

その時には、”今が成長できる時、成長に終わりなし!”と叫んでくれることを願っています。

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