Now Loading

株式会社新経営サービス

Books
出版物

バイマンスリーワーズBimonthly Words

どっこいしょ

2020年09月

~ 監視社会は「体外」から「皮下」になる恐れがある ~
世界的な歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ氏が警鐘を鳴らす。
今回の流行で政府や企業による人々の追跡や監視は、
歴史上の重大な分岐点となるのではないかという。

感染症を封じるには全国民が特定の指針に従う必要があります。
仮に体温や心拍数が計測できるリストバンド型の生体情報センサーを、
常時着用するよう、ある政府が全国民に義務付けたとしましょう。
人類の歴史上、初めてすべての人を常時監視できた瞬間です。

生体情報センサーは、どこで、誰と会ったかを監視するだけでなく、
皮下監視によって本人が気づかなくても病気を検知できます。
結果、この国の感染連鎖を封じ込めることができるわけで、
人類を感染症から救う、なんと画期的な仕組みでしょう。

しかし、怒りや喜びも、発熱や咳と同じ現象であり、
皮下監視は何があなたを笑わせ、泣かせ、怒らせるかも把握する。
たとえば仮に北朝鮮で、かの偉大なる国家指導者の演説を聴いている時、
誰かのセンサーが“怒り”を検知したら、その人は一巻の終わりだとハラリ氏はいう。

人の心の中までも監視する技術が開発されました。
あとはいかなる理由で全国民にセンサーを装着させるか?
日本政府も「接触確認アプリ(COCOA)」の普及に躍起ですが、
人口の6割に達しないと意味はないという。

そんな時、「プライバシーと健康のどちらを優先させるのですか」
政府からこんな要請があったらあなたはどうするか?

秘することが最大の花を生む秘伝である

「壁に耳あり 障子に目あり」
この諺ができたのは忍者が活躍した頃でしょうか、
当時は人間が、眼・耳・鼻・舌・身の五感を使った時代でした。

今はそれを高性能なセンサーがやっています。
防犯カメラは人を、カーナビは車の動きをキャッチし、
スマホは通信や位置情報、ドローンは上空から偵察しています。
高度な監視は犯罪リスクを低下させ、安全で安心な社会に向かわせます。

ところが、ハラリ氏の指摘は五感を通った結果の、
「心(意識)の変化」までが監視されるというものです。
ハラリ氏は中国やイスラエルなどいくつかの国の名前を挙げ、
それらの政府は国民の体温や皮下の血圧を知りたがっているという。

行動を監視されるのも嫌なものだが、
心の中まで覗かれ管理されるのもたまったものではない。

日本には、秘めるからこそ花になるという「秘すれば花」の文化がある。
秘伝それ自体は、必ずしも深遠で完成度の高いものでなくても、
あえて他人に知られないことが最大の効果を発揮する。
秘することが最大の花を生む秘伝である、という。

誰も気付いていない意外性が感動を生み、勝利の秘策になる。
経営者の心中が筒抜けになったら、事業の成否にも影響します。
しかし、抵抗して何か隠しているのかと詮索されるのもバカらしい。
ならば開き直って、いつ覗かれてもいい状態にしておこうではないか…。

困難は解決策を連れてくる

~ どっこいしょ ~
人が立ったり座ったりする時、思わず口にするこの言葉。
これは山岳崇拝の行者が霊山に登る時の掛け声である、
「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」が訛って伝わったらしい。

外界と接する感覚器官の眼・耳・鼻・舌・身を五根といい、
五根を通じて生まれた心(意識)を足して、六根と呼ばれます。
心(意識)には、我欲や執着、妄想、慢心といった“煩悩”があり、
これらを断ち切って清浄な心を得たいという祈りが「六根清浄」。
それが「六根浄」に略され、「どっこいしょ」になったという。

煩悩の根本には、「三毒」があるとされています。
それは「むさぼる心」「怒りの心」「ねたむ心」の三つで、
人間が生きている以上、どうしても浮かんでくる心だという。
このどうしようもない三毒に、私たちはどう向き合えばいいのか?

仏法では三毒を“消し去る”とは考えません。
転じることができるものは「転じる」ように、
断ち切れるものは「断ち切る」ように、とされている。
コロナ対策と同じで“抑えて、制御する”のが基本です。

経営者の視点で「転じる」の意味を考えてみましょう。
日本電産の永守重信会長は何度もおとずれた危機を、
チャンスに反転させて成長を続けてきました。
そこで得られた教訓が、~ 困難は解決策を連れてくる ~

「誰でも“困難さん”から逃げたいと思うだろう。そこで、困難さんから逃げると、
困難さんは脇を通り過ぎていくが、ふとその背中を見たら後ろに『解決策』という
リュックを背負っているじゃないか。逃げたら解決策も逃げていくんだ」
永守会長はこうやって「心の有り様」を転じ、危機を乗り越えたのです。

世間は「助成金は出るのか?」「その程度では全く足りない」という風向きが強い。
もちろん国の政策によって窮地に追い込まれた人は救済しなければならない。
しかし、「困ったら国が助けてくれる」「銀行に助けてもらおう…」
このような甘えた姿勢の経営者なら、座して死を待つばかり。
困った時こそ成長のチャンスが潜んでいると考えたい。

特効薬を期待しない経営をしよう

もう一つの「断ち切る」とはどういうことか。
コロナを恨み、誰かを恨む心はだんだん毒に変質する。
思わず自分の口から、不平不満・愚痴や文句が出てきたら
これこそ周辺に毒を撒き散らし、多大な迷惑をかけている…。

こんな時には迷いなくズバッと断ち切ろう。
恨む心は、すべて自分の心に返ってくるから…。
コロナの特効薬も経済の特効薬も期待しないでおこう。
何かに依存し、救済を期待する心は甘えで毒されているから。

企業の多くが体力を失い、体質も相当弱っています。
経済全体が戻っても、我が社が良くなるとは限りません。
今の日本はほぼ鎖国状態なので、なんとかやっていますが、
この実力レベルで世界に出たら、コテンパンにやられてしまう。

ここで経営者が自らの甘えを断ち切り、どっこいしょ、と立ち上がろう。
経営者が心を汚してなるものか…そこでひと声、どっこいしょ!
でもまた汚れたら、そのたびに心の消毒、どっこいしょ!

さて、冒頭の「プライバシーと健康のどちらを優先させるか」の問題です。
哲学者でもあり“現代の知の巨人”と呼ばれるハラリ氏はこう主張する。
「プライバシーと健康のどちらを選ぶかという設定が誤っている。
なぜなら私たちはプライバシーと健康の両方を享受できるからだ」

私たちは今、感染予防と経済回復の間をさまよっていますが、
ハラリ氏の主張は当然のことながらうっかり見落とす見解でした。
プライバシーと健康のどちらも犠牲にしてはならないのと同じように、
感染予防を徹底しながら、会社の成長についてもっともっと真剣に考えよう。

文字サイズ