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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

利他の心

2011年05月

一瞬のうちに多くの尊い命を奪い去った大震災。
残された私達は、間違いなく”生かされて”います。
今回の大震災は、中小企業にとってどのような意味があり、
企業のリーダーは何を教訓とすべきか考えておきたいと思います。

生かされている自分には、いったい何ができるのか…。
未だ多くの人が被災地で辛い思いをし、原発被害に苦しむ人がいる。
せめて心ばかりのお金を、と思ったら有名人が巨額の義援金を続々と発表。
10億円でビックリしていたら、100億円をポンと出した経営者もいました。
何とかしてあげたい、でもこれといったことのできない自分がもどかしい…。

「天国と地獄の長い箸」という話がありました。
地獄では、1メートル位の長い箸で食事をしますが、
あまりにも長いために、口に入れるのにたいへん苦労をします。
躍起になればなるほど食べられず、まさに”我利我利亡者(がりがりもうじゃ)”の姿です。

一方、天国の人達も同じ長い箸を使っていますが、
どういうわけでしょうか、皆が楽しく食事をしています。
そう、天国では長い箸を使って前にいる人の口へ食べ物を運び、
相手も自分の口へ運んでくれる、そんな助け合いをしていたのです。

今回の震災では自分の安全は顧みず、人命救助に向かった人が大勢いました。
勇気ある行動のおかげで、多くのお年寄りや子供達が助かったのです。
ところが救出に向かったまま津波にのまれ、帰らぬ人も多かった。
自分を犠牲にし、他人を助けることがどうなのか…、わからなくなります。

リーダーの姿勢で組織が変わる
「カルネアデスの舟板」という話もあります。
一隻の船が難破し、乗組員全員が海に投げ出されるが、
一人の男が命からがら、一片の板切れにすがりつくことができた。

するとそこへもう一人、同じ板につかまろうとする者が現れて、
二人だと沈んでしまうと考えた男は、後の者を突き飛ばして水死させます。
その後、救助された男は殺人の罪で裁判にかけられたが、罪に問われなかったという。

古代ギリシアの哲学者カルネアデスが出したこの命題は、
今の日本の刑法37条にある「緊急避難」に該当し、罪には問われない。
松本清張の小説のタイトルにもなったこの話は、命の問題に究極の選択を迫ってきます。

切羽詰まった状態に置かれた時、あなたは自分か相手のどちらを優先させるでしょうか。
いざという時、職場のリーダーが己の保身と利益に走ったらどうでしょう。
大抵の人なら、それにつられて同じような行動に出てしまいます。
まして企業のトップだったら、それは会社全体に広がります。

仏法の教えに「自利利他」というものがあります。
「自利」とは自らの悟りのために修行し努力することで、
「利他」とは他の人の救済のために尽くすこと。
この二つを共に完全に行うことが大乗仏教の理想とされています。

経営者は、お客様のため、社会のために貢献したいと腹の底から願っています。
ことあるごとに社員に訴え、それを実行に移すことが「利他」の実践。
しかし、自社の利益を考えないで経営をするわけにもいきません。
私達は、他者と自分のどちらの利益を優先させればいいのか…。

自利とは利他をいう

日本最大の税理士ネットワークを有するTKC全国会の飯塚毅初代会長は、
基本理念である「自利 利他」について次のように述べています。

「私は、『自利とは利他をいう』(最澄伝教大師伝)と解するのが最も正しいと信ずる。
般若心経は、色即是空と説くが、それは『色』を滅して『空』に至るのではなく、
色そのままに空であるという真理を表現している。
同様に『自利とは利他をいう』とは、
『利他』のまっただ中で『自利』を覚知すること、すなわち
『自利 即 利他』の意味である。」(TKC全国会 ホームページより)

「自利 利他」とは、自分はさておき、人のために何かをするという意味ではない。
他人に貢献すれば、いつかは自分の利益になる、そんな浅はかな考えでもない。
「自利 利他」とは、どちらが大切で、どちらが先かというものでなく、
利他の実践がそのまま自分の幸せになる、という見解です。

誰かの役に立ちたい、社会のために働きたいという願望を持っている経営者。
そんな願望を抱く自分の中に、ふっと疑問が湧きおこる瞬間があります。
「これは己の欲望を満たそうとする”エゴ”ではないのか…?」
この疑問こそ「自利 利他」の本質を知るカギに触れた瞬間です。

ここで、私達が間違ってはならない問題があります。
「利他の実践は誰のために行うのか?」
部下の指導、売り買いの場面など、日常業務の中にその人はいる。
不遇の天才詩人、金子みすゞ の作品『蜂と神さま』から答えを見つけることができます。

『蜂と神さま』
蜂はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
お庭は土塀のなかに、
土塀は町のなかに、
町は日本のなかに、
日本は世界のなかに、
世界は神さまのなかに。
さうして、さうして、神さまは、
小ちゃな蜂のなかに。

本業を通じて社会貢献を果たす

経営者とは、利他を実践する職業。
利他を実践するためには、強固な意志と、
健康な体力を維持し、自立しなければならない。
人は自分が溺れながら、溺れる人を助けることはできません。

今、誰もが”何かできないか”という強い思いを持っている。
経済社会に生きる私達は、やはり経済活動で貢献することが本筋。

小さな会社であっても、本業の存続と成長を通じて社会貢献を果たすこと。
震災の影響をまともに受けた企業は、まず自立することに全力を尽くしましょう。
これが、震災復興という「利他」の実践に必要な「自利」につながります。

明治維新、戦後復興という奇跡的な偉業を成し遂げた日本。
私達は震災復興という三度目の奇跡を起こさなければなりません。

略奪もなく、お互いに譲り合い、節度を失わずに行動する被災地の人たち。
日本では当たり前のこの姿に、世界中から賞賛の声が寄せられている。
日本に「利他の心」が脈々と受け継がれていたことに安堵(あんど)し、
利他の心がある限り、復興は必ずできると確信します。

私はなぜ今、この世に生まれ、何をするために命が与えられたのか…。
私の前には、どうなるか全くわからない未来が存在する。
震災による経済の大津波はこれからやってくる。
私にとって本番の経営人生が始まる。
命をかけて取り組もう。

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