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バイマンスリーワーズBimonthly Words

天命に従い 人事を尽くす

2012年11月

忙しさという意味から経営者のタイプを分けると、次の三つに分かれそうです。
まず、過去と現在に発生した問題処理に追われる「問題処理型」の経営者。
迫っている納期、当面の資金繰りなど、社内外で発生する問題に追われ、
いつか根本解決したいと思いつつ、目の前の問題に忙殺される毎日です。

次は、未来に向けての課題の取り組みに忙しい「未来志向型」の経営者。
自らが設定した課題がたくさんあって、それを追いかけるのに忙しい。
このタイプは、少しずつでも課題が解決されるといいのですが、
トラブルが続いて停滞すると、目標を見失って迷走します。

最後は、本業でやることが見つからない「時間浪費型」の経営者。
現場で活躍できる場面がなく、課題も見えないので空回りの状態です。
一時の成功に溺れた経営者や、遊びや趣味に没頭する後継経営者もいます。
中にはギャンブル依存症で、巨額の損失を出した大手製紙会社のトップもいました。

「忙しい」の「忙」を分解すると「心」を「亡くす」となり、
心がそこに存在しないという意味から、この言葉は敬遠されました。
時間浪費型のリーダーは忙しくないのに、まともな心を失っているのは確かです。

忙しいことは悪いことではありません。
未来志向型のリーダーでも、目の前の問題に追われるかもしれない。
また、わずかなことから時間浪費型の人生に陥(おちい)るかもしれない。
リーダーの軸がぶれると、企業も人生もおかしくなるのです。

やることがいっぱいで死んでる場合じゃない

革新的なインテリアアートで活躍する和紙デザイナーの堀木エリ子さん。
大阪の高校を卒業後、4年間の銀行員生活を経て、和紙商品開発会社に転職。
そこで手漉き和紙と出逢い、呉服問屋の事業部として「SHIMUS」を開設し、
2000年には(株)堀木エリ子&アソシエイツを設立しました。
作品は畳三枚分が基本で、「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに創作を続けています。

ところが仕事が進みだした39歳の時、悪性ガンが見つかり手術を受けることに。
死期を感じた堀木さんは作品の対処法などを遺言状として書き出しました。
すると、生きている間にこんなにやるべきことがあるのか、と気づき、
「スタッフだけでは到底無理。とても死んでる場合じゃない。私がやらなければ!」
と思い直し、書いたことを次々と自分で実践しました。

そして、成田空港のロビー、有名ホテルや商業施設の作品を次々と手がけます。
その依頼は国内だけでなく世界中から舞い込むようになり、
結果、遺言に書いたことは3年ですべてやり遂げたという。

普通の人なら死を感じると、前向きに考えることは難しい。
「ここまでやってきたのに、何で私にこんな運命が…?」
と、絶望感に苛まれ、仕事ができなくなって当たり前。
ところがなぜ、堀木さんは死を感じて遺言状を書いたのか?
遺言は財産分与など”死後のため”に書き記すものなのに、
なぜ堀木さんは”死ぬまでにやること”を書き綴っていったのか…。

天命を覚悟した人は、実践することが使命

経営者という職業は、法律の範囲内なら何をやっても自由で免許も不要です。
だから経営者の軸がしっかりしないと、フワフワとした事業になる。
数多ある仕事のうち、経営者ほどぶれやすい職業はないでしょう。
私は経営者には向いていないのでは? と落ち込むこともしばしばです。

堀木さんはいう。
「天職ってみつけるものじゃないと思うんです。
『この仕事を生涯かけてやろう』と覚悟し、決心することなんです。
若い人が『一生懸命になれるものが見つからない』と嘆いていますが、
それは見つからないんじゃなくて、決心しないだけ」

人は、生と死の淵に直面した時、ふと気づくことがある。
私達は自分で生きているのではなく、大きな存在によって生かされている…と。
そう、自分の命は、自分のものでありながら、自分のものではないのです。
天から与えられた「天命」に従い、いかにして「天職」を全うするか?

天命に従い つぶさに 人事を尽くす

モラロジー(道徳科学)の提唱者、廣池千九郎博士の言葉です。
一般的には、「人事を尽くして天命を待つ」といわれますが、
力の限りの努力をしたら、その後は天命に任せるという姿勢はどうか…。

「人事を尽くして…」では、事の成否は人知を超えたところにあり、
どんな結果になろうとも悔いはない、という心境の重要性を説いています。
しかし、天命を自覚した人間にとっては、心境の問題はすでに解決しており、
人事を尽くすこと、つまり「力の限りに実行する」ことの方が重要なのです。

人事を尽くして天命を待つにあらず。 現在の職務に人事を尽くすこと、そのことが天命であり、
ならば天命に従って、与えられている職務に人事を尽くせばいい。

すべての人に天命が与えられている。
多くのビジネスマンは今の仕事を天職とは思っていない。
ましてや天命は何か、に気づいている企業のリーダーはわずか。
あなたは天職を自覚し、何が天命なのか気づいているでしょうか?

仕事観を分かりやすく教えてくれる寓話があります。
旅人が、教会を建設中の三人の石切り職人に「何をしているのですか」と尋ねました。
すると、一人目の石切り職人は「お金を稼ぐためさ!」と言い、
二人目は「この大きくて固い石を切る為に、悪戦苦闘しているんだ!」と答え、
三人目は「多くの人々の心の安らぎになる教会を建設しています」と語ったという。

堀木さんは、手漉き和紙の尊い営みを脈々と受け継いできた職人さんの姿に衝撃を受け、
「手漉き和紙という尊い技術をつなげていくのが私の使命です。」と語ります。
ガンを克服し、こんな心境に至ったリーダーの生き様にブレはありません。
そんな堀木さんは、「現在の自分を見直すためのもの」として、
今も2~3年ごとに遺言状を書き直しているという。

すべての人に天命が与えられています。
そして、その天命を果たすための役割として、
今のあなたの実力に見合った職務が与えられている。
天命を知るには、今の職務に有らん限りの人事を尽くせばいいのです。

秋も深まり、彩り豊かな季節となりました。
同時に、今年を締めくくるには何をやるかを見直す時期。
バタバタと忙しさにかまけ、まともな心を亡くさないようにしないと…。
天空に輝く自分の星を見据え、ぶれない経営の実践に尽くしていきたい。

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