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バイマンスリーワーズBimonthly Words

花を咲かせる土になれ

2013年07月

参院選が間近となりました。
今回の選挙は憲法改正に結びつく重要な選挙。
憲法は日本で唯一、国民が権力者を縛ることができる仕組みです。
政治家、官僚などの権力者が暴走しないように国民がブレーキをかける。
私たちは今、日本がまた戦争に向かうのか、踏み留まるのかの分岐点に立っています。

さて、某高校バスケット部員の自殺をきっかけに、
女子柔道界などで今も指導者による体罰が問題になっています。
体罰は過去に自分自身が体罰を受けたことの反動であり、
どんな事情があっても’暴力はいけません’。

指導者による体罰は次の世代に受け継がれるため、
体罰の連鎖は、いつか誰かが止めなければならない。
教える側にとっては、時間のかかる方法であっても、
本人が納得し、自分で考え、行動する指導であって欲しい。

企業では、部下の指導に悩む管理者が少なくありません。
一方的に自説をたたき込んでも理解してもらえない。
かといって、強引な指導はパワハラになってしまう。
人を指導するのはなんて難しいのでしょう。

国民栄誉賞の松井秀喜氏を星稜高校時代に育てた山下智茂 監督。(現在は名誉監督)
野球の技術だけでなく、生徒の人間教育も徹底していたことで知られ、
その指導方法は、そのままビジネス社会にも通用します。

人の指導には、必ず壁があらわれる

山下監督の指導方針は、一年生では礼儀、二年生には努力、三年生になって感謝だという。
まず、一年生の礼儀はこのように教えます。
「今の子供は叱られたことがない。だから一年生では叱られ方を教えることが大切。
叱られた時、ふてくされる人は三流、うつむく人は二流、『ありがとうございました』と、言える人が一流。」

二年生では努力の大切さを教えます。
「黙っていても勉強や素振りをする人が一流、言われてやる人は二流、言われてもやらない人は三流だ。」
そして、三年生になってから周りの人に対する感謝の気持ちを学ばせる。

山下監督はとにかく本をよく読みます。
松井選手には自分が読んで「いいな」と思った本を渡していて、
野球の本に始まり、次第に「宮本武蔵」や「徳川家康」などの歴史小説、
最後には中国の歴史書とか哲学書を薦めて読ませていたという。
「日本一のバッターを目指すなら、心も日本一になれ」が松井選手への口癖でした。

野球の監督は、企業では管理者になるでしょう。
管理者の仕事は、部下の行動や実績を管理することではありません。
部下が成長するための指導こそが、本質的な仕事であり、
業績は部下が順調に成長しているかどうかの証です。

管理者とは指導者なのです。
指導理論をマスターすれば格好はついてきますが、
相手も人間であり、結果を出すのはそう簡単なことではない。
誰もが悩み、苦しみ、いつかは指導の壁があらわれます。

人の指導は、自分の指導

山下監督が指導者としての壁にぶつかった試合があります。
それは昭和54年、簑島高校と延長18回を戦った夏の甲子園。
高校野球史上最高の試合ともいわれるこの試合、星稜は3対4で敗れました。
「なぜ負けたのか…。」

試合後も悩み、苦しみながらずっと気になっていたことがありました。
それが「尾藤スマイル」。
相手ベンチの尾藤監督が、いつも笑顔で指揮を執っていたのです。
「あのとき尾藤さんは選手を信じ切っていた。だから何度窮地に追い込まれても、
ベンチで笑顔でいられた。自分はずっと難しい顔をしていた。
選手を信じて待つこと。私はそれができなかった」

山下監督はそれまで”俺が、俺が…”という野球をやっていた。
しかし、いつかはその”俺”を捨てなければならない。
監督の心得は、「待つ、信じる、許す」であることに気づいたという。
指導者の壁は自分の中にあり、決して相手の中にはありません。
山下監督は”選手を信じて待つこと”ができなかった自分の心が壁でした。
壁を作った犯人が自分自身であることに気づくと、指導者の壁がぶち破られる。

指導者は悩むところに価値があります。
悩みがなければ体罰などの安易な方法に流される。
悩むことで壁が生まれ、その壁は新たな成長に向けての扉となる。
考えを変え、行動を変えることで、相手が変わり、扉が開かれるのです。

人の指導に完成形はありません。
若い社員には厳しく教えるのが通例ですが、
時には、「待つ、信じる、許す」という方法もある。
~ 教えることは学ぶこと ~
何度も壁にぶつかり、新たな発見をする…。
人の指導は自分への指導なのです。

企業の成長のカギは、管理者が握っている

山下監督には自らに言い聞かせてきた座右の銘があります。
~ 花よりも 花を咲かせる土になれ ~
教え子が野球だけではなく、人間としての”人生の花”を咲かせるよう、
自分はそのための土になる…そんな思いが込められています。

また、山下監督はグラウンドの隅で選手たちに花を育てさせ、
種を蒔いても、水をやり、手入れしないと花は咲かないと教えている。
高野連は全国の若手指導者を育てる目的で「甲子園塾」を開催していますが、
山下監督はその塾長として、勝つことよりも人を育てることの重要性を説いている。

人は年輪を重ねるうちに、自分の花を咲かせるより、
育てた花が元気に咲くことに喜びを感じるようになる。
指導者の中にそんな愛情があれば、体罰なんかあろうはずがない。

人間の成長は概ね指導者で決まります。
そして企業の成長のカギは管理者が握っています。
だから経営者は指導者を育てようとするが、これが難しい。
もしかすると経営者の最大の難関が、指導者を育てることかもしれません。

優れた技術者を揃えても、新しい成長事業に進出しても、
優秀な管理者がいないために衰退した例は、枚挙にいとまがない。
ヘッドハンティングで調達する方法に頼ると、いずれツケが廻ってくる。
なかなか成果が出なくても、指導者を育てる経営をあきらめてはいけません。

経営者は経済の世界に生きる指導者です。
だからこそ経済以外にも心を配る人間でありたい。
憲法改正か、護憲かを議論する前に心しておくことがあります。
未来を担う子供たちのために、どんな事情があっても’戦争はいけません’。

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