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バイマンスリーワーズBimonthly Words

功徳を求めれば 功徳なし

2022年09月

「初めて自分で自分を褒めたいと思います」
女子マラソン選手として ’92のバルセロナ五輪で銀メダル、
’96年のアトランタで銅メダルを獲得した有森裕子さん。
2大会連続でメダルを獲得した時の感動の言葉です。

「メダルの色は、銅かもしれませんけれども、
終わってから、なんでもっと頑張れなかったのか…、
と思うレースはしたくなかったし、今回はそう思っていないし…」
前回よりも順位を下げたとはいえ、怪我やスランプを克服した自分に対し、
涙をこらえながら語った冒頭の言葉は、その年の流行語大賞にも選ばれました。

~ 自分で自分を褒めたい ~
この言葉が多くの人々の心をとらえたのは、
「銅メダル、よくやった」という気持ちだけではなく、
当時の日本人が自分を褒めてくれる存在を求めていたのでしょう。

頑張った自分を誰も褒めてくれないけれど、
こうすれば少しは心が楽になると感じたのか…。
あの頃から、何かあった時に自分にプレゼントをする、
「自分へのご褒美」が流行し、今もその市場は成長しています。

人は誰もが「自分を認めて欲しい」という欲求を持っていて、
心理学ではこれを「承認欲求」と呼んでいます。
組織のリーダーとして上司や部下から認められ、
同僚や他部門からも認められるにはどうすればいいのか…。

その努力は自分のためか 人のためか それとも…

まず一般社員が上下関係で、特に上司に認められるには、
実務の勉強に加えて課長としての勉強を始めるといい。
すると、課長が私に何をして欲しいかが良くわかり、
関係が強化され、より早く上司に認められます。

次に課長になったら、部長の勉強も始めることで、
部長が私に対して何を求めているのか、がよくわかる。
そして部長になったら経営者としての勉強を始めることで、
何かあった時に経営ができる人物として一目置かれるでしょう。

もちろん現実はそうは簡単にいかないでしょうが、
常に一歩先のことを考えるリーダーを育成することは、
事業を継続的に発展させる上での重要な政策の一つです。
では“経営者になったらどんな勉強を?”については、のちほど…。

自分が成長するための努力が認められると、
承認欲求が大いに満たされ、自信が高まります。
とくに資格を取得したり、実力を高める訓練を積めば、
個人の努力は、結果として組織への貢献にもつながります。

自分のために努力するのか、組織のために頑張るのか…。
このテーマは堂々巡りの議論になるかも知れませんが、
「自分の利益のために行動している」と誤解されると、
同僚や他部門からの評価が一挙に下がるところが難しい。

日本には「功徳」と呼ばれる仏教用語があります。
功徳とは、見返りを求めず他者に対して善行を積む行為で、
お寺や仏像を造ったり、写経や祈祷をするのが功徳の代表例。
結果として得られる神仏からの恵みを「功徳を得る」といいます。

功徳は、掃除をする、人に笑顔で優しく接する、席を譲るなど、
財産や権力がない人でもできる平易な行為を勧めていますが、
見返りを求めないことが大切な心構えとされています。

見返りを求めると善行が悪行に変わる

禅宗の開祖・達磨大師は人々の迷いを救うためインドから中国に渡りました。
時の皇帝・武帝は篤い仏教信者で、宮中に達磨大師を招いて質問しました。
「私はこれまでたくさんの寺を建立し、僧侶を育て、写経もしました。
将来、私にはどれだけの功徳がもたらされるでしょうか?」

武帝は見返りを求めて功徳を重ねたわけではないでしょう。
ただ、実績としてこれだけの貢献をしてきたならば、
将来においてどれほどの功徳が得られるものか、
それを知りたくて達磨大師に訊ねたのです。

ところが、達磨大師の答えは厳しいものでした。
「無功徳」~ 功徳は無い ~
武帝の行いの、どれもこれも果報を受けられるものではない。
功徳を欲しがって行う善行が何の役に立つであろうか…。

武帝は自分のこれまでの善行について大師に褒められたい、
認められたいという純粋な気持ちだったのでしょう。
しかし、そんな「認めて欲しい」という心持ちが、
せっかくの善行を悪行にさせてしまうという。

経営者にもこれまで頑張ったことへの承認欲求があります。
それはもちろん、地位や名誉、金銭的な見返りの欲求ではなく、
周りの人から認められたい、褒められたい、という純粋な思いです。
しかし、この「認めて欲しい」という思いが見返りになるというのです。

~ 功徳を求めれば 功徳なし ~
見返りを求めて行う善行が、悩みや迷いの原因になり、
結果として悪行になることを、達磨大師は教えてくれました。
ああ、経営とはなんと厳しい仕事なのか、とつくづく感じる話です。

正当なる利益は堂々といただくのが真の経営者である

さて、経営者になったらどんな勉強をすればいいか?…を考えましょう。
それは歴史や哲学、思想や宗教、社会情勢など経営以外の勉強です。
経営以外の世界を知ることで世の中に対する問題意識が高まり、
我社には何が求められているのか、が見えてくるでしょう。

そうすれば、社会に対する純粋な貢献意欲が湧いてきて、
「何のために事業をするのか?」という本質が見えてきます。
事業の本質が見えたら、結果として得る利益は堂々といただけばいい。
これは見返りでなく、社会貢献を継続する上で必要な正当な利益なのです。

今、あらゆる業界が利益を確保するための値上げに向かっています。
ここで、弱者の社員や下請け業者に負担を強いるのは卑怯であり、
顧客離れを恐れて値上げのタイミングを間違ってもなりません。

~ 利益を求めれば 利益なし ~
安易な方向に利益を求めると、利益は逃げます。
社会貢献を継続するために必要な利益を明らかにし、
その利益を得るための価格は堂々と世間に示せばいいのです。

何度も判断に迷い、社員や取引先のため必死で働いてきた経営者。
うまくやって当たり前で、その努力はわかってもらえません。
逆に業績を落とし、大赤字でも出そうものなら批判の嵐。
これまでの苦労は言い訳になり、誰にも理解されません。

でも心の中では「あなたはよくやった。本当によく頑張った!」
と、思いっきり自分で自分のことを褒めてあげましょう。
メダリストの有森裕子さんも、経営者のあなたも、
同じ感情をもった、世界にただ一人の人間なのです。

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