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バイマンスリーワーズBimonthly Words

塞翁が馬

1994年01月

人間万事塞翁が馬

 

昔、胡族と隣接する中国の北辺の要塞《塞》に老人《翁》が住んでいた。ある日、老人の馬が胡族の地へ逃げた。が、名馬をつれて戻ってくる。喜んでいたところだったが、老人の息子がその名馬から落ちて、足が不自由になってしまう。そこへ胡族が来襲し、村の若者のほとんどが戦死したが、けがで戦に参加できなかった息子は命拾いしたという。人生はかくの如きであることをたとえた有名な故事である。

 

一時の成功に夢中になり、浮かれていたバブル絶頂期から一挙に奈落の底へ落ちていった日本経済。しかしあの時には既に、今の大不況は用意されていたようです。私達はまさに「成功の罠」にかかったのでした。

先日お会いしたあるメーカーの社長が次のような話をされました。

「我社の現状は本当に厳しい。しかし、塞翁が馬です。今が悪いと思わないようにしています。」

冷静に、自分に言い聞かせるようにおっしゃるのでした。

不況が長期化し、底バイ状態が続いているからでしょう。このように考える経営者にお会いすることが多くなりました。泰平の時はいつまでも続かない。そこには何かしら不幸の芽が内包し、拡大していきます。反面、厳しくつらい状態が必ずしも不幸とはいえません。現状打破のための精神力とエネルギーが蓄積されるのです。この言葉は今の 私達に、生き抜くための勇気を与えてくれるような気がします。

人生あみだくじ

あみだくじを想い出して下さい。タテの終結点に結果が待っている。そこに至るプロセスとしてハシゴとなる横線を入れていくが、その線の引き方によって終結点が全く違うというのがあみだくじのおもしろさです。

人間の一生もこのあみだくじと似たところがあります。人は生まれた時、本来なら「幸せ」に向かって進める。ところが、その途中でさまざまな事象が起こり、自分で新たな選択をしていく(ヨコのはしご)。その選択が正しい方向に向かっているのかどうかは出口がかくされていてわかりません。ただ、あみだくじでは過去の位置に遡ってハシゴを架け直すことができますが、人生あみだくじでは過去の人生にハシゴを架け直すことはできません。

一流大学を出てエリートコースを着実に昇りつめ、知事の地位にまでたどりついたにもかかわらず、民間業者からのワイロの甘い罠に溺れ、晩年に失脚するという人生もあります。

何とか現状を打破しようとする人は、幸せな人生に向けてのハシゴを自ら架けていきます。

長年、二流企業とのレッテルを貼られ、その屈辱に耐えながら懸命に新商品開発を重ねた結果、一躍業界をリードするメーカーに変身したアサヒビールやシャープの例もあります。

人の人生のみならず、企業運営においても「塞翁が馬」はあるのです。

これまでのハシゴは時に足かせとなり、これまでの足かせは時に助け人となる

企業運営に置き換えてあみだくじをながめると、いろんなことが見えてきます。

タテに経営環境の変化をとり、ヨコのハシゴを経営政策とします。成長路線に誘導する政策のハシゴは成功要因となります。この成功要因のハシゴが自社の安定成長の柱となります。多くの企業でその内容は多品種少量政策や大型設備投資 であったりしたのです。ところが経営環境が変化し、これまでと同じ路線を同じやり方でやっているとその方向は180゜逆転して、衰退に向かっていくのです。これまでのハシゴ(成功要因)は一挙に足かせ(失敗要因)に変化してしまいます。人は成功するとどうしてもその成功法則に頼りたくなります。ところが時に成功法則は失敗法則に転じてしまうのです。これが成功の甘い罠なのです。

 

 ・多品種化で成功したが今は効率低下で右往左往している企業

 ・大口取引先の成長に沿って成功したが、その取引縮小で一挙に損益分岐点割れを起こしている企業

 ・高付加価値商品で成功したが、デフレによる価格下落で客足が大幅に低下している企業

 

以上のような企業が増えています。私達はどのように考えれば良いのでしょう。

恐しいのは、縮小政策をとるがために、まず一番にこれまで足かせであった問題部門や人材をここぞとばかり切り離してしまうことです。安易なしっぽ切りを選択することは命取りになることもあります。

 

 ・これまで問題ばかり起こしていた事業部門が、安定した収益を上げてくれたり、

 ・無能だといわれていた人材が、愛社心を奮い立たせ、まわりを勇気づけている

 

このようなことが起こってきています。

これまで足かせだと感じていたことは時に助け人となり、時に成功のための鍵になることもあるのです。

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