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バイマンスリーワーズBimonthly Words

晴れてよし、曇りてもよし富士の山

1998年01月

新年明けましておめでとうございます。

昨年はバイマンスリーワーズをご愛読いただきましてありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
  
経済改革の本番となる年が開けましたが、準備の方はもうお済みでしょうか。観測史上最大の経済改革の嵐がやってくることが予想されますので、会社ごと吹き飛ばされないように足元を固めておいてください。財務基盤の弱い会社は社員一丸となって立ち向かい、潤沢に流動性資金を持つ会社でも油断をせずに体制を整えておきましょう。

金融システムは確実にいい方向に向いている

現在、銀行関連(信金・信組・労金含む、農協・漁協・郵便局除く)に約66万人、証券に約12万人、生損保に約80万人、合計すれば金融関連に150万人を超える人々が従事していますが、どうも量的に膨れすぎた感は否めません。安定的で高収入ということで人気のある業種だったからでしょうか。山一證券自主廃業のニュースの直後、東京商工リサーチ社が大学生の人気業種について悲哀を込めて次のようなコメントを載せていました。
  
「40年前は『銀行よさようなら、証券よこんにちは』で証券業界が学生人気を集めたが、その後の証券不況で『証券よさようなら、銀行よこんにちは』に変わり、バブルの時期は『証券よこんにちは、銀行よこんにちは』であらゆる金融に人気が集中してメーカーにはほとんど寄り付かなくなった。ところが現在は『銀行よさようなら、証券よさようなら』になってしまった。」金融システム崩壊の原因はバブル崩壊による不良債権問題とか大蔵省の指導のあり方など様々なことが言われていますが、これらはきっかけに過ぎません。本当は情報処理技術の革新により人間が行なう金融業務領域が大幅に減っているために起こる自然な縮小現象なのです。
  
資金回収業務、計算業務、決済業務などの人間がおこなっていた職務領域の多くはコンピューターに侵食されました。昨年末、大証では業界名物の“手振り”による売買情報交換が姿を消し、完全に機械化されました。銀行の窓口業務はコンビニなどの異業種に進出され、電子マネーの発達はますます金融機関のこれまでの業務を奪っていきます。このような環境変化に付いていけない金融機関は消えていくしかありません。ですから今、金融機関が整理、淘汰されていくのは自然の理であり、歴史の大きなうねりの中ではどうしようもない現象なのです。

金融機関や関連業種に関わっておられる方には誠につらいことでありましょうが、経済バランスを図るための過渡期にある現在、金融関連に従事する人が減少することは新たな金融システム構築に向けて確実にいい方向に向かっているのです。

しかし、金融機関に頼ることはできない

本年4月に大蔵省はビッグバンの目玉である早期是正措置を実行します。早期是正措置とは大蔵省が自己資本比率の悪化している金融機関に対し、業務停止や業務縮小命令といった審判を下して存続か否かのふるいにかける作業になります。そこで生き残りをかけて自己資本比率を改善するために融資の回収をし、貸し出しの利ざや稼ぎに廻っているのが今の金融機関の姿です。

この早期是正措置をにらんだ金融機関の「疑わしきは融資せず」という保身行為が、いわゆる“貸し渋り”を招き、不況を一層深刻なものにする要因になっています。このような金融機関の貸し渋り姿勢は当分変わりません。一般の金融機関はこれまでのような単なる“金貸し”ではやっていけなくなり、金融・資金運用に関する総合サービス業という役割に変わっていくでしょう。ですから、中小企業に対する融資については大きな関心を寄せなくなります。ですから私達中小企業経営者には、銀行と付き合うけれども銀行には頼らず、金融機関以外にも資金調達手段を求めるという姿勢とノウハウが必要になってくるのです。

変わる経済の枠組みと企業の役割

これまでの日本経済において一般企業の役割は縦割りのシステム上に成り立っていました。メーカーが企画開発したものを下請企業が部品供給や加工を引き受け、完成された製品を業界の卸売業者に納入し、小売業者に卸して、小売業者から消費者に渡るという構造です。

これからは製造から小売までを一貫しておこなう企業がリーダーとなり、製造はもちろん、販売の一部、物流全般、情報管理全般といったその他の機能を他の会社に委託して運営する“市場直結のネットワーク型”のシステムが主流となっていくでしょう。これによって単なる製造業、卸売業、小売業という枠組みはなくなります。生産性を高め、リスク負担を軽減するには誠に好ましいシステムです。
総合物流代行会社、コンピューターシステムの導入・維持運営代行会社、経理事務や総務人事といった事務代行サービス業などの、いわば企業の機能代行業が成長し、一つの事業分野として社会的に確立されていくでしょう。逆に物流をやっているだけの問屋業は消滅し、その営業マン達は運送業や物流業に再就職することになります。経理や人事という業務を長年やってきた人は経理代行会社や人事管理代行会社に再就職し、これまでと同じ仕事に就くことになります。

“市場直結のネットワーク型”という枠組みは中小企業が大企業を使うという力の逆転も可能になり、我々中小企業が活躍できる事業分野を際限なく生み出してくれるでしょう。

今年はすそ野を広げる時

過日70歳を超える経営者の方から次のような生き様を聴き、大いに勉強になりました。
「人間はね、45歳ぐらいまでは横に広げることを考えて生きることだよ。上へとあがろうとするとかえって落ちていく。45歳から後はそれまでに広げてきた人脈と信用に支えられて勝手に上にあがっていく。上がった後は、そこにあぐらをかかないように感謝の生活をすればいい」

年齢的にちょうど境目あたりにいる私にとってハッとさせられる貴重なお話でした。
私が関東方面に向かう時は新幹線の窓から富士を眺めるのを楽しみにしています。千変万化の富士山頂の表情を眺めるのはもちろん、もう一つ富士のすそ野の雄大さを観ることで不思議と心が落ち着くのです。

日本一の高さと美しさを誇る富士山頂を抱えるには、やはりあれだけの大きなすそ野が必要なのだと感じながら仕事に向かいます。

富士が教えてくれるように人間も高く美しいものを打ち立てるにはそれに見合った大きなすそ野が必要であって、一挙に上へあがろうとしても上がれるものではありません。
たとえばあなたが一般的なビジネスマンだとすれば、45歳までに自分の出世ばかりを考えた行動をしていると周りの協力が得られずに結局自滅するでしょう。芥川竜之介の「蜘蛛の糸」になります。

あなたが経営者なら自分の利得を考えるのではなく、まずは周りにいる社員の生活水準を引き上げ、お客様に喜んでいただけることを重点にした政策を展開し、仕入先などの取引き業者を大切にすれば自ずと会社の地盤が固まっていきます。その間の自己犠牲は大変でしょうが、地盤固めをすることが結果として上にあがることになるのです。

新しい日本のあるべき姿に変わるために老朽化したものや、環境にそぐわないシステムは規模の大小に関わりなくここ数年で消えていくことになります。そのために、倒産件数や失業率といった景気の指標が発表されるたびに暗いイメージの日本経済があぶり出されていくでしょう。曇りときどき雨、いや大雨といった景気天候になるかもしれません。

“晴れてよし、曇りてもよし富士の山”という詠があります。どんな環境に置かれても富士は富士としての良さを失わず、雄大で力強いのに、周りとの調和も失わないという意味のことでしょう。

日本企業も富士と同じです。日本企業にはこれまで先陣の方々が築いてくださったすばらしい精神があり、絶え間ない研究心があり、教育地盤があります。どんな環境になってもすばらしい力を持った製造業、建設業の技術力は何も衰えていませんし、地道な研究心がここにきて底力を発揮しています。デジタルカメラ、デジタルビデオ、携帯情報端末機といった次世代デジタル機器は日本の独壇場であり、不振といわれている自動車業界でも日本車メーカーは地球温暖化問題をにらんだ21世紀型の低公害車開発で欧米勢を大きく引き離しています。

日本経済はここにきて45歳以下の若者の精神に立ち返り、すそ野を広げるための新たな基礎作りが必要なのです。今年は、そういった意味で多くの企業やシステムが滅びますが、新しい機能やシステムがどんどん生まれる新陳代謝の年になりそうです。

今年は“晴れてよし、曇りてもよし日本経済”そして、“晴れてよし、曇りてもよしあなたの会社”の精神でやっていこうではありませんか。

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