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バイマンスリーワーズBimonthly Words

試される大地

1999年03月

試される大地、北海道

北海道が頑張っています。バブル崩壊後の長期停滞経済の息の根を止めるような拓銀の破綻劇でドン底に落ちてしまった北海道経済。大蔵省は北海道を見捨てたのか?と批判されるほどの事件でしたが、この危機を道全体が自分達の力で乗り切ろうとイメージアップに向けてのキャンペーンを展開しているのです。その活動には阪神淡路大震災で被災された人々が、歯を食いしばって自力で復興をめざした時のような気概を感じます。

とくに観光面の誘致活動には目を見張るものがあります。関西から2泊3日でなんと2万円を切る旅行パックが販売されており、そのあおりを受けた本土の観光業者は悲鳴をあげています。そして、昨年12月から格安料金で新千歳と羽田間を結ぶ航空会社、北海道国際航空 AIR DO(エア・ドゥ)を民間主導で就航させたのです。

エア・ドゥの機体にはキャンペーンキャッチフレーズとロゴマークがくっきりと描かれています。キャッチフレーズは「試される大地」。全国から公募されたキャッチフレーズの選考会では丸一日議論されてこの「試される大地」に絞り込まれたといいます。

この言葉の中には短いながら奥深いものが凝縮されています。

“大地”という言葉からくる重みだけでなく、全体からキリッと引き締まった響きを感じさせます。そして何といっても“試される…”というキャッチフレーズが道外の人々に対するメッセージというより、自分たちが置かれている状況をみごとに表現し、復興に向けて道民に喝を入れるような意味合いを含んでいるところに感動をおぼえるのです。

北海道だけの問題ではない

バブル期に使われた「でっかいどう、北海道」というキャッチフレーズは、豊かな大自然をバックにした楽しさや開放感をPRしたものでした。今になって思うと文化的な遺産も少なく、これといった産業のない北海道は単なるリゾートとしての投資対象だったのかという反省が残ります。投資をした側も、誘致した北海道の側も虚像を追いかけていたのかもしれません。

今、北海道の真の価値とは何なのか?が問われているのです。この問いに対する答えは道外の人はもちろん、道民の側にも現段階ではまったく分かりません。「大自然がすばらしいよ」「ジャガイモが美味しいよ」と訴えてもそれは北海道側の価値判断にすぎません。まさに北海道は崖っ淵に立たされていると考えていいでしょう。

そこで北海道の堀知事は、「試される…には英語でいう“トライ”の意味がある。新しいことへの挑戦、さまざまな可能性の模索をしていく北海道民の気持ちを全国に伝えていきたい」と難局を乗り切るためにリーダーとしての意気込みを示しています。

「試される大地」には自分自身を奮い立たせ、新しいことに立ち向かう真剣勝負の心意気をも感じさせるのです。

道外の人々は北海道の苦悩を対岸の火事として片づけていいのでしょうか?

北海道は原点に返って経済的復興を果たそうとしているように思えるのですが、はたして北海道以外の日本は大丈夫なのでしょうか?

多くの企業は相変わらず高度成長期の延長の経営をしているようにしか思えてなりません。

大手量販店が消費税還元セールと銘打って5%、ときには10%という割引き特売をして顧客の取り組みに躍起になっていますが、このことが本質的な経営の建て直しになるのでしょうか。奇をてらったような販売方法は消費者の購買窓口が移動するだけで、本当にお客様に喜んでもらえるような商品やサービスが提供できているのか疑問です。単なる割引セールなどは時間の経過の中でそれが“イタチごっこ”であったことが証明されるでしょう。

大量生産、大量販売そして大量廃棄という高度成長時代のアメリカ型経営手法を踏襲してきた日本の企業は今回の苦しみを契機に大いに反省すべきです。同業者間のシェア争いや商品改良の伴なわない価格競争は新しいことへの挑戦ではありません。

あなたの会社も試されている

マクロな話はこれぐらいにして、あなたの会社は誰にも試されていないのでしょうか?

まず、あなたの会社が金融機関に試されていることに気付かねばなりません。貸し渋りの真っ只中にある金融機関は試すどころか疑念の目であなたの会社を見ています。健全経営を続けていた会社であっても、ちょっと資金繰りに窮すると彼らの態度は一変します。それはまさに手のひらをコロッと返す変貌ぶりで、時には業界が悪いというだけで融資を引き揚げるところもあるくらいです。融資を引き揚げられた中小企業は輸血パイプを外された重態患者に等しく、「まさか、うちのメイン銀行はそんなことしないよ」と油断していると取り返しのつかないことになります。

赤字決算は絶対に避けねばなりません。融資先企業に対する金融機関の評価は真に厳しいものになっています。これまでは原則として担保さえあれば少々赤字でもすんなりと融資してくれました。融資先に対する強圧的な態度もありませんでしたし、決算書の提示も強制されませんでした。しかし、今後は不動産などの担保力が不安定なため、金融機関は常に融資先企業の経営状態の開示を強く求めてくるでしょう。その際に赤字決算であれば格付けのランクを大幅にダウンさせます。金融機関自体が常に格付けされているわけですから、融資先を格付けする習慣が金融マンの間に出来上がっているのです。これがアメリカ型の手法です。

銀行も生き残るために必死なのです。ですから今は融資依頼に対する貸し渋りどころか、融資を引き挙げるという積極策に出ているのです。融資先企業の事情には細かく構っていられないのが金融機関の実状です。金融機関の本部が資金回収を最優先課題としており、そのために銀行支店長の人事評価を資金回収に重点化しているところに問題の根深さを感じます。

このような実状の金融機関に対しては自社なりの対応策を考えておきましょう。銀行とは頭取を始め、支店長から一行員まですべてがサラリーマンで成り立っていますから、それなりの体裁を整えたお付き合いをすることです。銀行支店長の顔を潰さないようなお付き合いの仕方や、後で責任を被せられないように、また事務手続きがスムーズに行なわれるような書類作りも必要です。

今、あえて社内に水を打つ

本質的な問題はあなたの会社がいつもお客様から試されていることです。

長いお付き合いだから大丈夫だろうと油断していると簡単に取引きが切られますし、お店にも来られなくなります。競合企業がびっくりするような安い価格でほぼ同レベルの商品を出してくれば、必死になって安くて良い物を求めているお客様の多くは競合に流れていくでしょう。

どんなにいい商品を素晴らしいサービスと共に提供していても、それが自社だけの勝手な価値判断であれば通用しません。お客様からは、商品は間違いないものか?キチンと対応してくれるか?そしてこの会社は私に価値を与えてくれるのか?といった眼でいつも観察されています。また、その眼力は年々厳しく、ハイレベルなものになっています。

もう一度繰り返します。

“企業は人なり”といわれます。ということは社員一人ひとりがお客様から試されているのです。

お客様は商品の良し悪しはもちろんのこと、社員の対応や説明の仕方、こころ配り、誠実さなどあらゆる面からあなたの会社の社員を試しています。そこで満足な結果が得られなかったら、何かがあった時には他に変えようと考えるものです。

それは販売に携わる人だけが試されているのではありません。受付の人に始まり、電話をとる人、製品を作る人、配達する人、請求書を作る人…すべての社員がお客様に何らかの形で接しているのです。すべての社員が舞台の上にいて、お客様から見られているという緊張感に満ちた行動がとられなければなりません。これはプロフェッショナルとして当然の取組み姿勢です。

企業に完全はありません。不完全を常としています。否、じつは不完全なのがいいのです。それは不完全である方が何とかして完全なものにしようという向上心が組織内に働くからです。充分な対応が出来ずにご迷惑をお掛けすることがあったとしても、何とかしてお客様に喜んでいただきたいという改善意欲を示すことが大切です。そして、必ずやお客様に満足していただけるという信念を持って取り組めば自然に結果は出るのです。

ぬるま湯に浸ったような雰囲気の漂う企業では、現在の経済環境で生きていけません。今こそ、社内に冷たい水を打ち、自らを律した精神で立ち向かっていきましょう。

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