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バイマンスリーワーズBimonthly Words

下へ下へと根を伸ばせ

2000年01月

新年明けましておめでとうございます。記念すべき西暦2000年のことしは龍の年。天に向かう登り龍のように皆様の会社の業績が上がっていくことをお祈りいたします。

と、心で思っていてもなかなか思うようにいないのが現実で企業の前にはさまざまな壁が立ちはだかるものです。今年もその壁は幾重にも重なって私たちの前に表われてくるでしょう。

日本の景気は今年も低迷状態が続きます。良くて現状維持の0%成長というところでしょう。政府は18兆円にもおよぶ経済対策を発表していますが、あくまで景気悪化を埋める対症療法にすぎません。

景気の動向だけでなく、私達中小企業を取り巻く経営環境が今年はどのようなものになり、どんなことに注意していけばいいのでしょう。

まず今年の経営環境を考えるためにこれまでの十年間をサッと振り返っておきましょう。

1990年の株価暴落で一番に痛手を負ったのは証券・不動産でした。これらの企業はいち早く身仕度をして縮小・廃業し、銀行からの借金を棒引きにしました。また、株に投機していた企業は大蔵省が演出した「損失補てんスキャンダル」によって証券会社生き残りのための痛み分けをさせられました。これで長年にわたる大手企業の蓄財は株で失い、銀行が抱えていた50兆円とも100兆円とも言われる巨額の貸付金は不良債権と化してしまったのです。結果、資産デフレが進行、経済の深層を知った大手企業の経営者達はただちに設備投資をやめリストラを進めていったのが95年までの五年間です。この出来事を一般の中小企業や消費者は対岸の火事のようにとらえたために、過去の延長線上の経営や生活スタイルを続けていたのです。それは何も考えず遊びに夢中になる子供のようなものでした。よって個人向けの需要はバブル崩壊後も五年ほどは堅調だったのです。

ところが97年の特別減税廃止、消費税率アップ、社会保険料の引き上げといった時代認識を逸脱した政府の失策と山一證券の経営破綻が重なり、法人需要の企業だけでなく、個人需要を主とした企業も急激な売上低下に陥りました。この時に景気の底が割れたのです。

ここで鍵となったのが銀行の姿勢。バブル崩壊を待っていたようにアメリカは一定の自己資本比率を保たなければ金融市場から追い出すというBIS規制で外圧をかけていました。そのため銀行内部で不良債権の処理がまったく進んでなかったのです。護送船団方式で大蔵省に守られてきた銀行経営は守護神を失い、自己防衛による経営を余儀なくされました。確実な先にしか融資はしない、危ない企業への貸出しは速やかに回収する方針が出されました。仕方がありません。売上は低下する一方なのに、これまでと同じように銀行と付き合った中小企業の経営者は、言われる通りに毎月の返済をし、苦しくなったらまた借してくれるだろうと思っていました。しかし銀行の態度は冷たいものでした。

銀行の変貌ぶりに対応できない多くの中小企業が、バタバタと倒れました。日本経済を底辺で支えていた中小企業の倒産・リストラは一挙にひろがり、失業率は5%になろうとしています。銀行自身も生き残りをかけて、提携・吸収・合併を繰り返し、何万人という人員削減を実行します。高給を取っていた彼らはいったいどこへ行くのか…。失業率を下げるような動きはまだまだ見つかりません。

虎の子の資金を社外流出させない

無謀な取立てを行なってきた商工ローンの最大手「日栄」の問題が表面化してきました。年率30%以上という暴利に加え、悪質な取立てを強要してきた商工ローンの経営姿勢は大問題です。ところが、大量の資金を悪質な商工ローンに貸し出し、彼らが暗躍する環境を作ってしまった大手銀行の姿勢も今後は問われていくでしょう。保証協会の保証枠内か確実に回収が見込める企業にしか貸さず、不安な中小企業に対しては商工ローン経由で、という大手銀行の経営を守る構造が出来上がったところに問題の根深さを感じます。

銀行は今、危なくなった企業の生命維持装置の役割を担っています。企業が日栄などの商工ローンに救いを求めることは、銀行が生命維持装置をはずした結果であって、経営が破綻していることはすでに決定しています。存続か、倒産かの実際の判断は銀行が下しているわけです。

しかし、企業が倒産する本当の原因が銀行にあるわけではありません。銀行は判断を下しただけで金融機関を当てにして経営を続けていた企業自身に倒産の原因があるのです。

今、ほとんどの企業は毎月の借入金返済ができるほどの利益をあげていません。本業の営業収支でカツカツといったところです。高度経済成長時代なら返済を続けて、資金が枯渇しても銀行は追加融資をしてくれました。ところが銀行経営自体が大変で、銀行に頼る経営は一切できなくなったのです。返済に見合う充分な利益を出していないのに実態を知らない銀行の方針に従って資金を無計画に社外流失させる企業自身が問題なのです。

厳しい金融環境に突入する今年の最大のテーマは、本業の営業収支で最悪でもトントンにすることです。価格下落に伴う売上の低下は21世紀に広がる世界的な経済の枠組みに対する日本経済の環境適応行為です。膨らみすぎた物価や賃金が下がっていくのは長期的には好ましいことなのです。大なたを振るって、大幅に下がった売上でも利益の出る企業体質を作ることが最も重要なテーマなのです。

その上で無計画な資金支出は一切しないことです。費用の支出だけでなく借入返済による資金支出はひとつ間違うと命取りになります。

もう一つの壁、資金回収

銀行だけでなく大変な状況に置かれているのが取引先。とくに企業向けに事業をされている企業の場合、得意先の倒産による資金圧迫が昨年以上に心配です。売上を維持しながら回収を進めるのは、アクセルを踏みながらブレーキをかけるようなもので相当な負担がかかります。微妙な力のかけ方は理屈ではわかりません。ですから、社長自ら精力的に得意先をまわることを昨年以上に行う必要があります。得意先のトップと面談し、経営姿勢や経営能力を判断するのです。現金商売で債権回収については心配のない企業でもお客様の購買意欲は大幅に鈍化しているでしょう。よって社長自ら販売の第一線に立ちお客様と接することが大切です。お客様は何を求め、どのように行動し、私達にどうして欲しいのか、について身体で感じることができるでしょう。

冷えきった市場の壁でもいつかは崩れます。しかし、自然に崩れていくことを待っていてはなりません。崩れそうな箇所を発見し、そこに渾身の力を振り絞って切り開くのです。そこで、選択と集中が重要になります。重点顧客を明らかにし、経営資源を集中させる。商品の中でも将来性のあるものに絞り込んで育てる。経営者の間違いのない選択と思い切って経営資源を集中することで将来が拓けていくことでしょう。

高額商品や贅沢品はよほどの商品力がなければ売れません。生活必需品は大幅な価格下落となりました。この傾向はまだ数年続きます。消費に対して慎重になったお客様は情報を収集し、学習を重ねています。お客様はホンモノの商品、ホンモノの企業を選別しています。企業側の都合でなく本当にお客様の立場で接する商品や企業としか付き合わない傾向が強くなっているのです。そこで全社員がお客様に対して心からのサービスを施すことがどうしても必要になります。

花も実もならない企業はどうする

昨年の暮れに京都の街を歩いていた時、お寺の門前でふと足が止まりました。そこには時勢をとらえ、不況を生き抜く私達に大いなる勇気を与えてくれる言葉が書かれていました。

何も咲かない寒い日は 下へ下へと根を伸ばせ

寒風吹きすさぶ時は花も実もならない。いずれ来る暖かい日には大きく枝を伸ばし、花を咲かせるためにはあせらずに土中に向かって根を伸ばしさまざまな栄養を取り込めばよい。植物は土からあらゆる物を吸収してその生命を維持し成長する。そのために可能な限り土中深く根を伸ばすことである、こんな自然の営みから学べ、ということでしょう。

企業とは結局、人の集まりです。もともと違った境遇で育った人達が集まって、教育や制度の影響を受け、環境変化、社員の入れ替わりを繰り返していく中で土壌が出来上がります。志がひとつになっていくのです。それは、輪廻転生を繰り返し、風雪や水害に耐えていくうちに栄養のある土や木々ができあがっていくのと似ています。同じ志を持つようになった人達が力を結集し、お客様に喜ばれる技術やノウハウを蓄積し、提供することで社会貢献をするのが企業です。その社会貢献の度合いが売上となって評価されるわけです。

うまくいけば日本全体の景気は2005年あたりから上向き傾向になるでしょう。しかし、あなたの会社も一緒に上向くという保証はありません。逆に、それまでに新しい経営環境に馴染む企業体質を作っていなかったら確実に振るい落とされます。今年の0%成長というのも大きく伸びる勝ち組企業と後退する負け組企業の平均で0%なのです。ちょっと気を緩めると負け組に入ってしまいます。

そうならないために今年こそ社長が中心となって、経営幹部が一枚岩の結束力を固めましょう。環境が厳しければ厳しいほど組織は強いものになります。縁あって一緒に仕事をするようになった社員に対しては情熱を持って教育し、企業の栄養分となるように育てましょう。彼が将来どうなるかはわかりません。でも組織の土壌を栄養のあるものにし、未来永劫、存続を可能なものにするために強い企業体質作りに取り組もうではありませんか。

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