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バイマンスリーワーズBimonthly Words

艱難 汝を玉にす

2001年01月

新年明けましておめでとうございます。

21世紀の幕が開けました。今年も…いや今世紀もどうぞよろしくお願い申し上げます。

こころ新たに迎えた新世紀ながら、企業も国家全体も真に厳しい状態からのスタートとなりました。景気回復のもたつき、まだまだ続く金融不安、政治の理念や品性は堕落し、年金問題を含めた国家財政は破綻寸前。地球環境問題、教育問題等々、前世紀から送られた課題は私達の周りに山積しています。暗い話になりますが避けては通れない問題ばかりです。

15年前の1985年9月、プラザ合意で円高ドル安が決定された時からそれは仕組まれていました。出席した竹下蔵相は、「思えば今から40年前日本は戦争に負けた。しかし、そのとき勝ったアメリカにいまや日本は経済的に勝利した。」と語っています。今思うと「おごり」ととれる発言をしたこのときから日本経済の崩壊が始まったのです。じつはアメリカから戦略的な制裁がスタートしていたにもかかわらず、土地を転がし、物づくり軽視の生産現場ではいい加減なモノが作られ、財テクや金が幅を利かす時代に突入しました。当時のキーワードは「内需拡大」。このテーマはアメリカから押し付けられた「豚は太らせて食え」だったのです。

そして運命の1990年。株価大暴落を機に日本国内に大量に蓄積されていた資金は外国へ流出し、銀行や保険会社はもちろん、金融を監督する大蔵省や日銀までがアメリカを中心とする外国勢力に支配されていきました。今、その延長線上で流通や自動車業界までが、経営の主導権を外資系に奪われようとしています。外国勢力の日本上陸が進んでいるのです。キーワードは「規制緩和」。いわば日本上陸のための邪魔ものはずしです。現在の日本は国や企業を投機(ギャンブル)の対象とする海外投資家の餌食になっているのです。

沈没か再生か? 瀬戸際の日本

21世紀のスタート地点に立った今、日本経済を正しい方向に引っ張ることのできるリーダーはどれだけいるのでしょうか。「内需拡大」「理念なき規制緩和」は外国勢力の勝手な都合であって、言われるままにこれらを進めた政治家をはじめ、経済企画庁や著名なエコノミストの発言まで完全に外国勢力の支配下に置かれています。このまま救世主が現れなければ日本全体がほぼ外資系企業に支配されるか、ひょっとすると孫正義氏が率いる拝金主義の経済国家になりかねません。孫氏の実体はいまだ不透明ですが、その行動からして長続きしそうな気がしません。

経済以外でも深刻な問題があります。21世紀の日本は高齢化と少子化がますます進み、人口が減っていく。誇りであった国民の倫理観、道徳心は薄れ、金銭目的の殺人や犯罪が多発。少年は残忍で非情な心を植え付けるようなコンピューターゲームにのめり込み、セックスや暴力であふれたマンガに夢中になる子供が増えています。子供達が悪いのではありません。ここには「売れたら良し」とする一部の商業主義にまみれた企業側の都合が原因のように思えてなりません。

そもそも経済というのは人間が幸せになるために存在するものであって、経済活動によって人々が不幸な境遇に置かれてしまうというのは何かが狂っています。

経済面の衰退はいずれ取り戻すことができます。が、精神面での衰退は人々の意識の中に知らず知らずに潜り込み、それが悪習慣や低俗な文化となって定着するために容易には復元できません。私達は子供や孫たちに対して夢のある社会環境を提供しているのでしょうか。

「天下国家を考える余裕はないよ」とか、「今の日本の政治では国のことを考えても無駄だよ」といったご意見の方もおられるでしょう。しかし、企業のリーダーが国家や環境のことを考えないならば、危機に瀕しても会社のことを考えない自己中心的な社員と何ら変わらないのではないでしょうか。国家全体が衰退していくというのはあなたの属する業界が衰退し、あなたの会社も沈没する可能性を大いに秘めているのです。

問題は解決できる人のところに降りかかる

しかし、日本の将来を悲観的に考える必要はありません。

「艱難 汝を玉にす」という言葉があるように、敗戦国日本を不死鳥のごとく甦らせた日本人ですから、時間はかかるけれども必ずやこれらの問題を解決していくでしょう。そして、経済、文化、環境等でバランスのとれた輝かしい国家になっていくでしょう。

なぜなら問題とは解決できる人のところへ降りかかっていくものであって、決して解決できないところに問題は生じないのです。問題を解決していく過程で、人々の技が磨かれ、心が磨かれていくのです。

そして、私達企業人が認識すべきは、国家が問題解決に向けて変革しようとする過程で企業の貢献が必要となり、そこに市場が生まれ、成長していくということです。これが企業の環境適応行為です。企業とは社会問題解決支援業でもあるのです。

日本が抱える様々な問題。その解決に向けてどんな企業や事業が21世紀に活躍するのでしょうか。

たとえば地球環境問題解決に向けてリサイクル関連産業が成長するでしょう。廃棄物の再生はもちろん、中古車、家電、中古本といった製品の再利用、それに伴う修理・メンテナンス等々。今の日本人は豊かさを通り越して飽食の状態だと言われます。これ以上、モノが溢れることがあってはなりません。

農業・漁業が産業として発展するでしょう。現在、日本の食料自給率は40%を切っています。日本人は何千年も前から「海幸、山幸」の国土に住む農耕民族であるのに今では食料も作れない。世界的な飢饉や政変で輸入がストップされたらどうなるのでしょうか。政府は、自国で作れる米を食べるよりアメリカから買わされる麦を、海でとれる魚よりもアメリカの牛肉を食べるようにと推奨しています。これはどう考えてもおかしい。だからこそ農業や漁業に発展してもらいたいのです。

こころの問題を扱うサービスが脚光を浴びるでしょう。コンピューター、医療、交通など20世紀の科学技術の発達は人間の生活を飛躍的に高めました。一方で、核兵器、地球環境問題など人間を不幸に追いやる現象も同時に引き起こし、人間関係がうまくできない人間を作り出しました。人間は一人で生きられない寂しがり屋で、曖昧で、間違いも冒す、感情の動物です。感情を持った動物につきものなのがストレスです。ストレスや心の問題をいかに解決するか、が命題となるでしょう。たとえば、カウンセラーや精神科医師、芸術家、宗教家。ペット産業もこれにあたります。

定年制を見直す企業が増えるでしょう。実際は高齢者の再雇用という形で進むと思われます。横河電機は定年退職後も仕事の継続を希望する社員を子会社の横河エルダーで再雇用し、大半が定年前の職場で仕事を続けています。雇用条件は全員平等で月給10万円、賞与年間80万円。就業規則上の上限は75歳ながら81歳の方が今も現役で働いています。素晴らしいことです。多くの企業が高齢者の雇用を受け入れることで本当の意味での終身雇用が実現するわけで、高齢化、労働者人口の減少といった問題はこのようにして解決に向かいます。

経営とは逃げないこと

直面する問題を考えましょう。

昨年にご紹介した「浪費なき成長」の著者である内橋克人氏が言うように、現在の日本は、国(政府)と国民の間に信頼関係がなくなっています。95年の阪神淡路大震災

で当時の村山首相は「自然災害に対する個人補償はしない」と表明、そのように展開されました。国は公共工事のバラ撒きはすれど、不時の巨大災害に襲われても国民を助けない姿勢が証明されたのです。これで国民は国に対する信頼感を完全に喪失し、将来に対する不安は自力で解決しようと思うようになりました。この「自己防衛意識」が日本人の貯蓄率の高さに表われているのです。不安があれば、消費するよりも少しでも貯蓄を増やそうとするのは当然です。にもかかわらず、前経済企画庁長官の堺屋太一氏は不況の原因を、消費しないで貯蓄に回す「国民の心理」にあるとしました。特に所得の低い人々の貯蓄率の高さに対して「臆病な心配性で困ったものだ」と嘆いているのです。こちらこそ困ったものです。経済全体の指導者が不況の原因を国民のせいにして問題の核心から遠ざかろうとしているのです。

教育問題も信頼関係が崩れてきています。学校の先生と生徒そして親が相対する関係になり、ひどいところではいじめや校内暴力をお互いで相手のせいにしています。相手のせいにして解決できる問題はこの世にありません。教師自身も学ぶ姿勢を持ち、生徒と一体になってお互いの成長を目指す姿勢が要るでしょう。これも教師と親という指導者の問題です。

身近なところでもっと大切なことがあります。それは企業が時代の変化に対応し、雇用を守り、指導者である経営者が倒産させないように踏ん張ることです。いつ首を切られるか、倒産するのではないか、と組織に対して不信感を抱いた社員がこの不況を乗り切る力を発揮できるはずがありません。危機感は企業の原動力として最も大切な心持ちですが、危機感と不信感を混同してはなりません。危機感とは信頼できる経営者の下で抱く将来に向けての現状打破の精神であって、不信感とは根本を異にしています。

倒産した経営者の救済を続けている「八起会」の代表、野口誠一氏が「経営とは倒産させないことである」と言い切っています。その通りだと思います。

私はこれに加えて「経営とは逃げないこと」であると考えます。経営者が苦しくなって、どうして切り抜けるか、と悪知恵を絞っても社員から見ればすぐにわかります。自分の利益を守るためにうまくこの場から逃げようとしているのです。組織において一人が逃げようとすると、集団の原理で皆が逃げようとします。まして、指導者である経営者に逃げの姿勢が感じられると、多くの社員は逃げる準備をし、心はバラバラになります。

逃げようとする者は一言でいうとどんな人間なのか。それは「卑怯者」と呼ばれるのです。ですから経営者は少しでも逃げる姿勢を見せてはなりません。一方、逃げない人間はどうか。これが「勇気ある者」です。ですから、眼前の問題から逃げない姿勢を貫き、真正面からぶつかることで社員は経営者から勇気をもらい、安心してついてくるのです。

国だけでなく、あなたの会社も問題が山積したまま新世紀を迎えたことでしょう。避けて通りたい問題もたくさんあるとは思いますが、どんな問題であれ、逃げずに真正面からぶつかりましょう。もし倒産したとしても命までは取られません。そう考えれば必ずやいい結果が出るはずです。

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