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バイマンスリーワーズBimonthly Words

和を以って貴しと為す

2005年01月

新年おめでとうございます。
9.11テロから3年余りが経過した世界情勢は、ブッシュ大統領の再選によってアメリカを中心とした世界秩序の骨格が出来上がろうとしています。軍事力で世界支配を進めるアメリカの一員としてその戦いに参加するのか、これまでのように確信のないまま渋々アメリカに追随するのか、それとも信念に基づいてアメリカの率いるチームから離脱するのか?日本は今、大きな岐路に立たされています。
そんな流れから国内ではいつテロが起こるか分からない状態。経済面では円高誘導が顕著で、輸出型の企業は大きな打撃をうけるでしょう。原油価格も高騰を続けています。

700兆円を超える借金を抱えるこの国は、その打開に向けインフレに誘導されています。昨年11月には偽造防止を名目に新紙幣が発行されました。しかし、偽造の旧紙幣が大量に出回れば預金封鎖とまではならずとも、旧紙幣を使用できなくして大量のアングラマネー(脱税や不正で眠っている金)の課税が行われるでしょう。4月のペイオフ解禁がそのことに拍車をかけます。政府は国債の販売に躍起になっていますがこれも一連のシナリオの中にあります。

このように軍事面、経済面、そして政治面で不安定を極めている間隙をぬって、外資による企業の買収はやりたい放題。平成18年から株式交換による企業買収が外国企業にも解禁されることが決まっており、大手企業の経営者はいつその魔手が我社に伸びてくるのか、戦々恐々の様子です。平成19年には郵政3事業が民営化され250兆円もの残高をもつ郵便貯金が流動化されますが、これが外資の格好の餌食とならないか。すでにシティグループと提携している郵便貯金の将来が心配されます。

歪なる個人主義の台頭

外資による日本企業の買収は金融関連や大手企業だけでなく、中小企業にも触手が及んでいることを忘れてはなりません。私共の地元京都でも伝統を誇ったホテルがことごとく外資の軍門に下りました。

守りには強いはずの日本企業、とくに中小企業の組織結束力が近年になって低下し、外からの圧力に弱くなっているように思えてなりません。

なぜこんなに弱くなってしまったのでしょうか。

まずヨコの関係の結束力が低下しています。業績低迷と相次ぐ企業間の合併などにより各部門でセクショナリズムが台頭し、いわゆる「家庭内別居」状態になっている企業が少なくありません。問題が発生するたびにお互いが責任のなすりあいをしているので、エネルギーは内側で費消され、企業全体のパワーが低下しているのです。

次にはタテの関係、つまり上司・部下の関係が希薄になっていることがあります。特に近年は、部下が上司に期待をしていないことが顕著です。10年前の調査では64%のカップルが結婚式で仲人を立て、その多くは職場の上司でした。若手社員は、将来いろんな場面で上司に引き立ててもらえるという期待もあったわけです。ところが、昨年の調査では仲人を立てるのはなんと1%にまで減っており、上司への期待をほとんど持ち合わせていないことが見て取れます。その背景には実力主義、成果主義人事が主流となっていることがあります。またリストラで上司がいつクビになるか、自分もいつまで会社にいるか分からない、と考える若手社員が増えているのでしょう。

タテ・ヨコのどちらの関係においても、何となく仲間のことを認めない、仲間と力を合わせて事に立ち向かおうとしない歪な個人主義の雰囲気が漂っています。

何かの縁があって同じ会社で仕事をしている仲間同士なのに、力を合わせることができずに停滞し、外からの圧力によって簡単に崩壊してしまうことが残念でなりません。

セクショナリズムの原因はもたれ合い

~和を以って貴しと為す~

ご存知の通り1400年前に聖徳太子によって制定された十七条憲法の第一条です。蘇我・物部抗争をはじめ、氏族や血縁間での血なまぐさい争いの中で、多感な時期を過ごした太子が最も願ったのは、人と人との「和」だったのです。

国際的に視野を広げると、この時代は百済や新羅などから新しい知識が入って来るようになり、渡来人が急激に増えました。今の時代とよく似ています。国際化の時代に必要なのは、物の考え方、感じ方、文化、生活様式など自分とは全く違う人々が存在することを認め、相手の立場を理解しようと心がけることであり、そのことの大切さをまずこの「第一条」で唱えたのでした。

この言葉はその後の日本人の思想に大きな影響を与えました。「和」こそが社会を形成する規範であり、人間同士の付き合いの基本であり、そして組織を運営する大原則とされたのです。この思想が戦後日本の経済復興を成し遂げた原動力であったとも言えるでしょう。

ところが「和」を過度に重要視するあまり、さまざまな弊害も生まれました。企業だけでなく、役所や警察でも不祥事が相次いでいますが、そのほとんどが内部で抹殺されています。危険を感じた内部の人間からリークされた情報だけが公開されているのです。「和」はひとつ間違うと「なれ合い」に変質し、情報の開示や組織の活性化を妨げる原因にもなるのです。

また「和」の掟を破ると、それは和を乱す者として組織から排除されます。いわゆる「村八分」であり、ムラの団結力は高まるが、ムラの「和」に迷惑な存在には強烈な制裁が行われます。

この村八分現象が、企業内で起こっているセクショナリズムの原型なのかも知れません。たとえば業績不振になれば、販売部は売れる商品を商品部に期待します。ところが、簡単にヒット商品は生まれませんから販売担当者の不満はおのずと商品部に向かいます。逆に商品部が販売担当者に市場情報を求めたとしましょう。販売担当者は商品を売ることに最大の関心を置くのでそれはどうしても二の次になります。そんな販売担当者の態度に商品部に属する人は「非協力的だ」となるのです。かけた期待に対して裏切られたような感情を抱くのでしょう。

ヨコの関係を維持するには連携は必要ですが、頼りすぎると「もたれ合い」になります。もたれ合いはお互いの足を引っ張ります。部門間のもたれ合いが過ぎるとお互いが相手のせいにしてしまうのです。

ヨコの関係ではお互いが連絡をとって協力することが必要ですが、頼ってはなりません。目的に向かって競争するぐらいの姿勢が必要でしょう。

最大の損失は人の心がバラバラになること

もう一つ問題があります。

それはトップと幹部、幹部と一般社員という「タテ関係の和」です。十七条憲法第一条ではこの上下関係について強く言及しています。全文を見てみましょう。

~和を以って貴しと為す~ と書いて、一般的には「わをもって…」と読まれていますが、じつはこの読み方は間違いで、正しくは「やわらぎをもって…」と読むそうです。

もし「和(わ)をもって…」と読めば「和を乱さぬよう」という意味に理解され、少々の不服や問題点は忍従し、自重せよ、という意図を感じます。そこには「和」が多少なりとも強制されていることになります。

ところが、「やわらぎをもって…」と読むと、これは「人と人との間がおだやかで、みんなが満足するという状況が最高の状態である」つまり円満な状態を最終目標としているように感じます。

広辞苑によれば「和らぐ」とは、 1、やわらかになる、柔軟になる 2、おだやかになる、柔和になる、きびしさがなくなる 3、親しむようになる、睦まじくなる とあります。

なるほど… こう考えると人の上に立つ者は、最終的には「和らぎの心」つまり、おだやかに、柔軟な姿勢で、親しみやすい雰囲気で、周りの人に接しなさい、ということでしょうか。

人間が育つためには厳しさが欠かせません。社員を厳しく鍛え、強くしなければ競争相手との勝負に勝てるはずがありません。

しかし、厳しさだけでは人が育たないことも分かってきました。権力と厳しさだけのリーダーシップでは、人は納得できないのです。優秀な若手社員はリーダーシップに悩む上司には期待しなくなり、力がついた時点で離れていきます。人々の心はバラバラになり、いつまでたってもノウハウが蓄積されず会社の力も高まりません。人の心がバラバラになることが引き起こすコストが最も大きな損失であることを、私達はもう一度考え直す必要があるのではないでしょうか。

残念ながら、暴挙ともいえるアメリカによる戦争と報復テロが絶えない年になるでしょう。企業間の競争も、買収合戦をふくめて熾烈をきわめています。そんな厳しい環境の下で企業の戦士達は戦っていかねばなりません。そんな最中、せめて会社にいる人々の心の中がおだやかで、お互いが力を合わせて仕事ができる、そんな状況ができあがる年になることを願っております。

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