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バイマンスリーワーズBimonthly Words

サムシング・グレート

2006年03月

サムシング・グレート ~ 偉大なる何者か ~
なんと響きのいい言葉でしょう。名付けたのは生命科学の権威であり、今の日本でノーベル賞にもっとも近いとされる筑波大学名誉教授の村上和雄氏です。簡単にその主旨を説明しましょう。
私達の身体は小さな細胞の集合体であり、たった一個の受精卵が母親の胎内で細胞分裂を繰り返し、十月十日(とつきとおか)で生まれる時には約3兆個に、成人ならば約60兆個になります。その細胞の一つひとつには核があり、核の中の染色体にDNAという物質が収納されています。このDNAが遺伝子の正体であり、そこには30億の情報が書き込まれています。そして身体中の全細胞の遺伝子に一人の人間の生命活動に必要なすべての情報が書き込まれているらしいのです。

ところが、髪の毛の細胞は髪の毛にしかならないし、心臓の細胞は心臓にしかなりません。
なぜでしょうか?
それは、遺伝子にはスイッチがあって、髪の毛の細胞にある遺伝子は髪の毛になるスイッチがONになっていて、それ以外のスイッチはすべてOFFになっているそうです。だから髪の毛の細胞は髪の毛にはなるが、心臓にはならないのです。
このように各細胞の遺伝子には、すべてのスイッチが付いていて、どれがONになっているかによって、その細胞の役割が決まるというのです。

「命の仕組みは驚くほど不思議なことばかりです。これだけ精巧な生命の設計図が偶然にできあがるということはありえません。ではこれだけの設計図を、いったい誰が、どのようにして書いたのか?この人間わざをはるかに超える設計図を創ったのは何者なのか?」
村上教授は、その設計者のことを「サムシング・グレート(偉大なる何者か)」と呼びました。
サムシング・グレートは宗教的な神や仏と同じようなものかも知れません。また、サムシング・グレートが本当に存在するのかどうかの議論は残ります。が、仮に存在するという前提に立って、私達はその力をどのように経営活動に応用すればいいのか考えてみましょう。

経営者の仕事は社員の遺伝子スイッチをONにすること

日本電産の創業社長、永守重信氏には独特の組織運営の哲学があります。

「仮に100名の社員がいるなら、そのうちの3人はマッチを持っており、自分で火を点けて燃えることができる。次の80名はマッチを持っていないが乾いているので誰かに火を点けてもらうと燃える。残る17名はもともと湿っているので燃えない。だから経営者は自らマッチを持って80名の社員の心に火を点けて廻ることだ。」

経験から生まれたお考えでしょう、説得力のあるお話です。

 

永守社長の哲学を村上教授流に表現すると、“経営者の仕事は社員の心の中にある遺伝子スイッチを燃える状態のONにすること”だといえるでしょう。

私達は人を育てるには、短所を直すこと以上に長所を伸ばすことが重要で、長所を伸ばすためには誉めることだと教えられてきました。相手のレベルにもよりますが、一つ叱って、四つ誉める、つまり、2:8の法則の割合で部下を指導するのが良いという人もいます。

これによって「長所を探し、誉めることで遺伝子スイッチをONにする」ことになるわけです。

 

ところが火を点けてくれる人がいない経営者の場合は、どうやって自分の心に火を点ければいいのでしょうか。村上教授は、遺伝子をONにするシンプルな秘訣を次のように語っています。

「遺伝子のスイッチをONにするには、私達の生命を設計したサムシング・グレートが喜ぶような生き方をすることです。それはサムシング・グレートが創造した自然にヒントがある。自然の秩序や法則を研究すれば、サムシング・グレートの意図が見えてきます。具体的には、① 志を高く持って生きる ② 感謝して生きる ③ プラスに考える この三つの生き方をすればいいのです」

非常にわかりやすい解説です。

 

経営者は、まず高い目標を持ち、「ありがとう」「おかげさま」を口癖にして、何事もプラス、プラスに考えればよい、ということになるでしょう。

いかがでしょう、村上教授の話は科学者なのに、みずみずしく、感性に響くような感じがしませんか。

一般に科学の世界は客観的、論理的であると考えられていますが、これはコインにたとえると表側のことであって、じつはその裏側には創造性豊かな、主観的で、感性や直感、さらには霊感としか表現できないような世界が存在するというのが村上教授の見解です。

そして、この感性や直感というのは奥深いところで“サムシング・グレート”とつながっており、このサムシング・グレートはあなたに大切なヒントをささやいてくれるらしいのです。

(さあ、あやしい話になってきました…)

「迷い」はサムシング・グレートの力

(ここからは筆者個人の見解であり、村上教授の言葉ではありません。誤解なきようお願いします)

経営者にとってもっとも難しい仕事である判断業務をする時に、サムシング・グレートがいつも側にいてヒントを言ってくれたら、こんなにありがたいことはないでしょう。

もし、あなたが高額な商品を買うときはどうするでしょうか? 衝動買いで車や毛皮のコートを買うことがあるかもしれませんが、それでもセールスマンや店員さんに相談するのではないでしょうか。

つまり、人が買い物をする時は必ず誰かに相談をしてから決めているのです。

 

同じように経営者が重要な決断をしなければならない時も、誰かに相談しながら決めています。

たとえば大きな借金をして設備投資をするようなケースで考えてみましょう。

まず、第一段階として相手方の情報収集をします。取引をする企業の経営状態やトップの姿勢、またその設備のメリットやデメリットを聞くでしょう。担当者や専門家に相談して自分の知らない情報をインプットして判断材料にするわけですが、この段階ではこれといった判断はできません。

次の第二段階になると、その設備投資は自社にとって価値があるのか、受け入れ態勢はあるのか、資金調達や借入れ返済は大丈夫か、といった内部的なことを調べます。具体的には信頼できる社内の人間はもちろん、社外の友人やコンサルタントなどにも相談するでしょう。

この段階での相談相手は、会社とあなた個人のことを充分に知り尽くしており、信頼できる人でないと意味がありません。通常はこの段階で、やるか、やらないかの考えが固まるはずです。

 

ところが、決め手を欠くとズルズルと時間が過ぎて、最終の第三段階に入ってしまいます。

第三段階では、ひと通りの人に当たっているので他に相談する人はいません。あなた一人で決めなければならないのです。

ところが決めるだけの決定打がありません。追い込まれてきました。迷います、迷っています。

さあ、どうすればいいのでしょうか。

サムシング・グレートが身体に入り込んでいる

人が追い込まれると“もう一人の自分のささやき”が聞こえてくることがあります。
「今ここで決めないと男が立たないぞ…」「この程度の投資でビビッているのか…」と自分のことを応援してくれるような言葉で迫ってきますが、じつはこの“もう一人の自分”が曲者です。
これは“悪魔のささやき”だと考えて間違いありません。「ええぃ、行ってしまえ!」と、悪魔のささやきにまんまと乗っかったら危険です。功名心を煽るようなその声の正体は、自分で自分を守ろうとするあなたの保身の気持ちが“悪魔のささやき”に変身したものなのです。

ここでサムシング・グレートが登場します。
サムシング・グレートのささやきは、言葉によって表現されません。声も姿も匂いもないのです。
人間の身体の働きは果てしない高度な性能をもっています。たとえば、腐ったものを食べるとすぐに反応して戻します。美味しいものは舌ではなく身体が欲しくなります。スポーツ選手が理論上では解明できないスピードに反応した時には「身体が自然に反応しました」と言ってのけています。
これはいったいどういうことなのでしょうか。ひょっとするとサムシング・グレートが人間の身体の中にスーッと入り込んで、何らかの働きをしてくれていると考えられないでしょうか。

いかがでしょう、あなたの判断がGOならばとっくに第二段階で決まっているはずです。第三段階までやってきて迷っているというのは、サムシング・グレートがあなたの中に入り込んでブレーキをかけているのではないでしょうか。迷っているあなたがサムシング・グレートそのものでもあるのです。
だから、この計画はやめればいいのです。
やめる決断をするにも勇気が要ります。勇気とは、面子や見栄を捨てて自分はどのように非難されてもかまわない、という心境のことです。ですから、やめるというのも立派な決断の一つなのです。

通常、高い目標を明確にもった人なら迷うことはありません。どんなことも即断即決で実行に移していきます。迷いが起こっているのは、目標を見失っているからです。ですから迷っているのなら、進むことをいったんやめて、目標を見つめ直すことです。
なんだ、そんな答えは現実的でない、と感じる方がいるでしょう。
そうです、現実は簡単にやめるわけにいかないことが多いでしょう。右か左のどちらかに進まねばならない場合にどう判断すればいいのか、がもっとも難しいのです。
そんな時は、迷うことなく難しい方の道を選びましょう。
(その理由は、2002年1月号のバイマンスリーワーズ「ことさら難路を歩け」で解説しておりますので、ぜひお読みください)

村上教授はご自身を戒めるように語ります。
「科学者は無知であることを心に留めておくべきです。その中でサムシング・グレートなるものの存在を意識しながら、一歩一歩それに近づいていく。これが科学者なのだと思うのです」
この言葉の中の科学者を「経営者」に置きかえて読むと、新しい発見があるように思います。

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