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バイマンスリーワーズBimonthly Words

君は舟なり 人は水なり

2013年11月

「ゲシュタルト効果」なるものがあります。
ドイツ語で全体性を持った構造のことですが、転じて、
「人間は断片的な情報を与えられると、自分が想像する以上に、
その人物はすごい人ではないかと思う傾向がある」というもの。

衆参両院の国政選挙に圧勝し、成長戦略を次々と打ち出した現政権。
大胆な金融政策に始まった三本の矢はみごとに当たり、
ついに東京オリンピックの誘致にも成功しました。
支持率も高水準で経済界からの期待も大きい。

しかし、アベノミクスの政策が本当に正しいのかどうか…。
消費税の増税によって、景気が失速する危険性も含んでおり、
積極的な拡大政策に打って出るか、もう少し様子を見るべきなのか。
デフレ経済に慣れてしまった経営者にインフレに向かう舵取りは難しい。

アドルフ・ヒトラーはごく一般的な政治家でした。
失業の嵐と超インフレによって混乱に陥ったドイツ国民は、
“溺れる者は藁をも掴む”の状態になり独裁者ヒトラーを生み出した。
ファシズムとはこのようにして誕生するのか思うと、そら恐ろしい。

体調不良は無責任な辞め方だと非難された宰相が再選され、
半年やそこらで打ち出す政策が次々とヒットする。
現在の首相はそんなにも有能な政治家だったのか…。
今はゲシュタルト効果で誰も修正できないのかもしれません。

良薬は口に苦くして、病に利あり

「貞観政要」は名君といわれた唐の太宗(李世民)と、太宗を補佐した側近との問答集。
“帝王学の教科書”とも言われ、北条政子や徳川家康も参考にしたといわれます。
側近たちはしばしば皇帝の太宗に「諫言」と呼ばれる耳の痛い発言をし、
太宗はこの側近の耳の痛い発言に積極的に耳を傾けました。

太宗が狩りの途中に雨に遭い、側近の谷那律に尋ねました。
「この着衣、どうすれば雨の浸みとおるのを防ぐことができるか」
「おそれながら、瓦でつくったものであれば雨を防ぐことができましょう」
その心は、そうしばしば狩りなどにお出ましになるな、ということで、
もっと身を入れて政治にあたるように、という意味である。
太宗はこの谷那律の言葉をいたく受け止め、絹五十段と金帯を賜ったという。

人間は自分の耳に心地よいことを言う人物は近づけるが、
嫌なことを言う人物を避けたくなるのが当たり前。
しかし”良薬は口に苦くして病に利あり”。
太宗は諫議大夫という職務をあえて設け、耳を傾けたのです。

ところが、部下の意見に耳を…といっても現実は簡単ではありません。
論理的に矛盾のある、思いつきのような発言は採用できない。
ストレスにまみれた部下の意見は明らかに間違っている。
意見は聞くけれども採用できない内容が少なくない。

そして…判断に迷うこんな経験はないでしょうか。
成績優秀な部下から斬新なアイデアの提案があった。
しかし、どうもこの提案はうまくいかないような気がする。
理由ははっきりしないが、無下に却下もできずどうしたものか…。

何をやるかより、誰がやるか?

「5年後には会社でトップの営業マンになりたいのですが、アドバイスをください。」
『社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった』の著者、香取貴信さんに、
若い営業マンがこんな質問をしました。香取さんのアドバイスはこうでした。
「いい方法がある。君には直属の上司がいるだろう?その上司を3年後にナンバーワンにしてごらん。
するとその2年後に君の順番が回ってくるから。世の中はそうなっているんだよ。」

鼻息が荒く、自分を優先して考えている人には誰も応援しない。
ところが、自分がお世話になっている上司に輝いてもらおうと思って、
一生懸命に仕事をする人なら、周囲の人は放っておかないというわけです。
質問者の人柄に「俺が、俺が」という一面を感じたのでしょう、的確な助言です。

「君は舟なり、人は水なり」
太宗はこの言葉を治世の心構えとしていたらしく、貞観政要では度々引用されています。
~ 君主は舟で、民は水。浮くも沈むも水次第 ~
上司が成功するかどうかは、支えてくれる部下次第といった意味でしょう。

この名言には後半があります。
「水はすなわち舟を載せ、水はすなわち舟を覆す」
君主は民衆に支えられているが、民衆が君主をひっくり返すこともある。
つまり部下は上司を支えるが、部下によっては上司を危うくすることもあるという。

たとえ成績優秀ですばらしい提案をする部下であっても、
自分を優先させるような人物であれば、上司を支えられない。
部下の成長のために、あえて失敗させるならその提案を採用すればいい。
しかし、そのような部下は上司を支えるどころか、足を引っ張りかねない。

あなたが部下の提案に迷うのはその内容ではありません。
その人物に対する信頼感に迷っているのです。
部下には自己中心的な状態からなんとか脱出して欲しいと願う。
しかし、事業を推進するには、何をやるかより、誰がやるか、が重要なのです。

経営者とは、間違いを犯す人間である

人は誰もが心の奥で自分は正しいと思って生きています。
ところがこの「私は正しい」という思い込みが度を過ぎると、
自分が変わるのを嫌い、相手を否定するため、周辺の支援は得られない。
かといって「私は間違っている」と考える人には誰もついてこない。
それではどう考えればいいのか?

若い経営者は経験不足による思い込みや判断ミスが多い。
ならば、経験豊富な年配経営者はミスをしないのかというと、
聞き違いや物忘れが多くなり、過去の成功にこだわる傾向も強い。
こう考えると、経営者とはいかに間違いやすい生き物なのかがわかる。

そう、経営者は「私は間違いを犯す人間である」と素直に認める方がいい。
だからこそ周りの人の智恵と力が必要なのだ、と心の底から願う方がいい。
すると「私が支えなくては…」と思う人が周りに増えていく。
経営者が「私は正しい」と考えること自体が間違いだったのです。

大リーグのイチロー選手が日米通算4000本安打を達成した時のコメントです。
「4000本のヒットを打つには、8000回以上も悔しい思いをしてきた。
それと向き合ってきた。誇れるとしたらそこではないか…」
失敗から目をそらさず成長してきた、彼らしい向上心を感じます。

トップも幹部も、イチロー選手以上に間違いをしてきたでしょう。
間違いを犯した自分と対峙することから逃げてはいけません。
あなたの心の奥に潜んでいた失敗の原因を見つけた時に、
新たな成長への切符を手にすることができるのです。

アメリカの後ろ盾によって維持されている日本経済。
真に正しい方向に導かれているのかどうかは疑わしい。
ひとつ間違えると、何かにひっくり返されるかもしれない。
何が起こるか分からない経営環境。だから、しっかり舵を握っていこう。

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