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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

忍辱の衣

2014年03月

冷凍食品の農薬混入事件で社員が逮捕されたのはショックでした。
事件の背景には、能力によって賃金に差がつく給与体系が導入され、
待遇への不満から犯行に及んだもので、社長は辞任に追い込まれました。
“倍返し”どころか、存続の危機に追い込まれるほどの報復になったわけです。

上司や会社への報復型犯罪は、これまでにもありました。
組織が人の集まりである以上、能力の差、評価の違いは起こります。
問題になるのは、周りの人間と比べて自分の評価や待遇はどうなのか…。
待遇が世間相場より高くても、相対的な不満はあらゆる組織にみられます。

今回の事件、日本人が我慢できなくなっているのも遠因になっています。
長い正座はできないし、洋式トイレの普及で”踏ん張る”機会もなくなりました。
モノが豊かになりすぎて、親から「辛抱しなさい!」と言われることも減ってしまい、
大人も子供も楽を求める癖がつき、総じて我慢できない人間になっています。

『国家の品格』の著者、藤原正彦氏が日本人の我慢力不足について述べています。
「我慢力不足は読書離れの原因である。テレビやマンガなどの映像に比べ、
一つずつ活字を追う作業は我慢力を要するからである。~ 中略 ~
読書離れは、国民の知力崩壊を惹起し、国家の確実な衰退を意味する」

農薬混入事件では、工場の管理体制の不備も指摘されています。
社員が悪事をできないように管理を強化せよ、という論調ですが、
性悪説に基づくような人事政策が、根本的な解決になるとは思えません。
“目には目を、歯には歯を”では、またもや報復の連鎖になるのではないか…。

本当の強さとは 敵に勝つことではない

イギリスの植民地から独立を果たしたインドの指導者マハトマ・ガンジー。
権力に服従せず、幾度も逮捕・投獄されますがそれを甘受しました。
独立運動を暴力で制止する兵士に対して、一切反撃をしない、
逃げもしない、という方針を最後まで貫きました。

「”目には目を”という考えは、全世界の人を盲目にしてしまう」。
独立に必要なのは非暴力であることを見抜いていたガンジーは、
一人の狂信者の凶弾により78年の生涯を終えました。
最期の言葉は「その青年を許せ!」であったという。

一般的な人ならば、辛い仕打ちを受けた時は、
本能的に何らかの反撃や仕返しをするものです。
しかし、誰かが止めなければ報復の連鎖は続きます。
ガンジーは何故、報復の連鎖を止めることができたのか…。

~ 忍辱(にんにく)の衣(ころも) ~
忍辱とはもろもろの侮辱・迫害を忍受して恨まないこと。
忍辱の心があらゆる害悪から身を守るという仏法の教えを、
衣にたとえたもので、「忍辱の袈裟」ともいわれています。

ガンジーは”本当の強さとは何か”を教えています。
それは、敵に勝つことではなく、自分を守る力でもない。
本当の強さとは、馬鹿にされ、罵られ、中傷を浴びたとしても、
何度でも這いあがってくる、”心の強さ”のことをいうのでしょう。
平和的な独立に貢献したガンジーは”忍辱の衣”を纏ったような人でした。

経営には がまんの為所がある

経営者は企業の活動に対して社会的責任を負っています。
図らずも取り返しのつかないような不祥事を起こした場合、
大手企業ならば、トップの辞任で経営陣の禊(みそぎ)は済まされます。

ところが、中小企業ではトップが辞めても問題は解決しないどころか、
“逃げ”だと解釈され、辞任すらさせてもらえない。
そう、中小企業の経営者はあらゆる問題に対し、
逃げられない宿命を背負っています。

後継経営者は、どうしても先代の経営者と比較されます。
順調な運営で当たり前、業績を落とそうものなら非難の嵐。
簡単には認めてもらえないのが後継経営者の”宿命”なのです。

経営には”がまんの為所(しどころ)”があります。
中小企業の経営は楽しむことに価値があり、
ストイックな生き方を勧めている訳ではありません。

しかし”楽”を求めると、楽しむことができない。
地獄とは、楽を求めるから、苦しむ世界。
極楽とは、苦を極め、転じることで楽しむ世界。
がまんの為所とは、苦しみが楽しみに変わる転換点なのです。

辞めることも、逃げることも許されない中小企業の経営者は、
まさに、牢獄にいるような心境の時もあるでしょう。
何度も投獄されたガンジーは、牢獄内である心境に行き着いたという。
「牢獄に繋がれていても、私は自由人である。」と。
忍辱の衣があれば、心は自由自在です。

経営者の敵は「驕り」と「焦り」

大手企業を中心に業績の改善が進み、
日本全体が良くなるような雰囲気が漂っています。
今、登り調子にある経営者の敵は、自分の中の「驕り」です。
そんな「驕り」を冷やしてくれるのが、おかげさまの「感謝の心」。

一方、停滞している経営者の敵は「焦り」です。
焦る心は判断力を鈍化させ、企業の存続にも影響します。
そこで焦る心を抑え、好ましい判断に向かうのが「我慢」です。

~ 禍福は糾(あざな)える縄の如し ~
この世の幸不幸は、交互にやってきます。
苦しい時、何をやってもうまくいかない時がある。
そんな時はジタバタせずに、我慢する力を養えばいい。
いずれやってくる好調期に向けて準備をし、勉強するのがいい。

春になり、土の中でジッとしていた虫たちが蠢くように、
将来の夢や希望のために、我慢力を養うのも大切です。
そうして、景気が上向いてきたらどんな手を打とうか?
逆に、景気が底割れしたらどこへ避難すればいいだろうか…?
経営は、ああしよう、こうしようと未来のことを考えることが楽しい。

心の強さを持っている人を、天は決して見捨てません。
グッと我慢のあなたのことを、きっと誰かが認めています。
そう信じることで、自分の未来を信じることができるでしょう。

経済が順調になるのは結構ですが、その先に戦争があってはなりません。
悲惨な原爆と原発事故を経験した我が国は、本当の意味での強い国。
そんな強い国家が戦争に向かうことにならないように、
私達一人ひとりが強い人にならなくては…。

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