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バイマンスリーワーズBimonthly Words

善悪のつながり

2017年03月

成人の身体に張り巡らされた血管をすべて繋ぐと10万キロ、
それは地球を2周半する長さになるというから驚きです。
栄養を含んだ血液は、心臓から動脈を通じて全身に送られ、
毛細血管をめぐって老廃物と一緒に静脈を通って帰ってきます。

ところがすべての血管がつながっているため、
悪質な物質も全身をかけめぐる恐ろしさがあります。
たとえば毒蛇にほんの少し、手や足を咬まれるだけで、
あっという間に全身に毒が回り、時には命を奪われます。

ネットでつながれた今の世界も似ています。
地球を「巨大な生命体」と見なす考え方があり、
ギリシア神話の女神から「ガイア理論」と呼ばれます。
地球環境問題に取り組む科学者たちが提唱した考え方です。

フェイクニュースと呼ばれる虚偽の情報がネット上で拡散し、
善か悪かの区別なく、瞬時に世界をかけめぐる。
民衆の心はマスコミやネット情報で揺れ動き、
巨大な生命体はバラバラになるのではないか…。

大気汚染や森林破壊の改善は未だに進んでいません。
自然の中で生きる動物は、人類の自然破壊で居場所を失い
人類は過去の悲しい教訓を活かせず、テロや戦争を続けている…。
この地球の健康状態は、非常にまずい状態になっているのではないか。

命を支える三つのつながり

長野県・諏訪中央病院の 鎌田實氏は、医師・作家として有名ですが、
累積赤字4億円を抱えた病院を回復させた経営手腕も光ります。
1歳の時にタクシー運転手の父と病弱な母の養子になりますが、
自分が養子であることは37歳まで知らされませんでした。

大学卒業後、全く縁のない諏訪中央病院に内科医として赴任し、
患者目線に立った「住民と共に作る地域医療」に取り組みました。
39歳で院長に就任し、ぶれない経営方針で16年間黒字経営を続け、
今では全国から患者や研修医が訪れる、先進的な大型病院になりました。

鎌田氏は、人の命について、
「人と人のつながり」
「人と自然のつながり」
「心と体のつながり」の三つの”つながり”で支えられているという。

まず、一般的な例で「人と人のつながり」を考えてみましょう。
家族や親戚、地域の人々、会社の仲間や取引先など、
私たちは、さまざまな人とのつながりの中で、
お互いが支え合って生きています。

ところが、人と人とがうまくいっているうちはいいのですが、
小さなことから関係がこじれると憎しみの対象になります。
時には争いに発展し、対立する関係になってしまう。
助け合いのつながりが、憎しみに変質するのです。

そこで「人と自然のつながり」が大切になります。
人間関係に疲れたら、動物や植物とふれあうのがいい。
海や山など自然の中に身を置けば、命がリフレッシュされる。
人づきあいが苦手な人には欠かせない”つながり”になるでしょう。

三つ目の「心と体のつながり」に他人や自然などの対象はありません。
よって、自分の中で心と体のマネジメントをする必要があります。
心が充実すると体調も良くなり、心が弱くなると体調を崩す。
心と体は密接につながっており、切るに切れない関係にあります。

憎しみは 愛情の裏返しである

鎌田氏の人格が形成された根っこには父親の存在があります。
青森出身の父 岩次郎さんは、東京で運転手として生計を立てます。
心臓病の妻の医療費を捻出し子供を養うのは、それは厳しいものでした。
高3の時、医学部に進学したいと相談すると大反対した岩次郎さんが言った。

「わかった。医者を目指すなら、弱い人、困っている人にやさしい医者になれ。
最期まで患者を支える医者になれ。治らないと患者を見捨てるような医者にはなるな。
ならば許す」
青春の真っ只中、厳しかった条件を呑み込んで医者を目指しました。

しかし、父が示した条件には何度も心が揺れる。
厳しく、いつも怒られた父には反発心もあったが、
運命から逃げず、運命を背負った父のすごさを理解し、
本当に好きになるのには50年かかった、と鎌田氏はいう。

中小企業の後継経営者も同じです。
すごい父だが 素直に同意できない何かがある。
劣等感かライバル心なのか、自分でもよくわからない。
いずれにせよ、良くない感情でつながっているのは確かです。

マザー・テレサは『愛の反対は無関心である』と言い切りました。
愛情の対極にあるのは、憎しみではなく、無関心だという。
強く相手に関心を寄せ、情けを傾けることが愛情であり、
憎しみは愛情の裏返しであり、本質はどちらも同じです。

本当は不安だらけで、何かに頼りたい自分がいた。
「あれだけ嫌な父だったが、この局面ならどうするだろう?
…叶うなら、飛んで行って判断を仰ぎたい」
心の底では尊敬し、愛情をいっぱいもらった父だが… 今はもういない。

父を理解し、好きになるのに鎌田氏は50年かかった。
厳しい指導や叱責は、度を過ぎると憎しみに変わる。
しかし、それが愛情表現であったことに気づかず、
憎しみのつながりを続けるのはもったいない。

時空を超えて、悪は善になり 善が悪になる

父の側にも課題はあります。
後継者に愛情を注ぐのは大いなる善だが、
接し方が悪いのかも知れない、と気づけない。
善なる行為と思っていても、相手によっては悪になる。

ずっと自分は”善”であり、相手が”悪”だと思い込んでいる。
ところが、こんな心のつながりは、なぜかいつも憂鬱だ。
相手の悪にこだわっていると永遠に心を奪われ、
相手の支配下に置かれてしまう。

心と心は時空を超えて、善になったり、悪になったり…。
より深く考え直すと、相手の心は”善”であったことに気づく。
すると「そうか自分が悪かったんだ…」という、深い気づきに至る。
気づいた瞬間、悪の支配下でつながれていた心が一挙に解放されていく。

心と心のつながりは 善できれいなほうがいい。
不平や不満、愚痴や悪口など、悪のつながりはいらない。
~ 善は悪なり 悪は善なり ~
考え方が変わると悪のつながりは、善のつながりに変わるのです。

会社が人間の集まりである限り、
どこかに不平不満、愚痴や悪口はあります。
悪質な感情は組織全体の毛細血管にまで運ばれる。
せめて、善くない心を運ぶ主体者にはならないでおこう。

大都市をくまなく爆撃され、原爆を二つも落とされた日本。
そんな相手に憎しみを抱き続けてもおかしくありません。
しかし、そんな感情を断ち切って敵国と同盟を結び、
戦後復興を成し遂げた先人に頭が下がります。

グローバル化の進展で、世界はネットワークでつながりました。
人類が助け合い、自然と共生できる平和な日がくるのか、
地球全体に毒がまわり、最悪の争いに発展するのか…。
唯一の被爆国日本が平和のバランスを崩してはならない。

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