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バイマンスリーワーズBimonthly Words

月をさす指

2018年09月

【変化球】スライダーのキレ、奥行きをイメージ …
【コントロール】体を開かない、下肢の強化 …
【メンタル】一喜一憂しない、勝利への執念 …
【人間性】感謝、礼儀、思いやり …

二刀流の大リーガー 大谷翔平選手が、
花巻東高校一年の時に立てた目標達成表です。
「ドラフト1位指名8球団」という大目標を掲げ、
ハイレベルな取り組み事項が体系的に書かれています。

この表は「マンダラチャート」と呼ばれ、
元祖は経営コンサルタントの松村寧雄氏です。
仏の世界を体系的に表した マンダラをヒントに、
ビジネス以外の場面でも使えるように開発されました。

表の中心に大目標や解決すべき問題点を置き、
四方八方へ取組み課題や具体的な方法を配置する。
こうすれば、全体と部分の関係性が一目瞭然であり、
プラス発想の案しか出ないため無限の展開ができるという。

私もご縁があって松村先生から直々の指導を受け、
長きに亘り、マンダラのチャートや手帳を愛用しています。
アイデアを整理し、経営の方向性を考える時などに使いますが、
「ところで成果は?」と問われると、身の置きどころがありません。

ドラフト1位の日本で結果を残し、大リーグでも大活躍する大谷選手。
超人的な結果を出す人間と、我々凡人ではいったい何が違うのか?

マンダラはヒント 真理の表現ではない

マンダラは九世紀の初頭、中国に渡った空海が密教と共に持ち帰りました。
当時、仏教の最先端であった 密教とは「秘密仏教」の略称です。
密教の最高の真理を言葉や文字で伝えるのは不可能なので、
図像なら可能であることからマンダラが作られたという。

空海が求めた”密教の真理”とはいったい何だったのか?
それは仏教の祖 釈尊が35歳の時、深い瞑想によって、
ブッダ(目覚めた人)になった”悟り”のことをいいます。
ならば、その”秘密の悟り”がマンダラに表現されているのか?

野球部の監督から教わったという大谷選手のチャートは、
マンダラから図像を省いた枠組みだけになっています。
空っぽの枠の中に自分の考えを埋めていくうちに、
あれをやろう、これもやろうとワクワクしたでしょう。

ここで懸念されるのは、チャートの作成が面白くなると、
作成することが目的になり、そこで終わってしまうことです。
私自身、これまで何度も”作っただけ” をやらかしましたが、
せっかく考えた内容を実行しないまま、自己満足で終わっています。

大谷選手が凡人と違うところはここにあるのでしょう。
その陰で血のにじむような努力があったことが推察されます。
チャートに書かれた 8×8で合計64項目の取り組み事項に対し、
真剣に実践するうちに”悟り”のようなものをつかんだのではないか。

じつは”悟り”の中身については密教なりの解釈があるようですが、
マンダラはあくまで”悟り”を得るためのヒントであって、
悟りの中身は自分の心身で体得する以外にない、という。
空海はいち早くこの本質に気づいたのかも知れません。
(NHKこころの時代「マンダラと生きる」正木晃著 要旨より )

手段に振り回され 目的を見失う

~ 月をさす指 ~ 「指月の法」というブッダの教えがあります。
「わたしが月を指さすときは、指でなく月を見なさい。
言葉(経典)は指にあたり、真理(悟り)が月だ。
言葉にのみ囚われることは、指を見て月を見ないことと同じである」

パソコンやスマホが使えるようになると、
データ作成やソフトを使いこなすのが楽しくなる。
すると、あれも出来ます これもやります、となって、
「指」はうまく動かすが、目的の「月」を見失ってしまう。

政治家になるには選挙に勝たねばなりません。
ところが、選挙戦で資金やエネルギーを使い果たし、
政治家としての能力と時間が発揮されないことは惜しい。
選挙は「指」であって、政治家がめざす「月」ではありません。

会員制による接客販売で成長した 某高級家具店は、
創業者と後継者の間で経営方針が対立し、権力争いに発展。
“家具屋姫”と呼ばれた長女が社長の座を得ましたが業績は低迷。
今では、資本提携も含めた抜本的な経営再建が必要になっています。

「社長の座がもらえないので経営ができない」
こんな後継経営者のグチは、問題のすり替えにすぎない。
経営がしたいなら眼前の部門経営に注力し、結果を出せばいい。
社長の座という「指先」に執着すると、経営という「月」を見失う。

経営に正解はない 経営には真理もない

月をさす「指」を軽視しているのではありません。
上司や監督のアドバイスがあって、今の自分があり、
先人の知恵や教えの上に、私達の生活が成り立っている。
経営の理論にも先人の成功や失敗から得た教訓があるのです。

ところが月をさしているのはあなた以外の人の指。
その人の、その時代においてベストなものであっても、
あなたにとって、その答えが正解である保証はありません。
他人の理論で経営がわかったように感じるのは錯覚にすぎない。

企業の経営に 正解はありません。
他人の指先は気になるでしょうが、
正解か否かは、自分で証明するのです。
そして、経営の世界には真理もありません。
マンダラの中に真理がなかったように、
真理はあなたの心の中にあるのです。

だからこそ「月を観る心」を大切にしたい。
「指」は眼で見るが、「月」は心の目で観るのです。
すると月と自分が一体になり、最後はス~ッと消えていく…。

空海は唐で20年間の修行を積んでから帰国する予定でしたが、
わずか2年で密教の真理をつかんで帰国し、真言宗を広めた。
若くしてマンダラに出会い、大リーグに渡った大谷選手は、
野球の極意をつかんだ”プロ野球界の空海”のようです。

「仏教はシステムです。だから経営に活かしなさい」
こう諭してくださったのが、昨年他界された松村先生でした。
何度もその指の先を見つめてきましたが、肝心の月の姿は未だに遠い。
松村先生を偲びつつ、人生の真理はどこにあるのか…探し求めていきたい。

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