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バイマンスリーワーズBimonthly Words

自分に厳しく 人にやさしく

2023年09月

日本の多くの子供たちには「三つの間」が不足しており、
人間として成長できる“遊び”の機会が失われているという。
塾や習い事で遊ぶ「時間」がなく、公園など遊ぶ「空間」も減り、
結果として遊ぶ「仲間」が減ってしまって…なんとも寂しい限りです。

古来、子供たちは物心がつくと次の「三つの間」を教わってきました。
 時間 … 時間を守ること
 空間 … 空間を清め、掃除をすること
 人間(じんかん) … 人に対して挨拶をし、丁寧な言葉遣いをすること

学校の授業やクラブ活動で「5分前精神」を教わり、
自分たちが活動する場所は自分たちで掃除をして整える。
そして自ら進んで挨拶をし、呼ばれたら「ハイ!」と返事する。
戦前・戦後を通じて、多くの学校で行われてきた日本的な教育です。

時間、空間、人間(じんかん)という三つの間に重点を置いた教育方針は、
明治以降の教育界で最大の人物とされる 森信三氏の影響が大きい。
森氏は人間形成の原点は「躾」にあるとして、“躾の三原則”を提唱。
「時を守り 場を清め 礼を正す」の実践を通じて教育改革に尽力しました。

少々軍国主義の再来のような感はありますが、
日本の伝統的な精神文化をみごとに表しています。
そして、この思想は学校の教育現場だけにとどまらず、
“職場再建の三原則”に進化して企業の中にも浸透しました。

「やらせる」「やらされる」の関係は最悪の組織風土を生む

それは、整理・整頓・清掃・清潔・躾の5S運動となって、
製造業や建設業などの現場で大きな成果を挙げました。
品質力で世界的に評価される日本企業の底辺を、
“職場再建の三原則”が支えていたわけです。

ところが5S運動の手法はよくできているのですが、
経営者が、社員に「やらせる」という姿勢で導入すると、
5S運動は失敗し、逆にこれまでよりも悪い結果になります。
社員が納得していないため、「やらされる」ことになるからです。

そこで注意したいのが、経営者にも「時間」「空間」「人間」があって、
この三つの間を意識した行動が求められていることです。

まず、「時間」については、経営者が開始時間を守るのは当然ですが、
会議などの会合を無理に引っ張り、終了時刻を遅らせていないか。
相手を尊重し、大切な時間を奪ってはならないはずなのに、
指導という名目でダラダラと説教を続ける経営者もいます。

次に、「空間」を清める掃除を他人任せにしていないでしょうか。
社員と経営者が一緒に掃除をしている姿は美しいものですが、
経営者が掃除の現場にいない、清掃作業を業者に丸投げする、
生産性を上げるという理由でお掃除ロボットに任せるのもどうか…。

一代で中古車販売の大手に成長したビッグモーターが、
その裏で損害保険金の水増し請求をしていた問題。
トップは不正について知らなかったとのことですが、
過剰なノルマを達成するために不正が横行していたという。

納得できない仕事でも「やらされる」意識で取り組んでいたのか、
真相究明はこれからですが不正がまかり通る風土になっていたようです。

自らに厳しい人ほど 人にやさしくなれる

プライム市場に上場する イエローハットの創業者、鍵山秀三郎さんは、
事業の盛衰を何度も経験し、ぶれない経営を続けた名経営者です。
「凡事徹底」が信条で、率先して素手でトイレ掃除を続け、
人の心と社風を大切にした「教育者」ともいえます。

じつは鍵山さんは掃除を続けていても、何度もやめたくなったという。
掃除で売上げが上がるわけでなく、周りの社員は理解しないし、動かない。
普通なら周囲への不満や愚痴が溜まり、良くない感情が顔に出るところです。
ところが、鍵山さんはそんな表情を一切見せず、いつも笑顔を絶やさなかった。

問題の原因を他人にすり替え、不満をこぼす人に人徳はない。
鍵山さんの心の中には、他者への不満や愚痴もあったでしょう。
しかし、他者に原因を求めると自分は努力をしないことを知っていた。
鍵山さんは自分の心の弱さを知った上で、笑顔を貫いたのではないか…。

鍵山さんはいう。
「自らに厳しい人ほど、人にやさしくなれる。
 そして厳しいことをやってきた人ほど、小さな喜びを大きく感ずる。
 ~ 自分に厳しく 人にやさしく ~ 」

同じようなカーアフターマーケットに関わる経営者ですが、
自ら汚れ役を引き受け、自責型の姿勢を貫く経営者が存在する一方、
自分は手をつけず、権力によって部下にやらせる他責型の経営者もいる。
しかし、人の心とは弱いもので、いつどこで反対側に転ずるかわかりません。

経営者は「天国と地獄の間」を生きている

経営者の三つめの間、「人間(じんかん)」は、“リーダーシップ”になります。
権力でやらせるのは強権政治でありリーダーシップではない。
人事評価や昇進昇格など仕組みで人を動かすことでもない。
経営者の人間(じんかん)は、「人徳を磨く」ことに尽きるでしょう。

人徳とは周りから信頼される能力のことで、
仕事を丸投げし、責任放棄をすると高まらない。
汚れ役から逃げる経営者には誰もついてこないし、
結果として人徳からは縁遠い経営人生になるでしょう。

そして、経営者は天国と地獄の間を生きている、
ひとりの「人間」であることも忘れてはなりません。
人間とは、堕落することもできるし、悟ることもできる、
そんな間に生きている存在で、いつ地獄に落ちるかもわからない。

組織の頂点に立って権限を握ると「慢心」が生まれやすい。
慢心は周囲の諫言を遠ざけ、時には善悪の判断もつかなくなり、
天空を舞っていた龍が地に落ちていくように下降線をたどります。
順調な時こそ驕ることなく、すべてに感謝できる経営者であって欲しい。

そして、時間・空間・人間(じんかん)は「天地人」の意味でもあり、
これこそが大宇宙の摂理に沿った「三方よし」である。
今後はできる限り環境問題や世界平和にも配慮した、
地球規模の「三方よし経営」も意識したいと思います。

野に咲く花は一所懸命に可憐な花を咲かそうとしています。
咲く時期を間違えず、置かれた場所に不満も言わず、
仲間と繋がりながら適度な距離を保っている。
経営者が野に咲く花から教わることも多い。

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