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バイマンスリーワーズBimonthly Words

平常心是道

2019年03月

~ 健康経営 ~
なんと響きのいい言葉でしょう。
「経営管理」と「健康管理」を統合的に捉え、
企業の業績と社員の健康を両立させる経営手法です。

福利厚生の一環でなく経営者が戦略的に行うもので、
大手企業が先んじていますが中小企業はまさにこれから。
労働時間や仕事空間など、仕組みを改善するアプローチと、
社員個々の身体面だけでなく、精神面の健康もフォローします。

計画的にストレスマネジメントを行い、
社員の心身の病による生産性の低下を予防する。
ブラックと評価されないための意味も見え隠れしますが、
経営者が本格的に「健康経営」に取り組むことは望ましい。

しかし、健康経営の本当の対象者は、経営者ではないだろうか。
社員とその家族を路頭に迷わせてはならないプレッシャー。
取引先や商品の品質に対する責任はとてつもなく重く、
資金繰りが悪化すると、もだえ、苦しむ毎日です。

経営者にかかるストレスは半端ではありません。
精神的に追い込まれ「もうだめだ…」となったその時、
普通の人なら「休む」「転職する」という選択肢があります。
しかし、中小企業の経営者に「休む」「逃げる」の選択はできない。

逃げ場を失うと眠れない夜が続き、心身の病に侵されます。
経営者の場合、それは経営の意思決定に大きく影響し、
社員の健康、会社の健康にも影響を及ぼします。
経営者に健康経営のスポットは当たらないのか…。

心は川上 体は川下だ

強い精神力で病を克服し、実業界で君臨した後に思想家となった中村天風。
東郷平八郎、宰相の原敬、ロックフェラー3世などに大きな影響を与えました。
経営者では松下幸之助や、稲盛和夫氏、永守重信氏らがその哲学に共感し、
最近では大リーグの大谷翔平選手がその著書を熟読しているという。

天風は30歳で悪性の肺結核を患い、救いを求めて欧米に渡りましたが、
帰途に偶然出会ったヨガの大聖人に教えを受け、新天地を開きます。
帰国後、ヨガの教えと自らの体験を「心身統一法」としてまとめ、
一切の社会的身分や財産を放棄し、この教えを世に広めました。

天風はヒマラヤの修行でヨガの師からこう言われます。
「お前は自分の体のことばかり考えておる。
川上のことはそっちのけで、
川下だけを掃除しようとしているのだ」

「心は川上であり、体は川下だ。
いくら川下を掃除しても、
川上から汚いものが流れてくれば、
川がきれいになるはずもない」

天風哲学と心身統一法を実践したおかげで、
心が強くなり病を治した人は数えきれないという。
私自身も仕事がうまくいかず、気持ちが落ち込んだ時に、
その著書『運命を拓く』によって何度も救われました。

それにしても東郷平八郎や宰相の原敬など、
強靭な精神力を持っているはずの人が、
なぜ天風に傾倒していったのか?

経営判断は能力でなく 心の状態で決めている

人は誰でも、強くたくましい心を持っています。
いざという時の”火事場の馬鹿力”はそこから出ます。
ところが、非常に繊細で弱々しい心も持っています。
そう、人の心の中には強い心と弱い心が同居しているのです。

それを証拠に天風自身がこう語っています。
「おれは”世界一強い心の持ち主”だとうぬぼれていた。
しかし、死ぬことを恐れた俺の気持ちが俺の心を弱くした。
だから肺結核が治らなかったのだ」

真に強く、たくましい心を持っている人は、
自分の中に弱い心があることに気づいています。
じつは、人は誰もが強い心と弱い心を両極に持っており、
その間を右に行ったり、左に行ったりしているのが人間です。

的確な経営判断をするには、それなりの能力が必要になります。
タイムリーな情報を集めて本質をつかむ、そんな能力です。
ところが、経営判断を下す最後の場面は、能力ではなく、
経営者の心の状態によって決まっているのが現実です。

心の状態が強過ぎると、強気の判断をすることが当り前になり、
面子やプライドが優先された判断でも誰も止められない。
一方、弱い心が勝っていると不安や恐れが先行し、
判断が先送りされてチャンスを見逃してしまう。

もちろん経営者は自らの能力を高めるために、
日頃から学び、鍛えることを忘れてはなりません。
ところが、経営者の判断は心の状態で決まっています。
さあ、経営者のベストな心の状態とはどういうことなのか…。

雑念や妄想が 心の状態を左右する

~ 平常心(びょうじょうしん)是道(これどう) ~(禅語 無門関)
平常(へいじょう)心 は「緊張せず、普段通りに」との意味ですが、禅の教えは違います。
禅の平常(びょうじょう)心 は「何ものにもとらわれず自分の心に素直であれ」という。
悲しいときは悲しいまま、嬉しいときには嬉しいままで、
“ありのままの自分であれ”という教えです。

ところが、ありのままの自分の上には、
ドロドロとした雑念や妄想が覆っています。
人間関係で傷ついた面子やプライドの雑念や、
将来への不安や恐れという妄想が積もっています。

強い心もあなたであり、弱い心も本来のあなたです。
しかし、雑念や妄想にとらわれているあなたは、
本来のあなたの姿ではありません。

どうでもいい雑念は一掃しましょう。
まつわりついた妄想はバサッ!と切り捨てる。
このようにして心の中を平常の状態に戻すのです。

その方法として京都の禅寺で座禅を組むのもいい。
脚が痛い方には「椅子禅」もあり、誰でもOKです。
東京の台東区谷中にある臨済宗寺院の「全生庵」には、
安倍首相や著名な大企業の経営者が訪れているといいます。

「マインドフルネス」という宗教色のない瞑想法は、
アップルやグーグルなどが社員研修に取り入れています。
もちろん、天風の「心身統一法」に挑戦してみるのもいい。
ベストな心の状態に戻す、あなただけの方法を見つけましょう。

中国の経済が怪しくなってきました。
日本経済にも大きな影響が予想されます。
良い時も、悪い時も、経営者はどっしりと構え、
普段と変わらず、心穏やかな平常心で過ごしていたい。

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