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バイマンスリーワーズBimonthly Words

小人は縁に会って縁を知らず

1996年03月

人事の季節になりました。

大所帯の企業では人事異動の花ざかりで、社員の頭の中は新しく発表された人の異動のことでいっぱいです。また、昇給の時期でもあり、ベア廃止論などよりも自分の給料は果たして上がるのかが彼らにとっての最大の問題なのです。

新卒学生の採用活動も1年前のこの時期から本番に突入します。本来は四回生の秋ぐらいから始めるのが企業の採用活動であるはずなのに、青田買い慣習が年々早まり、人事問題で一番忙しいこの時期に業務が集中するという皮肉な結果になっています。そのため充分な検討が行われないまま、内定出しを急ぐという馬鹿げた現象を招いています。

企業はこれを機会に採用活動のあり方を根本的に見直してはいかがでしょうか。

最近では通年採用制に移行する企業が増えています。4月入社組だけでなく、半年後の10月やそれ以外の通常月にも新卒者を採用しようとする動きです。外国での留学を終えた学生を受け入れたり、新しく事業体を発足することに合わせることが出来るというメリットがあります。秋に入社させ、半年の研修期間を終えた後の4月に正式配属するというやり方でもいいでしょう。

中小企業ではもともと通年採用制でした。ところが「欠員補充型」の採用であるために、多少眼にかなった人でなくても採用を決定してしまいます。それが正社員であっても、アルバイトを採用するような感じです。お互いに充分な検討がないために後になって後悔するというケースが少なくありません。

 

社員一人の生涯賃金が2億とも3億ともいわれるのが日本の中小企業の雇用実態です。大手優良企業のそれは5億円以上といわれます。いずれにしても、人材を採用するには経営者自らの情熱と時間を充分にかけて取り組んでいただきたいと思います。

第一次面接が最大の場面

これからの季節は業界研究会と称する学生向けの企業説明会があちこちで開催されます。あなたが中小企業のトップならぜひともその場に臨んで学生に対して辻説法をしていただきたいと思います。人事担当者に任せっきりではいただけません。

じつは企業説明会であれ、1対1の面接であれ、面接者からすれば会社の‘顔’と会うのです。就職氷河期といわれるために企業側が強気でいても、相手もあなたの会社を観察しているのです。

新卒者に対する企業説明会や、中途採用者の第1回目の面接の場を甘くみてはいけません。経営者自らが若い人の心の奥底に感動を与えるような話が必要なのです。

そこで、今回は企業説明会や、個別の面接の場で経営者は何をどのように話せばいいのか考えてみましょう。

 

① 業界と自社の将来ビジョンを熱く語る

「あなたはなぜ当社に入りたいと思ったのですか?」といった質問を一番にする人がいますがこれは愚の骨頂です。断るつもりで言うのなら分かりますがこの質問では相手は心を閉ざすだけで何も分かりません。こちらが裸にならなくてはなりません。

まずトップであるあなたは面接者に対し、事業に対する考え方や将来構想について開けっぴろげに、そして熱っぽく語るのです。できれば30分から1時間程度、原稿を見ないで語ることです。

これから入社して人生の多くを企業で過ごす彼らは、今の会社に入社するのではありません。あなたが語る自社の将来、特に10年後、20年後の将来構想という「志」についてくるのです。ですからその将来構想には夢がなくてはなりません。社員は面接の場で経営者が話したことを一生覚えているものです。私共がいつも中・長期の経営計画が重要であることを説く理由はこんなところにあるのです。

1時間近くもしつこくしゃべれば相手は何かを話したくてたまらない状態になってくるでしょう。そこで相手に質問をさせるのです。ずれた質問や、待遇面の身勝手な質問ばかりするようでは彼はあなたの会社に合わないと判断すればいいでしょう。あなたが語った将来ビジョンや事業に対する姿勢についてどのように考えるか?どの程度刺激されたか?が相手を判定する物差しなのです。

学生を前に話す場合には、もう一つ工夫が要ります。

彼らは世の中のことや、将来に関する経済的な予測についての見識がありません。ですから業界についての将来展望を納得の出来るように解説してあげることです。経済も生き物ですから業界ごとに浮き沈みがあります。私が学校を卒業した20年程前では金融関係が花形業界でした。その20年前は繊維関連その前は鉄関連と、時代と共に経済のリーダーは代わっていきます。入社の際には花形であった業界に身を投じても、20年も経過すれば自分が実力を発揮できる年代になっていても大変厳しい環境になってしまっていることが多いのです。この事をきちんと教えてあげることが大切です。

 

② 人材育成に対する姿勢を本気で語る

業界や会社の将来性だけでは簡単にあなたの会社に人生を賭けようとはしません。

会社が成長しても自分はそこでやっていけるだろうかという不安があるからです。そこで人材育成に対するあなたの取組み姿勢が相手に与える感動の鍵を握ります。

人材の育成がどれほど大切なことなのか、能力を高め続けなければあなたの人生はどれほど不幸になっていくのかについて充分に理解してもらわなければなりません。勉強することが嫌で社会人になるんだという考えをもった人間もいるでしょう。それでもこれを機会に学ぶ姿勢を持たせることが第一次面接の重要なテーマなのです。

ここで最も大切なことは、口先だけで人材育成を訴えてもダメだということです。中途半端な姿勢ではすぐメッキが剥げてしまいます。つまり、企業業績を高めるための人材育成なのか、当面の業績以上に人材の育成に重きを置いているのか、という経営者としての姿勢です。

「業績を確保しなければ人材の育成などできないじゃないか」と言われる方も多いでしょう。じつはこの考え方が社員から誤解を受ける根本的な原因なのです。金をとるか、人をとるかについての最終的な経営者の判断の違いのことです。

どんな経営者でも人材の育成の重要性は声を高らかに訴えています。しかし、心からそう信じて実行している人と、結局口だけに終始し、かえって社員の反発を買い、業績を落としている経営者も少なくありません。

経営者の人材育成に対する意欲の高さとその本気度合いは何によって判定されるのでしょうか。

社員は経営者にとって最も大切である「お金」と「時間」が自分の成長のために投下された時に初めて感動し、経営者の心意気を自分のものとします。経営者の方も思い切ってお金と時間を投下したことによって、これまで口先だけであった人材育成に対する姿勢が本気に変わっていくものなのです。じつは経営者が教育に対してお金と時間をかける度合が人材育成に対する本気度合なのです。

優秀な学生ならば必ず、「御社の教育システムはどうなっていますか?」といった内容の質問をしてきます。これに対してはダラダラと話すよりも、そこにかける1人当りの時間と投資金額を年間単位で答えればいいのです。

人を育てる情熱の火種を絶やさない

あなたが人材不足を強く感じるなら、若い人材の採用に注力しましょう。数年は固定費が増大し苦しい状態が続くかもしれません。しかし、採用された人材に根気よく接していけばいつしか彼らの若い情熱は具体的な成果となって表われ、必ずやあなたの良きパートナーになってくれます。

その保証はまったくありません。いつまでたっても力がついてこないとか、育てたと思ったら離れてしまったりすることが続くかもしれません。しかし、それでも人を育てるんだという情熱の火種を絶やさないようにすることが人材育成の根本なのです。

ある地方都市で食事をしていたら、その店にこのような貼り紙がしてありました。

  小人は縁に会って縁を知らず、中人は縁に会って縁を活かせず、

  大人は縁に会って縁を活かす

事業は人と会うことから始まるといっても過言ではありません。何かの縁で面接することになった人との場を大切にしましょう。優秀な人材を発掘し、育てるには面接の場でのあなたの立ち居振る舞いがそのスタートなのです。

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