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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

三寒四温

1997年03月

今年の桜前線の上昇は例年に比べて相当早くなるそうです。「我が家に春が・・・」という言葉があるように、春が早くやってくるのはうれしいものです。4月になれば学校や職場には、期待と喜び、そしてちょっぴりの不安で胸を膨らませた新しい顔があふれます。ちょっぴりの不安というのは人々が新しいテーマに取り組むからでしょう。そこには、ほのかな暖かさの中にもキリッと引き締まったものを感じます。

今の日本経済を気候に例えるなら春の一歩手前の三寒四温といったところでしょうか。(三寒三温という表現があるのなら本当はその方が妥当なのかもしれません。)三日ほどのキリッとした寒さと四日ほどのほのかな暖かさを繰り返していくこの気候は、不安定ながら春を迎えるのにどうしても通らねばなりません。

経営環境の「寒」

先日経済企画庁より、平成8年の10月から12月の国内総生産(GDP)の実質成長率が年率に換算して3.9%を記録したというデータが発表されました。ところが喜びもつかの間で、4月から消費税率が5%に引き上げられ、なおかつ所得税の特別減税が廃止されることになります。これで消費マインドが一時冷えてしまい、少し温かい日が続いただけで冬に引き戻されることになりそうです。長い冬にならないことを願うばかりですが、消費税率が上がるたびに景気上昇にブレーキが掛かるとなると困ったものです。民間のシンクタンクである矢野経済研究所の予測によると、2005年には消費税率が10%にまでなるとしています。この予測は、これから10年近くは三寒四温の経済が続き、その中で経営者は不安定な経営を余儀なくされていることを示唆しているようです。なんとなく寒い話です。

野村証券がまたもや不祥事を起こし証券界が大きく揺れています。証券取引法で禁止されている一任勘定による不正資金運用が発覚し、社長の退陣にまで及んだ今回の事件の本質はいったい何なのでしょうか。もしこの事件の背景に、日本版ビッグバン(大爆発の意で金融制度の大幅な改革のことを指す)を断行するがための布石の意味があるとすれば、証券界を先頭にして銀行・信金・生損保に対しても本格的なメスを入れるための序曲ということも考えられます。もしそうならば、4月を過ぎて銀行の決算内容が発表される頃から金融界に大寒波が襲うことになり、証券会社や銀行・信金には再編の波が押し寄せ、淘汰も避けられないでしょう。生保・損保業界は生き残りをかけた競争が激化し、大混乱となるでしょう。これも実に寒い話です。

京都の呉服界では業界の地盤沈下がマスコミで大きく取り上げられるほど倒産件数が急増しています。呉服業界は取引が複雑に絡み合っているために、いつどこで不良債権を掴んでしまうかわかりません。業界内のある社長は、「地雷の仕掛けてある戦場の中を目隠しをして歩いているようだ」と語っていました。呉服に限らず、婦人服や宝飾品の一般流通小売業でも倒産が相次いでいます。これまで小売業の倒産といえば中小企業と決まっていましたが、専門店では鈴屋やココ山岡といった大手チェーンにまで及んでいます。一方、専門店の倒産を尻目にジャスコや西友といった大手量販店では高水準の出店競争を展開しています。しかし、小売段階で出店競争が行われると、その反動による倒産や店舗閉鎖が加速度的に増えていきます。このように多くの業界で再編・淘汰が進んでいます。これもまたまた寒い話です。

中小企業には「暖」

寒さばかりのようですが、中小企業には暖かい風が吹いているのがわかります。
大蔵省が未公開の中小企業でも自社株を公開会社のように証券会社を通じて売り出せるような規制緩和策を打ち出しました。これは私募の扱いとなるために一年間で五億円未満の発行に制限されていますが、うまく手続きが出来れば中小企業にとっては絶好の資金調達手段になります。特殊な技術を持っているベンチャー企業や、ユニークな経営を行っている中小企業が一挙に成長できるチャンスとなります。暖かい話です。

就職協定が廃止になり、採用活動の自由化が進んでいます。
これによって企業側は独自の活動が可能になりますが、何といっても学生側の動きが中小企業にとっては魅力です。不景気になると“寄らば大樹の陰”式に大企業や
金融関係に学生の人気が集中しましたが、その様相は変わってきました。大企業や金融界に就職した父親や先輩が、リストラで苦しんでいるのをま目の当りに
して、大企業には魅力を感じない学生が増えているのです。それよりも、自分のやっていることがダイレクトに評価される職業に就きたいという自己実現派や、いっそのこと就職活動をしないでボランティアに精を出したいという学生も数多く見受けられるようになりました。このような変化を的確に捉えて、積極的に採用活動を展開する中小企業には優秀な人材が集まってくるでしょう。これも暖かい追い風の話です。

インターネット熱が本格化してきました。
世界的な情報化の波に大きく遅れをとっていた日本では、これまで“おたく族の高いオモチャ”のように見られていたインターネットですが、今年に入ってから大きな変化を遂げています。一昨年にWindows95が発売されてからパソコン普及率が一挙に高まり、インターネット・インフラが整ってきたのです。

インターネットはまさに中小企業のためにあるといっても過言ではありません。販売や新商品に関する情報はもちろんのこと、人材の募集や提携先の確保といった経営に関するあらゆる情報が低コストでタイムリーに受発信できる環境が整ってきたのです。
これなどは暖かいどころか、元気の出る話です。

新しい大波に乗る

1997年の4月というのは歴史的にみても日本が大きな変化を遂げるターニングポイントになりそうです。掛け声ばかりの規制緩和でなく、本当の意味での経済改革が進行していくのか、それともちょうらく凋落の道を一直線に辿るのかという分岐点に、今の日本が立たされているのです。

政府は遅れ馳せながら、バブル崩壊後の後始末にやっと動き出したようです。これまでに打たれた超低金利政策や部分的な規制緩和策は単なる応急措置にすぎませんでした。応急措置ですから後始末が出来ていなかったのです。それは、あの阪神大震災で人命救助などの緊急対応に追われ、壊れた家屋の後始末が後に回されたのと同じです。

残骸の後始末はブルドーザーで押し潰されるように無情にすすめられていきます。それは、長年住み慣れた家であっても容赦なく解体され、捨て去られます。

今年の4月を境にして様々な業界で、自然に、時には意図的にバブル経済の後始末が行われていくでしょう。残骸の後始末には応急措置以上の苦労と痛みが伴うのです。
バブルというのは成長でなく、あくまで「膨張」であり、膨張のつい対にある語は「収縮」なのです。収縮とは引き締まって縮むこととあります。膨張しきった後には爆発するか、収縮するしかありません。日本のバブルは、爆発の一歩手前で止まったために収縮の道を辿ったのです。これからは引き締まりながら縮んでいくしかありません。

引き締まる過程において、余計な脂肪分は燃え尽きて、燃えかすとなって捨て去られていきます。ですから、あなたの会社が余分な脂肪分になって世の中から見捨てられることのないようにしましょう。

春は時節柄ボーッとした日々を過ごしがちになります。ところが、今年の4月はそんなことは言ってられません。組織を筋肉質にしておかないと中小企業の周りに吹いている暖かい風を取り込むことが出来ませんし、少しでも気をゆる弛めると、引き締まる過程の邪魔者としてはじき飛ばされてしまいます。

組織を筋肉質にするためには毎日のトレーニングが不可欠です。もうこれ以上出来ないというほど経営者自身が仕事をし、社員を勇気づけ、様々な訓練を徹底的に行い、新しい息吹を吹き込んでいきましょう。そして逃げ腰にならず、4月からやってくる新しい波に思い切って乗ってみましょう。それが本当の春に近づく第一歩かもしれません。

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