Now Loading

株式会社新経営サービス

Books
出版物

バイマンスリーワーズBimonthly Words

進一歩

2010年03月

中国がGNPで世界第二位に躍り出ることになりました。
その座を奪われた日本の経済界では、暗い話題に絶えません。
自動車業界はリコール問題に揺れ、百貨店やスーパーは閉店ラッシュ。
上場企業の決算が改善傾向にあるようですが、実感はありません。

成長力を失った日本は、本当にダメな国になったのでしょうか。
戦後、奇跡的な経済成長を遂げ、今ではほとんどの人が携帯電話を持ち、
多くの若者が大学まで進学する豊かな国家になりました。
何よりも日本国民は世界一の健康長寿を誇ります。

一方では、一人さびしくこの世を去る老人が増えているのも現実です。
昨年、天皇陛下即位20年の記者会見での皇后陛下の発言です。
「高齢化が常に『問題』としてのみ取り扱われることは少し残念に思います。
90歳、100歳と生きていらした方々を、皆して寿ぐ気持ちも失いたくない、と思います」

高齢者が社会にかける負担が問題として話題になりますが、
私たちは幸せな長寿社会を目指していたのではなかったのか…。
日本には古来より、還暦や古希を迎えた人を祝う習慣がありました。
大切なことを忘れている自分に気づく、価値ある言葉だと感じ入ります。

経済的には世界最高レベルにまで到達しながら、
真の豊かさが実感できず、未来への希望が見出せない。
自ら命を絶つ人が一年で3万人を超えるという現実があるように、
多くの人が、何らかの”行き詰まり”を感じているのは確かです。

新たな高みは、過去の延長線上には存在しない

大リーグのイチロー選手が、262本の世界最多安打を達成した時、
インタビュアーから「次なる目標は何ですか?」と質問を受けました。
彼は、我々が想像したような数字ではなく、意外な言葉でこう答えました。
「もっと野球が上手くなりたいですね。」
イチロー選手は、なぜこのような心境に至ったのでしょうか…。

創業経営者は、売上成長が止まることを極端に嫌います。
年商1億円をめざして始めた事業が、5億、10億と発展すると、
次は50億、そして100億と、その成長意欲は留まることを知りません。

ところが、より高い売上目標を達成し続けても、
心の底から納得できない自分がいることに気がつきます。
「何のために事業を拡大してきたのだろうか…」

経営者にこのような疑問が湧いてくると、事業の停滞が始まります。
自ら設定した事業の目標を追いかけても腹の底から燃えられない。
「これからは何のために事業を拡大していくのか…」
これが、目標を見失った経営者の”行き詰まり”です。

目標の向こうには、経営者が探し求める世界があります。
それは、過去の延長線上とは違うところに存在する、
雲の上の高みのような世界です。

百尺竿頭 進一歩

禅の教えを一つ。

百尺竿頭 進一歩 (百尺竿頭に 一歩を進む)

百尺竿頭とは、長い竿の先のことで、長い修行で至った悟りの極地のたとえです。
しかし、そこに安住していたら何のはたらきも出来ない。
「さらに一歩を進めよ」とは、百尺の竿の先から命をも投げ出し、
衆生の救済へ向かってこそ悟りの意義がある、そんな意味があるようです。

バンクーバーオリンピックで様々な感動を与えてくれた選手たち。
体力と精神の限界へ挑戦を続けた人のみが行き着く”高み”に立ちました。
その高みにおいて「さらに一歩を進めよ」とは、どんな世界への挑戦なのか…。

「陰、極めれば陽となり  陽、極めれば陰となる」
この陰陽の法則は、私たちに一つの解答を用意してくれます。
量的な限界点に行き着くと、質的な変化を起こし、
質的なものを極めていくと、量的な変化が生じる。

ある選手は「後進の指導」にあたることで、より充実した人生を歩むでしょう。
高みのまま現役を続行するイチローは、野球選手の原点に帰ったのです。

~ 量から質への転換 ~
高齢化を迎えた日本は「量的な経済成長」を経て、
「質的に豊かな国家」に変わらなければなりません。
企業の経営者も、量から質への転換点にいると考えた方がいいでしょう。

ここで一つ、勘違いしてはならないことがあります。
量の”極み”に達していない人が、質に転換してもうまくいかないということです。
オリンピック選手は、自己の限界点ギリギリを目指した過酷な練習量を積んできました。
松本清張は自らの限界を知るため、50歳を過ぎてから一週間に7本もの連載を課しました。
行き詰まりを打破した人は皆、自分を極限状態に追い込み、量的な限界点を経験しているのです。

量的に後退しても 質的には前に進んでいる

今は、更なる”高み”を目指して行き詰っている人よりも、
業績不振で負けが込んだ”行き詰まり”の人が圧倒的に多い。
そこへ人間関係の悩み、家族や健康のことなど様々な問題が重なります。
数えで男42歳、女33歳は厄年(大厄)といわれます。
“行き詰まり”とは、それが何歳であれ、厄年のようなものかもしれません。

厄年までは、己の欲望を満たすために生きればいい。
事業に成功したい、経済的に豊かになりたい、有名になりたい…。
そんな欲望が自分自身を動機づける根本のエネルギーになるからです。
しかし、いつか限界がやってきて雲の中に迷い込んでしまいます。

厄年とはジタバタしないで”どんな役も引き受ける年”とも言われます。
頼まれ事、人が嫌がる事、自分にできる役回りを引き受けるうちに、
周りの人に喜ばれる自分の存在に気づくようになります。
厄年を境にして人のために生きる喜びを感じていけばいいのです。

“行き詰まり”の人の中には、ギリギリの状態にいる人も少なくありません。
資金繰りに追われ、大幅な事業縮小で悩んでいる方もあるでしょう。
そんな方は、もう一度原点に帰って考えてみましょう。
店を閉めることは、後退になるのでしょうか?
赤字の事業から撤退するのは、後ろ向きの判断でしょうか?

そうではありません。 勇気ある撤退は、新たな展開へのスタートです。
タイムリーな決断をしないことが、会社を後退させるのです。
量的には後退するようでも、質的には前へ進んでいます。
経営とは、いつも前に進むことなのです。

文字サイズ