バイマンスリーワーズBimonthly Words
情けは人の為ならず
「自分の口から『辞めます』と言えなくて…」
退職代行サービスを利用する若者が増えています。
転職者が増加し、会社側の執拗な引き留めもあるでしょう。
ゴールデンウィーク後に新卒社員からの依頼が殺到したといいます。
採用力を高めるために思い切って初任給を上げ、
多大なるコストと労力をかけて採用した貴重な人材。
だのに…なんて冷酷で、やりきれない結末でしょう…
経営者にとって人を採用し、育てることの難しさを痛感します。
~ 担雪埋井(たんせつまいせい)~ 雪を担いで 井戸を埋める
何度も何度も、繰り返し放り込んでも雪は解け、
井戸は埋まらず、徒労ではないかとつい思ってしまう。
経営者に与えられた仕事は、禅の修行に近いものを感じます。
一方、ハラスメントやメンタル不調で追い詰められた社員には、
退職代行サービスによって命が救われるケースもあります。
周囲の人に気遣いしないで、思い切って再出発した方が、
自分のため、ひいては他者のためになるかも知れません。
確かに最初の会社が自分にピッタリ、は奇跡に近く、
いくつかの職場の経験をして成長する人も少なくない。
「すぐ逃げることを覚えたら、どこへ行っても通用しない」
といった厳しい意見もありますが、必ずしも悪い選択ではありません。
人生の岐路において、自分の都合を優先しても良いものか、
やはり他者の都合や思いを優先すべきなのか、は迷うところです。
「合理的な利他主義」と「利他の心」はどう違う?
経済学者のジャック・アタリ氏は、ユダヤ系のフランス人で、
大統領補佐を経験した“欧州の知性”とも呼ばれています。
「利己主義から利他主義に変わることが利益になる」
といった経営者が注目すべき発言もしています。
「集団に大きな変化が必要な時、
すべては個人が変わることから始まる。
個人の内面が、他者のために生きる利他主義、
つまり“合理的な利他主義”に変わることだ」という。
日本では昔から「利他の心」を大切にしました。
聖徳太子による「和を以って貴しと為す」に始まり、
仏教精神の「自利とは利他をいう」も広く伝わりました。
稲盛和夫氏は「利他の心」を経営に取り入れ、こう語りました。
「より良い仕事をしていくためには、
自分だけのことを考えて判断するのではなく、
まわりの人のことを考え、利他の心に立って判断をすべきです」
ところが、この精神を実践することは簡単ではありません。
仕事をいっぱい抱えている仲間がいても、
見て見ぬふりをしてだまって帰る社員がいる。
自部門の成績を上げることには全力で取り組むが、
他部門のことは全く関心を示さないマネージャーもいる。
人間は本来、自分中心の世界に生きており、
生きていくには自己中心的にならざるを得ません。
しかし個人主義や利己主義では人の心はバラバラになり、
相手を思いやる「利他の心」や「利他主義」が欠かせません。
かといって“自分の利益のための利他主義”という考えが、
“合理的な利他主義”の真意なら、これは違います。
日本には昔から、もっと深くて、もっと広い、
利他の心が生きている「縁(えん)」の世界があります。
縁 (えん)とは縁(よすが)であり縁(えにし)であり縁(ゆかり)である
~ 情けは人の為ならず ~
「他人にかけた情けは自分に返ってくる」という意味で
「情けは人の為ならず。めぐりめぐって己がため」
という言葉から生まれたことわざであるとされています。
ところが最近は本来の意味ではなく、
「相手を甘やかすことになるから、
情けはかけないほうがいい」
と、日本人の半分弱が間違った使い方をしているという。
日本では昔から、世の中は「ご縁でつながる世界」であるとし、
大きな縁(円)の中でお互い助け合うように生きてきました。
よって「情けは人の為ならず」は、他人にかけた情けが、
巡り巡って自分に返ってくると考えていたのです。
自分のこと以上に仲間のことを考える社員。
自分が所属する部門の成績を優先するだけではなく、
他の部門が困っていると、できる限りの支援をする社員。
このような社員が大勢いたら、至福の職場になるでしょう。
今月から「新・経営者大学」が始まりますが、
主宰する責任講師が意気込みを話してくれました。
「経営者の軸である“縁(よすが)”の確立をめざして、
参加者が“縁(えにし)”を大切にするのはこれまで通り。
そこへ過去と未来をつなぐ“縁(ゆかり)”も大切にしたい」
今を共に生きる人との「縁(えにし)」は“ヨコの縁”であり、
過去と未来をつなぐ「縁(ゆかり)」は、“タテの縁”といえます。
「過去の実績に感謝しつつ、新しいことに挑戦したい」という、
ご縁を大切にしている新講師の姿を頼もしく感じた嬉しい話でした。
「ご縁の心」は 広く広く もっと広く
「情けは人の為ならず」の“情け”とは、思いやりのこと。
厳しい指導であっても、部下への思いやりがあれば、
それが愛のムチであることは必ず伝わります。
指導者の思いやりはテクニックではありません。
一方で「情けは人の為ならず」の精神は、
退職代行サービスを利用する人も大切にして欲しい。
落ち着いたらお詫びやお礼の手紙を書くこともできるし、
そんな相手への思いやりが未来の人生で巡ってくるかも知れない。
「ご縁」の思想は、利益が返ってくることを保証していません。
よって契約社会の欧米人が「ご縁」を理解するのは難しい。
日本では、それぞれの人の背後に大きな縁(円)があり、
返ってくる保証はないが、ご縁を大切に生きていきたい。
米国大統領の「アメリカ・ファースト」という政策は、
米国民に対する思いやりであり、結構なことです。
しかし、世界では“合理性を欠く利己主義”になり、
地球規模の紛争に発展しないようにと祈るばかりです。
「茅の輪くぐり」は 夏越の祓の中心的な行事です。
茅で編まれた大きな輪をくぐって半年間の穢れを祓い、
これから迎える夏の厳しい暑さや病気から身を守る神事です。
大きな輪 のご縁(円)に身を投じ、健やかな心を養いましょう。
