バイマンスリーワーズ

ふたつをひとつに

~ ヒューマンエラー ~
飛躍的にテクノロジーが進歩する一方で、
人為的なミスによる事故やトラブルが絶えません。
それはメーカー、建設、医療などすべての業界の問題です。

記憶に新しいのは伊丹空港での手荷物検査のうっかりミス。
係員がX線でナイフを発見したが誤って客に返却してしまった。
手荷物を再検査した影響で32便が欠航、8千人に影響が出ました。
高度な検査機器を駆使しても、一人の小さなミスが大問題に発展します。

医療の現場でもハイテク機器が使われているのに医療事故は減らず、
投薬ミス、患者のとり違えなどのヒューマンエラーが70%を占めます。
それは、新人の無知や経験不足、ベテランでも慣れや気の緩みから発生し、
一歩手前の"ヒヤリ・ハット"は、どの会社でも毎日のように起こっています。

ヒューマンエラーの原因を掘り下げていくと、
コミュニケーションが円滑なら防げた事故がほとんど。
「あの件はどうなった?」「次の仕事を事前に確認しよう」
と、報告・連絡・相談をしておれば大事に至らなかったのです。

ところが「報・連・相」でヒューマンエラーを防ぐには限界を感じます。
AI(人工知能)を搭載したロボットが進化し、主流となる時代に、
人間は人と人とのコミュニケーションで苦しんでいる...。
コミュニケーションの本質とはいったい何なのか?


引っ付いてはいけない いかに近づかないか


日本のロボット工学のパイオニア 森 政弘 教授は、
'75年に「みつめむれつくり」の成果を発表しました。
「みつめむれつくり」とは漢字で「三つ目 群れ作り」で、
前方と左右に三つの目(センサー)を持った7匹のロボットが、
鳥や魚のような群れをつくることから、こう名づけられました。

このロボットは仲間を見つけるとそれを追いかけますが、
お互いに50cm以上は接近しないように設計されています。
ボスのロボットが全体を制御(コントロール)するのではなく、
それぞれが思うように動き、魚や鳥の群れに似た列を作るのです。

正式には「自律分散制御システム」と呼ばれ、
森教授は群れを制御する思想についてこう語ります。
「群れというものは引っ付いてはいけない。
いかに近づかないか、が重要である」(NHKこころの時代「ふたつをひとつに」より)

人と人とが近づくとお互い頼りたくなるもので、
そんな依存心はヒューマンエラーを呼び込みやすい。
野球で野手の間に上がったフライを譲り合いで落とすのは、
近づき過ぎによるエラーであり、心理の奥には依存心があります。

森教授は二足歩行の原理についても興味深い話をされます。
二足歩行のロボットは"倒れる力"で歩いているという。
なるほど、岩のような倒れない物体は歩けないわけで、
人間は"倒れるのを利用して歩いている"ことに気づきます。

そうです、世の中は正反対のものが同居して成り立っています。
刃物は切れる部分と柄の部分があるから切ることができ、
自動車はアクセルとブレーキがついているから走る。
森教授は対立する二つを一つにとらえる考え方を、
「二元性 一原論」と呼んでいます。


技術は「善」にも「悪」にもなる それは依存心も...


いま中国では高度な顔認証システムが発達し、
犯罪者の取り締まりに威力を発揮しているという。
しかし、香港政府が覆面禁止法で監視を強めるように、
使われ方によってはプライバシーも人権も完全に奪われます。

技術はもともと善でも悪でもなく、「無記」と呼ばれる存在で、
応用の仕方によって善にも悪にもなる、と森教授はいう。
これが「二元性 一原論」の意味するところですが、
悪を善に転ずるのも"心の持ち方"次第であり、
制御しすぎると善は悪に変わるといいます。

実際にあった興味深い話があります。
盗みで生計を立てていた泥棒名人が捕まったが、
服役後に泥棒に遭わないノウハウを教えて回ったという。
盗みで培った技術やノウハウを悪用から善用に転じたわけです。

依存心という"人の心"も善にも悪にもなります。
自分自身が動かずに、他者の動きを求める心は、
ヒューマンエラーを招く「悪」になります。
それは、権力が移行する時に発生しやすい。

社長の権限を早く譲って欲しいと後継者が求めても、
望んでいたような回答は簡単には返ってきません。
将来を期待して権限を委譲するつもりであった社長も、
頼りない後継者の言動によって期待は不信に変わっていく...。

この瞬間に世代交代のヒューマンエラーが起こります。
権力者に対する要望も、後継者に対する期待も、
根っこは相手への依存心から起こっています。
それは、叶わぬ恋が憎しみに変わるように、
不信感に変質し、最後は醜い権力争いに発展します。


ふたつをひとつに が成功の秘訣


依存心そのものは善でも悪でもありません。
人間は決して一人で生きていけない存在であり、
他者を信じて頼る心と、自分の力で立つ心があれば、
双方の長所が結集された「善」なる力が働くわけです。

相手に頼る「依存心」、自分で決めて自分で行う「自立心」。
どちらも使い方次第では善にもなるし、悪にもなる。
両極にある"ふたつをひとつに"することで、
初めてものごとが成り立つわけです。

「研究者が成功する秘訣の一つは"柔軟性"であり、
もう一つは真逆の"最後まで諦めない執着心"この二つが必要です」
このたび日本人で27人目のノーベル賞を受賞された 吉野 彰氏も、
柔軟性と執着心の"ふたつをひとつに"することが成功の秘訣だという。

"みつめむれつくり"は組織運営のお手本です。
一人ひとりが自分の判断で自由に行動しているが、
ボスがいなくても周りと調和のとれた行動がとれる...。
まさに自立心と依存心を両極に備えた理想の集団といえます。

森教授は仏教研究家としても情報発信をされています。
「仏教はお釈迦様のイデオロギーではありません。
お釈迦様が発見した天地の道理・真理そのものです。
あらゆるものが仏教に入っているしロボットも入っています」

"人類は近い将来、AI搭載ロボットに支配されるのではないか..."
そんな、杞憂に終わるであろう心配をしておりましたが、
「人類も ロボットも 仏教の中に入っている」
森教授のこの一言で、"ふたつでひとつ"であることに気づき、
今はゆったりとした心境で未来のことを考えています。



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[2019.11]

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