バイマンスリーワーズ

対立しつつ調和する

時は1886年 5月1日。
低賃金で1日12時間以上の労働が当り前だった時代、
米国の労働者が8時間労働を目標にストライキを敢行しました。
これがメーデーの始まりです。

長年の労働運動の成果もあり、今では有給休暇や週休二日制など、
いつ仕事をするのか? と感じるほど大幅に改善されています。
最近は高待遇でも人が採れず、悲鳴をあげる企業が続出し、
経営者は"逆メーデー"を起こしたい心境でしょう。

組織が大きくなると、統率するための制度が必要になります。
それは、働く人の主張が過ぎる内容になると組織の力は弱くなり、
働く人に負担を強いる制度になるとブラック企業の烙印を押されます。
働く側の力と、統率する側の力のバランスを図ることは容易ではありません。

昭和21年 松下電器(現パナソニック)で労働組合が結成されました。
松下幸之助氏はその結成大会へ社長としての祝辞を述べようと、
招かれないまま出向いたが、組合員には容認されない。
場内騒然ののち、ようやく登壇を許され、このように語ります。

「労働組合の誕生を私は心から祝意を表したい。今後は組合から会社に対し、
提案や要望が出てくるだろう。それが国家国民のため、皆さんのためになるなら、
喜んで聞いていこう。けれども聞くべきでないことは聞かない。
そして共々力を合わせて日本の再建に努力していこうではないか」

この祝辞に組合員から割れんばかりの拍手が起こったという。
その晩、大会に出席していた社会党の代議士が松下氏を訪ねて言った。
「私はたくさんの労働組合をつくってきたが、どの組合も経営者の悪口を言い、
経営者も労組の結成式などには出ない。しかし、あなたは敢然と出席し、
満場の拍手喝采を受けた。こんなことはあなたが初めてだ。私は非常に感銘した」


トップと幹部の関係も"対立しつつ 調和する"のがいい


対立するはずの労使関係を、自ら歩み寄った松下氏。
かくして経営の神様となった松下氏はいう。

「労使の関係は"対立しつつ調和する"という姿が望ましい。
つまり、お互いに言うべきは言い、主張すべきは主張する、
というように対立するわけです。しかし、単にそれに終始するのではなく、
一方では受け入れるべきは受け入れる。そして調和をめざしていくということです」

労働組合のない中小企業では、経営の神様の話は応用が必要で、
オーナー企業において、従業員代表となるのが幹部社員。
"対立しつつ調和する"という労使関係のあり方は、
トップと幹部の関係に凝縮されているでしょう。

「優秀な幹部が欲しい!」
中小企業経営者の心からの叫びです。
いかんせん、うちの幹部は自分の考えを持たない。
いや、持っているかもしれないが、表には出しません。

これでは会社が危ない、と外部から招へいしたが... なぜか続かない。
じつはあなたが欲しがっている優秀な幹部は外部にはいません。
真に優秀な幹部とは、あなたと共に失敗と成功を積み重ね、 長所と短所を知り尽くした間柄からしか生まれないのです。

トップと幹部の意見が違っていてもいい。
いや、いつも同じ意見ではかえって危険です。
それぞれがしっかりとした自分なりの意見を持ち、
その意見が"対立しつつ 調和する"ことが望ましい。

松下氏は自分よりも有能な幹部の意見に耳をかたむけ、
価値ある内容は積極的に経営に取り入れたという。
両極で対立し、相容れることが難しい意見を、
経営の神様はどうやって調和させたのか?


幹部の意見には「進言」と「諫言」がある


幹部の意見には二つの種類があります。
一つは、戦略や戦術といった政策の「進言」。
実力がついてきた幹部の意見にじっくり耳を傾け、
最後に「よし、これでいこう」とトップが決断を下す。
自分の意見が採用された幹部は強烈に動機づけされるでしょう。

もう一つの意見が、トップの欠点や過ちを指摘する「諫言」。
誰もが自分に心地よいことを言う人物は近づけますが、
欠点や過ちを指摘される人物は嫌なものです。
諫言を大きな懐で受け入れる... これが非常に難しい。

しかし、"良薬は口に苦くして 病に利あり"。
トップが諫言を飲むか否かで幹部との関係は大きく変わる。
経営の神様のように言うべきは言い、主張すべきは主張しても、
上にいる者が受け入れるべきは受け入れないと、調和はとれません。

幹部がトップに意見をするのも難しいものがあります。
進言ならまだしも、諫言には相当の勇気が必要であり、
相手が嫌がることを承知で、欠点を指摘しなければならない。
いつ切れるか分からない人間関係を、どうやってつなげばいいのか...。

経営の神様はいう。
「調和を前提として対立し、対立を前提として調和してゆく。
こういう考えを基本に持つことがまず肝要だと思います。
そういう態度からは、必ずより良きもの、
より進化したものが生まれてくるに違いありません」

今年、創業100周年を迎えたパナソニック。
ここにも日本独特の"陰陽の思想"が生きていました。
そして、この思想の奥には重要なキーワードが隠れています。
そう、対立と調和が「信頼」の二文字でつながっているのです。


「無条件の信頼」がトップと幹部をつないでいる


トップと幹部の関係は絶対的なものであって欲しい。
何が起こっても崩れない信頼関係であって欲しい。
ところが、納得できない言動をする幹部がいると、
トップの心中は複雑に変化し、不信感すら漂ってくる。

人はなぜ相手のことが信じられなくなるのでしょう?
いや、じつはそうではありません...。
相手のことが信じられない のではなく、
あなたが相手を信じていない のです。

幹部が期待通りの成果を出すかどうかはわかりません。
しかし、どんな失敗をしようとも、幹部の人間性を信じきる...。
それは母と子が「報いを求めない無償の愛」で繋がっているように、
トップと幹部の間には「トップによる無条件の信頼」が欠かせないのです。

「人間性への信頼を失ってはならない。
人間性とは大海のようなものである。
ほんの少し汚れても、海全体が汚れることはない」 ~ マハトマ・ガンジー ~

御所 紫宸殿の前庭で、凛と立つ「左近の桜」と「右近の橘」。
お互いが相手の個性を尊重する、高貴な調和を感じます。
対立しているようですが、それは「一対」であって、
一対だからこそお互いの存在が高まっています。

元々メーデーは労使が休戦し、五月祭を祝う平和な日でした。
来年の5月1日には新しい天皇が即位されることが決定しました。
平和憲法の精神を大切にし、恒久的平和を祈った今上天皇の思いが、
一滴たりとも漏らすことなく遷(うつ)される承継になることを願っています。




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[2018.5]

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