バイマンスリーワーズ

神様が見ている

日本で最も外国人観光客に人気のある場所はどこでしょう?
昨年のそれは4年連続で京都の伏見稲荷大社でした。
全国に約3万社あるといわれる稲荷神社の総本社で、
境内にある千本鳥居をくぐるのがポイントです。

鳥居は一基ごとに企業や個人の名前が記され、
奉納をした人の願いや熱い思いが伝わってきます。
元々、商売繁昌の神様として愛されてきたお稲荷さん。
毎月1日に参拝に訪れる商人にとっては聖地でもあります。

松下幸之助は会社の要所に「根源の社」とよばれる祠(ほこら)を建て、
出光の創業者 出光佐三は「宗像大社」を崇拝しました。
なぜ日本を代表するような経営者が堂々と神を祀り、
本人がいない今でもその習慣が続いているのか?

海外の経営者からすれば、理解できないでしょう。
ビジネスでは政治と宗教の話はタブーとされています。
それでも、多くの経営者が神を崇拝するのは、
日本的経営の謎の一つと言えます。

創業者であり、今も成長している経営者の代表格は、
日本電産の会長兼社長 永守重信氏ではないでしょうか。
決して裕福ではない農家の6人兄弟の末っ子として生まれ、
職業訓練大学校を卒業し、73年に28歳で日本電産を設立。

精密小型モーターのメーカーとして業績を伸ばした後、
M&Aでこれまで57社を買収し、すべて黒字化に成功。
グループで国内外に300社 、従業員10万人を抱える、
世界有数のモーター会社に育て上げ、今も成長を続けています。


神前では「お願い」でなく「決意」を述べる


比叡山の入り口、京都の八瀬にある「九頭竜(くずりゅう)大社」。
永守氏は創業期に手形が不渡りになり「もうあかん 会社を潰そう」と思った。
が、九頭竜大社に相談にすると、「来年の節分に変わる それまで辛抱せよ」という。
すると教えの通り、翌年2月にIBMより200万ドルの注文が舞い込んできた。

以来、永守氏と日本電産にとって九頭竜大社は欠かせない存在になります。
毎月1回は必ず参拝し、おみくじの啓示にも素直に心をかたむける。
ネクタイやコーポレートカラーが「緑」であるのも教祖の教え。

「なんだ、永守さんは神社の指示で経営していたのか...」
そんな批判が聞こえそうですが、ご本人の姿勢にブレはない。

永守氏はいう。
「九頭竜大社で『日本電産の業績を良くして欲しい』といったお願い事は一切しない。
 神前に立ち、心を静め、ただその時々の決意を述べることにしている。
 経営者の大敵は、驕りや慢心である。
 周囲から指摘してもらうのではなく、自らを律し、戒めるしかない。
 月一度、早朝からの参拝は"神様が必ず見ている"と心得る大事な時間だ」
なんと力強い言葉でしょう、理想的な経営者の姿です。

なぜ、永守氏はこんなに強気の精神状態を保っていけるのか...。
大企業は絶好調でしょうが、中小企業の現実は厳しい。
人口減で後継者問題に悩む経営者は増える一方で、
悩みを聞いてもらえる相談相手もいません。

人は成長する過程に、上司や師匠がいると、
厳しい指導があったり、時には勇気もいただける。
ところが、人はトップに立つと傲慢になりやすく、
誰かがいないと、いつか糸の切れた風船になってしまう。

そこでお稲荷さんや、氏神さんにお参りし、打開策の教えを乞う。
しかし、神社に行かなくても、あなたのことを気にかけて、
いつも じーっと見ている存在があるのではないか。
永守氏の"必ず見ている神様"の正体は何なのか?


憎しみが 感謝に変わって 神になる


「経営者としての根幹には、母親の影響が80%くらいあります。
 非常に厳しい母親でしたが、立派な人でした。
 会社を起こそうとした時に最も心配し、反対したのが母親でした。
 どうしてもやるという私に母は『では、人の倍働け』と言いました。
 "すぐやる、必ずやる、出来るまでやる"という会社の三大精神は母の姿勢です」
永守氏の精神を支えていたのは"母親"でした。

人間として自立できるように、
社会人として恥ずかしくないように、
そして職業人として世間のお役に立つように...。
私達は、そんな願いが込められた教育を受けている。

「しっかりせい!」
誰でもビシッと叱られた経験があるでしょう。
「何を迷っているのか!」
核心を突いた、先代や師匠の叱咤の声も聞こえてくる。

厳しい人ほど愛情は深いが、誤解もされやすい。
時には"憎しみ"に近い感情を抱かれることもある。
厳しさも限界を超えると嫌悪感が生まれ、
前向きに生きるエネルギーを奪い、迷いを生む。

さあ、もう一度考えてみましょう。
大声で叱咤され、時に突き放されもした。
未熟な私をどんな思いで教育してくれたか?
私の原点は、その愛情の中にあったと気づいた瞬間...

嫌っていた心、憎しみの心が"感謝の念"に切り替わる。
すると周囲のエネルギーが、ザザーッと自分の中に入り込み、
嫌っていたその人は崇敬の対象となり、あなただけの"神"になる。


あなたの中に あなただけの 神がいる


日本神道は、山や川などの自然や、亡くなった人を敬い、
八百万の神(やおよろずのかみ)を見出しました。
その基本姿勢は"言挙げせぬ 教え"といい、
言葉ではっきり表現しない、とされています。

神社に「社」はあるが、偶像はなく、経典もありません。
本殿中央にある鏡に向かい、自分の心の中を映し出す。
経営に参考書はあってもマニュアルがないように、
神道の教えは、経営のあり方にも通じています。

経営者の心の中は、驕りや慢心、悩みや苦しみなど、
会社の状況次第で、陽になったり、陰になったりの千変万化。
ところが日本の神道は"なんでもあり"の「やおよろず」
どんな心境であっても、懐深く受けとめてくれます。

あなただけの神様は、あなたの驕りを抑制し、
「調子にのるな!」とブレーキ役を買っている。
悩んで落ち込み、停滞しているあなたを見つめて、
「出番ですよ」と後押しする、アクセル役も務めてくれる。

火を使う竈に神がいる。
トイレの中にも神がいる。
そして、あなたの中にも神がいる。
あなただけの神様は、ずうっとあなたの味方です。


「戦争を知っている世代が政治の中枢にいるうちは心配ない。
 平和について議論する必要もない。
 だが、戦争を知らない世代が政治の中枢となったときはとても危ない」
この田中角栄のことばが、現実味を帯びています。 政治家の行為も"神様が見ている"ことに気づいてほしい。




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[2018.3]

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